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『僕からしたら海の上で彷徨ってるルナの方にビックリだよ』


この広い大海原の中、小さなボートでポツンと1人、彷徨っている知人を見れば、誰でも驚く。


「ウルミ、海の妖精だったね。ここら辺の海が、ウルミの居場所なんだ」

『うん、そだよ』

一言に海と言っても、範囲は広大。

その中でウルミ、顔見知りの妖精に出会えた事は、ルナマリアにとっては幸運。


「ウルミ、私、迷っちゃった」

『そうだろうね。見たら分かるよ』

平然と答えるルナマリアを、ウルミは少し呆れながら見た。

『僕では岸まで案内出来ないけど、近くに人間が多くいる場所があるから、そこまで送るよ』

「ありがとー」


ぺこりと頭を下げるルナマリア。

ウルミの誘導に従い、風の魔法でボートを進行させる。


『ルナ、こんな無謀な旅続けてたら、いつか死んじゃうよ』

「……そうだよね」


前回の迂闊に果実を食べて毒に当たった時もそうだが、深く考えずに生きて行くのを、いい加減止めなくてはならない。


『いい加減、女神様に怒られるよ』

「気をつけます…」

ルナマリアの事が純粋に心配なウルミは、しっかりと窘め、ルナマリアは素直に反省し、俯いた。



しばらくボートを移動させていると、目の前に、街が見えた。

それは、海の上に浮かぶ街。



「うわー凄ーい」

思わず、声を上げ、街を見渡す。


海の上、街だけが浮かんでいるかのような、どこか神秘的な街。

ボートを近付けると、街の前で、砂浜に当たり止まった。

この街の下一帯だけ、地面が有り、その上に街が出来ている。


ルナマリアはそのままボートを降りた。

足に、冷たい、綺麗な水が触れる。


「……綺麗な場所」

『海の上の楽園って人間達は呼んでるよ』

「ウルミは一緒に行かないの?」


ボートの場所から動こうとせず、街に入ろうとしないウルミに、ルナマリアは振り向き、尋ねた。


『行かないよ。人間は嫌いだし』

ルナマリアも人間なのだが、ここでもルナマリアは例外扱いされる。


『それに、最近、海の魔物の動きが騒がしくて、忙しいんだ』

「魔物?私、手伝うよ」

魔物は人間も妖精も、精霊も、海の生き物達をも、攻撃する。


ルナマリアは街に向かう足を止め、ウルミの方に体の向きを変えるが、それをウルミが制止した。


『いーよ。ルナ、泳げないじゃん』

「ーーあ」

そう。ルナマリアは泳げない。

飛行魔法は使えるが、長時間飛ぶ事は出来ない。

それにも関わらず、あの小さなボートで海に繰り出した無謀さに、呆れ果てる他無い。



『ルナを危険な目に合わせたく無いし、ルナはここで、ちゃんと陸に帰れる手筈を、ちゃんと!危険じゃない方法を見付けて、ちゃんと!帰ること!』

信用が無さすぎて、ちゃんとを3回も繰り返される。

「分かった…」

コクンと頷くルナマリアを見て、ウルミは手を振りながら、海に潜り、消えた。


(泳げない私じゃ、役に立てないよね)

自分でも驚くが、泳げない事を、ウルミに言われるまで失念していた。


前世もカナヅチで、水泳の授業ではいつも先生を困らせていたが、大人になれば自ら望まない限り泳ぐ機会なんて無く。

ルナマリアになってからは、今世は泳げる気がする。と、1度神聖な泉に飛び込み、溺れ(女神様にこっぴどく怒られた)、そこから今まで、泳ぐ事無く過ごして来た。


「ちゃんと、陸に戻らないと」

例え泳げたとしても、船は必須。


泳げないのなら、尚のこと、きちんとした船が必須。

ウルミに言われた事を復唱しつつ、ルナマリアは海の上の楽園に向かい、足を進めた。





正規の入り口とは異なる様で、船着場も無い、ただの海岸。

階段を上り街に上がると、そこは華やかなリゾートの海辺の街。

宿が有り、商店が有り、酒場が有り、ギルドが有り、ヤシの木にはハンモック、パラソルの下にはアイス売り。

心無しか、気温も暑い。


「ギルドもあるんだ」

ギルドがあれば、依頼をこなす事で何とか生活は出来るので、一安心する。


(どうしようかな…)


一旦ギルドに顔を出しておくか、船の運行具合を確認に行くか。

空を見上げれば、日が落ち始めている色。

海で彷徨った事で、大分時間が経った。


(……寝よう)


ルナマリアはどちらも諦め、宿を取る事を決めた。

スタスタと街の宿に向かい足を進める。



大きなリゾート向けのホテルもあったが、手持ち金も少ないので、ルナマリアは小さな民宿の宿を選び、中に入った。


「いらっしゃーい」

中からは明るい元気そうな中年のおばちゃんが笑顔で出迎えてくれる。


「宿、空いてますか?」

「あいよー!良いお部屋空いてるよー!」

宿は空きがある様で、すんなり部屋に案内してくれる。


「お嬢ちゃん、今日この街に来たのかい?良く来れたね。船のチケット中々取れないだろうに」

「やっぱり取れませんか…」

予想はしていたが、ここ海の上の楽園でも、船の運行状態は変わらないらしい。

「1人かい?」

「いえ」


最初は素直に1人で旅をしていると答えていたルナマリアだが、それをすると、13歳の女の子が1人で旅をしているのを心配され、色々ややこしい事にもなった事があるので、最近は守護神獣ファイティンを数に入れる事にしている。


嘘はついていない。

呼び出せば、ファイティンは来てくれる。


「おばさん、船以外で何か陸に戻れる方法は無い?」

「船以外かい?いやー聞いた事は無いねぇ」

2階、角部屋に着くと、ガチャっと、部屋の扉を開ける。


街中の隙間から、小さく海の見える窓。

ベットにテーブル、椅子。

部屋は小さいが、ルナマリアは充分過ぎる程良い部屋だと思った。


「そうですか」

(やっぱり船の再開を待つしか無いか…)


魔物を誰かが退治してくれて、船が製造それれば、再開するーーーが、それはどの位時間がかかるのだろう。


「まぁここは楽しい街だから、ゆっくりして行くといいよ」





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