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無事に2人が逃げ出せた事に、フランは安堵の息を吐き、自身に向かってくる魔物と対峙した。
怖くて、身動き1つとれない。
(怖い…!)
ガタガタと震える体。
『がぁあああ!!』
魔物が突進してくるのを見、身に起きる惨劇を覚悟して、フランはギュッと目をつぶった。
「ーーー守護魔法」
そんなフランの体を、淡いピンクの光が壁となり、防御する。
魔物は光に阻まれ、跳ね返された。
「格好良いね、フラン」
横からひょこっと現れたルナマリアは、杖を片手に、笑顔をフランに向けた。
「ルナマリアー!逃げて無かったの?」
「うん」
(こんな小さな子置いて逃げたら、女神様に呪われそう)
ルナマリアは、今度はそのまま、自分がフランの前に立った。
「ルナマリア、それ…杖…?魔法使いの?」
フランは、ルナマリアの持つ杖を指さした。
『グルルルル!!!!』
話してる間にも、魔物が再度、今度はルナマリアに突進してくる。
ルナマリアは杖をかざすと、白い光の魔法を放ち、突進を妨害する。
「そだよ。私はルナマリアーー魔法使い」
ルナマリアは振り向きながら、フランに告げた。
***
『ねー女神様!なんでルナマリアを追い出しちゃったのー!』
『そーだよー僕達もっとルナマリアと遊びたかったのにー!』
その頃、女神様の神聖なる森では、ルナマリアを追い出した女神様を責めるように、妖精や精霊、神獣達が女神様に詰め寄っていた。
『だぁぁああ!!そなた達がそうして甘やかすからじゃろう!あのままだと堕落人間まっしぐらじゃ!!』
怒って振り払うが、妖精達はめげずに、再度詰め寄る。
『でもー最近は魔物の力が強くなりつつある頃だし、危ないし危険だよ!』
『ルナマリアに何かあったらどーするんだよー?!』
妖精達の言い分に、女神様ははぁ。と溜め息を吐いた。
『何かある訳無かろう』
女神様はそう言うと、自身に用意された椅子に腰掛け、目の前に水で出来た画面を映した。
画面に映るのは、ルナマリア。
***
「破壊魔法」
杖を魔物に向け、魔法の言葉を唱える。
白い光がルナマリアの周りを走りーーー魔物に向かった。
『ぐがぁあああああ!!!』
一瞬で、放った魔法に飲まれ、魔物は消えた。
魔法の衝撃で、ルナマリアの長い髪が靡く。
そのまま無表情で、何事も無かったかのように杖を消すルナマリアを、フランは目を丸くさせて見つめた。
「ルナマリアが…魔法使い!」
***
『わぁー!凄ーい!ルナマリア強いー!』
女神様の出した画像に今度は群がり、魔物を倒したルナマリアに喝采を送る妖精達。
『当然じゃろ。お主達、妖精も精霊も、神獣も神も女神も、揃ってルナマリアに加護を渡すのだから、強くもなるわ』
そう。
ここ、女神様の神聖な森で過ごしたルナマリアは、ここに休息に来た神聖なる者達と触れ合い、仲良くなり、過保護なまでに愛された。
それは、加護を与えられた事になる。
加えて、ルナマリアはこの場所で魔法の練習をしていた。
『本来、ここは人間が過ごすには窮屈な場所じゃ』
傷付いた妖精達の傷を癒す為、魔力を色濃く漂わせている。
それは、普通の人間には、体力に言い換えると、重量の負荷が強く、普段から重しをつけて暮らしているようなもの。
本来が怠け者とは言え、ルナマリアが良く睡眠をとっていたのは、体の疲れを癒すためでもあった。
そんな魔力に負荷をかけた状態での過酷な訓練に、沢山の加護。
『そんなルナマリアが、一介の魔物如きにやられる訳がなかろうーーーあの子は、間違い無く、最強の魔法使いだよ』
女神様はニヤリと微笑んだ。
***
「……」
ルナマリアは、辺りの惨状を見渡した。
破壊された家、吹き飛ばされた田んぼ、何より、湖まで見渡せるようになった、見渡しのよくなった、森。
魔物が破壊したのもあるとは言え、魔法でぶっぱなし過ぎたかも知れない……。
なるべく被害が抑えられるよう、魔物に集中させたつもりだが、少し流れた。
(皆が強いっていうから、ちょっと強めの魔法使ったんだけど…)
悲惨な惨状を目の当たりにし、ダラダラと汗をかく。
(怒られる…!いや、下手すれば弁償…?)
逃げるか。と、一瞬頭を過ぎる。が、すぐに体に何かが体当たりした衝撃が襲った。
『ルナマリアー!!!!』
「うわ!ラフラーレン?!」
急に湖から離れて、自分の元に突進して来たラフラーレンに、ルナマリアは驚いて尻もちをついた。
『ありがとう!魔物を倒してくれたんだね!』
涙を流しながらお礼を言うラフラーレンを見て、ルナマリアは微笑んだ。
「これでラフラーレン、元気になれる?」
『勿論だよ!ルナマリア!』
2人して笑顔で会話しているのを、不思議そうな顔でフランは見つめた。
「えっと…色々ビックリし過ぎて、何が何やらなんだけど……とりあえず、ありがとうルナマリア。この村が助かったのは、ルナマリアのお陰だよ」