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部下とのやり取りを見ている限り、ジュリアスに危険は無い。
寧ろ、人身売買をしていた悪い奴を、ジュリアスが捕らえた事になる。
フランは剣を鞘に直すと、ジュリアスに頭を下げた。
「すまない。俺の早とちりだった」
「全然フラン悪くないよ。絶対、誤解される感じだった。ジュリアスが悪いと思う」
急に街中で男がガラス越しにぶっ飛んで来て、ぶっ飛ばしたであろう相手がイカつい黒ずくめの連中で、急に連れ去って、ジュリアス
は何の弁明もしない。
それは誤解される。
「…相変わらずだな、ルナ」
悪気無く容赦が無い。
「そりゃあ、ルナは元から大人だし」
昔から25歳。足せばあの地点で33歳。
幼少期から大人への変化はあるだろうけど、一旦大人になると、何が画期的な変化でも無い限り、そんなに内面は変化しないだろう。
「ジュリアス、元気そうだね」
「…別に」
ぷいっと顔を背けるジュリアス。
「あはは!何照れてんすか兄貴!この人でしょ?兄貴の言ってた、はつこーーーい、ぐふっ!」
見事にクリーンヒットをみぞおちにくらい、K.Oされる部下。
そのまま、地面にへばりついた。
「だ、大丈夫なのか?君の部下は」
「気にすんな!」
心配になって声をかけるフランに、ジュリアスは顔を真っ赤にしながら怒鳴った。
そんなやり取りを見つつ、ルナマリアは1人、先程のジュリアスの善行を振り返っていた。
(きっと、自分達の人身売買の同業者で、邪魔だと思ったから排除したのね!)
うんうん。と、流石極悪非道残念イケメン男だなーと、また、間違った解釈をした。
(2人…2人か…)
攻略対象に出来るだけ会わない様にしようと心に決めた2時間以内に、2人と出会ってしまった。
「もうなんか、会わないって思う方が会う気がする」
ならいっそ、会っても良いと思う事にしよう。
うん。
てかもう、ここまで来たら会っても良い気がして来た。
ルナマリアは持ち前のポジティブさで、前向きに思い直した。
(何故か2人とも、帰らないし……)
再開の挨拶が終わっても、2人はルナマリアから離れる事が無く、ルナマリアに着いてくる。
(私はこれから宿をとりに行くんだけど)
フランやジュリアス、学園の入学生には、寮が用意されているので、宿を取る必要は無い。
「え、何だろ、怖い……もしかして、人気の無い所で捕まえて、(私を)売り払う気?」
「何を?」
「いつもの独り言だろ」
気付いていないうちに、また思考を呟いてしまっているルナマリアに対して、2人は慣れた様子で、後を追う。
「きゃぁああ!!魔物よー!!」
そのまま、街中を歩いている最中、今度は、アールレンにある大きな屋台や公園もある広場で、街の人達の悲鳴が聞こえた。
「魔物っ?!」
「ちっ。首都は防護術があるから、滅多に魔物は入り込まねぇって聞いてたんだがな」
(うん。外からの魔物は入って来ないけど、下からは来るよ)
何せ地下に魔王城がある。
その事実を知っているのは、今の所ルナマリアだけなので、余計な事は言わないように、ちゃんと心の内で呟く。
フラン、ジュリアス両名は、揃って剣、短剣を抜いて、空を見上げた。
バサッッバサッッ。
大きな羽音をたて、飛来して来るのは、大きな、鳥の魔物の一種。
ルナマリアはその魔物を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「良かった……グリフォンの事は、食べないでいてくれたんだ」
魔物喰いになる瑞月の傍にいたグリフォン、トロンのことを、ルナマリアは心底心配していた。
出会っていない時ならまだしもや、グリフォン、トロンとも、数ヶ月共に過ごし、仲良くなった相手なのだ。
もし食べられていたら、瑞月をまともに見れなくなる所だ。
(お願い……食べるなら、悪い魔物さんだけにして)
ルナマリアはそんな事を心の中で願った。
「はーい!皆、お騒がせしてごめんね!この子はグリフォン。僕の可愛いペットなんだぁ。だから、物騒な物はしまってね」
立派に成長して大きくなったグリフォンの背中から出てきた瑞月は、街の人達にウィンクしながら、笑顔でそう述べると、グリフォンから降りた。
「学園にはちゃんと許可を取ってるんだ。だから、衝突も無く防護術も突破出来たでしょ?」
そう言って、学園の学生証を掲げる瑞月。
だが、魔物への恐怖から、早々信用出来るものでは無い。
まだ、武器を持ち、今にも戦おうとしている者もいる。
「あはは。最初に飛ばし過ぎちゃったかな。グリフォン」
瑞月が名前を呼ぶと、グリフォンの体が光り輝き、その場から消える。
(移動の魔法ーートロンかな)
魅力を使えるトロンは、色々な所へ瞬時に移動出来る力があった。
それを、グリフォンに使用したのだろう。
ザワザワと、まだ辺りは騒がしく、瑞月を見る目は厳しい。
そんな視線に向かい、瑞月はチラリと視線を向けた後、顔を俯かせた。
「ぐすっぐすっ」
急に涙を流す瑞月。
黒い艶やかなウェーブのかかった髪に、潤んだ漆黒の瞳。
幼い顔つきの瑞月は、誰がどこから見ても、美少年。
「ごめんね、僕、僕のペットの可愛さを、皆に知って欲しくて、つい……僕の事、嫌いにならないでくれる……?」
「「「ーー!!!」」」
どうやら、瑞月は自分の可愛さを自覚し、最大限、活用するように成長したようだ。
効果は絶大で、先程まで怖がっていた人も、武器を構えていた人も、男女関係無く、魅力している。
(トロンの魅力の力を使っていなくて、素でしてるのがまた怖い…)
ゲームでは遠慮無く使って、手駒を増やしていっていた。
「な、なぁな、君、可愛いね…良かったら、今晩ーー」
そんな中、不埒な男が、瑞月に邪な目的で近寄る。
「えーどうしようかなー」




