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そう言って、おばさんは部屋を出た。
「……」
窓の方まで行き、外を覗くと、海の匂いがした。
(疲れた……先の事は、後で考えよう……)
体力の無いルナマリアには、海の上で何もしておらず、揺られていただけとはいえ、限界。
レンの元を去り3年。
あれから人型の魔物に遭遇する事は無く、妖精や精霊達の困り事やお願いを聞きながら、いつもの様に旅を続ける日々が続いた。
13歳になり、また少し身長も伸びた。
残念ながら、胸の膨らみはまだ見えないが、いつか成長するはず。
「もう13歳か…」
前世25歳までは、まだかかるが、段々と近付いている。
足せば38歳。
良い大人なのだが、その自覚はあまり無い。
(ゲーム開始まで、後3年)
攻略対象達の年齢から推測するに、ルナマリアが16歳の時に、ヒロイン、攻略対象者が学園に入学する。
その際には、ヒロインや攻略対象の様子を見に、1度学園を覗くつもりではいる。
(何故なら、ちゃんと魔王を倒してくれないと、この世界が滅びちゃうから)
困ったバットエンドである。
(でも、ちゃんと皆、学園に入学出来るだけのスペックはあるし。きっと問題無く入学出来る)
後はヒロインが誰を選び、困難を乗り越え、魔王を倒すか。
「…そう言えば、魔王ルートってどんなんなんだろ…」
隠し攻略キャラである魔王。
最初からクソゲー過ぎて、全くやる気の起きなかったゲームなのに、最後に、攻略対象で全く戦闘で役に立たないレンによってトドメを刺され、ルナマリアは隠しキャラの攻略を放棄した。
なので、魔王ルートだけ未プレイ。
どうせ転生するのなら、きちんとプレイしておけば良かったと、後悔するーー
(ーーいや、無理だな。余命短い私が次のゲームをプレイすることを望むのは当然)
ーーが、すぐに持ち直した。
後悔は無い。
当然の選択だった。
グルルルルルーー。
お腹が鳴る音がする。
「お腹空いたな」
遭難のせいで、お昼を食べ損ねていたことに気付いた。
(どこか食べる場所探そ)
ルナマリアは窓を閉めると、そのまま部屋から出た。
ルナマリアが外に出ると、空はもう真っ暗。
(お店空いてるかな…)
街にもよるが、定食屋などのお店は早くに店じまいをする事が、この世界では多い。
開いているのは、夜は酒場とかになる。
「酒場に行く方が早いか」
この世界では、酒場に未成年の出入りが禁止等の法律は無く、お酒を飲んでも構わない。
ルナマリアは酒場の扉を開けた。
リゾート地なので、酒場も何か違うものなのかもしれない。と、少し身構えていたが、中に入ればいつもの大衆的な酒場の雰囲気で、ホッとする。
未成年が入室しては良いとあるが、それでも、13歳の女の子が1人で行く場所では無く、視線は集まったが、ルナマリアはスルーし、カウンターに腰掛け、壁にかけてあるメニューを見た。
(流石は海辺……海産物のメニューが多い)
外食をする方では無いので、あまり価格設定は分からないが、普通の酒場よりも、リゾート地なだけあって、値段はお高めな印象。
「何食べよっかなー」
「ねーねー、お姉さん1人ぃ?」
「一緒に飲もーよ」
折角なので好きな物を選ぼうと、ワクワクしながらメニューを眺めていると、数席離れたカウンターから、何やら揉めている男女の声が聞こえた。
「えーごめんなさいねぇ。後で連れが来る予定なのよん」
「いーじゃんいーじゃん。お姉さん放ったらかしにしてるような男なんて捨ててさ、俺等と遊ぼーよ」
ナンパ男にしつこく声を掛けられているようで、断っているにも関わらず、隣に座り、お姉さんの腰に手をまわしている。
「絶対満足させるからさぁ」
声をかけられているお姉さんは、とてもグラマラスな、眼鏡をかけた知的美人といった感じで、服装はあらわな素足を出したミニスカートに、大きな胸を強調したタイトなシャツ。
男性からはとても魅力的に感じるだろう。
「なぁ、いーだろ?」
「ふふ。困っちゃうなぁ」
「ーーー嫌がってるんだから、止めてあげなよ」
ちょこんと、お姉さんとナンパ男の側まで来ていたルナマリアは、怪訝そうな表情で、ナンパ男達に注意した。
「あらーー」
そんなルナマリアに、お姉さんは驚いた表情を浮かべた。
「なんだぁお前」
「子供がいちいち大人の会話に口出しするんじゃねーよ……って、良くみたらお嬢ちゃんも可愛い顔してんな」
酔っ払っているのか、ナンパ男達は酒臭く、ルナマリアは顔をしかめた。
「お嬢ちゃんも一緒に飲もーぜ」
ナンパ男の1人がルナマリアの傍まで近寄り、肩に手を回そうとする。
「お断りします」
即答でお断りし、馴れ馴れしく、肩に手を置いて来ようとするナンパ男の手から、ルナマリアは体をよじって避けた。
「えー冷たいーなぁ。いーじゃん?奢るよ?」
ナンパ男達は20代くらいか?
20代が13歳の女の子に声をかけるのは良いのか?
何にせよ、嫌がっているのだから、無理強いするのは良くない。
「執拗い男は嫌われるよ?」
「えーいーじゃん。俺、結構イケてるよー?」
前髪をかきあげながら、流し目を送られる。
「イケてる…?どこが?どこら辺が?」
戸惑うルナマリア。
「えー!俺等いけてんじゃん!男前、でしょ?」
「大丈夫ですか?もしかして目に異常でもある?本気で言っているのなら、眼科への受診をお勧めします」
「「ーへ?」」
真剣な表情で、心配するように声をかけるルナマリアに、ナンパ男達は一瞬、ポカンとした表情を浮かべ、間抜けな声を出した。
「全然格好良く無いし、そもそも、嫌がってる女性を無理に誘おうとしたり、ボディタッチしたり、ほんと勘弁ですし、全くイケてません。勘違いも甚だしいです」
何より、攻略対象でイケメンを見てきたルナマリアには、生半可なイケメンでは認められない。
「自分で男前って豪語する程のレベルでは無いしーー」




