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「な、なんですのこれは……」
遅れてやってきたミスティアお嬢様は、魔物に襲われた惨状を見て、顔を真っ青に染めた。
「魔物が襲って来てたの」
1人、その場にいたルナマリアは、簡潔に事実を答えた。
破壊された家屋。
傷付いた人達も、レンが避難させたり、自力で隠れたりして今ここにはいないが、複数人いる。
「魔物っ?!ま、まさかーー貴女が倒したの?」
「ええ」
ルナマリアの手には、魔法使いの武器である杖が有り、ミスティアお嬢様はキッと睨み付けた。
「何よ……魔法使いなら、魔物を倒して当然ですわ!」
「結構性格終わってますね」
「黙りなさい!」
僧侶は、普通、戦えない。
魔物が襲って来た時には不向き。
対して魔法使いは、攻撃に特化した者として扱われる事が多い。
「ふん。まぁいいわ。そんな事より、魔物が襲って来たなら、怪我人が沢山出たのでしょう?それなら、私の出番ね」
ミスティアお嬢様はそう言うと、鞄から僧侶の本を取り出した。
「さぁ!早く私の元に頭を下げて、お願いに来なさい!」
「……悪徳の医者みたい……」
高額治療費を踏んだくるタチの悪い医者だなと、ルナマリアは呟いた。
「ルナマリア!」
怪我人、以前ルナマリアが足を治療したゲンさんが、再度足を負傷したようで、ゲンさんを抱えて、レンはルナマリアの元に歩む。
「あら、レン、ゲンさん」
ゲンさんの怪我を見て、上機嫌で笑みを浮かべるミスティアお嬢様。
「ふふ。また足?いーわ。治してさしあげますわ。
ただ、勿論タダでは無くてよ?最近色々と入り用がありますし、いつもより高額になりますが、それでも宜しければーー」
「ルナマリアちゃんーー!本当に申し訳ねぇ!何度も何度も!だが頼む!俺の!俺の足をまた治してくれ!」
ミスティアお嬢様の言葉を遮り、涙ながらにルナマリアに頭を下げるゲンさん。
「な!ちょっと!頭を下げるのはこの私にでしょう?!」
「ちょっとうるせぇな!黙っててくれ!」
自分が完全無視された事に怒るミスティアお嬢様だが、更にそれ所では無いゲンさんに一喝される。
「なっ!わ、私に向かってなんて口の利き方をーー!いーんですの?!私が治さなければ、貴方達なんてーー」
「ルナマリアちゃん!お願い!うちの子も診てやって!」
「うわーん。腕が痛いよぉ!」
次から次へと、ミスティアお嬢様を押し退け、ルナマリアの元に集まる住民。
「うんうん。痛いね。ごめんね、すぐ治すからね」
ルナマリアはそう言うと、杖を頭上にかざした。
「中範囲回復魔法」
そのまま杖を地面に優しく振り落とすと、光が地面伝い、住民達を包む。
「なっなっ!??!」
1人では無く、広範囲に向けて回復魔法を展開する。
そんな魔法に、ミスティアお嬢様は目を見開いた。
「痛くない…!ありがとう!ルナマリアお姉ちゃん!」
「うおー!ありがとう女神様!」
小さな子供も、ゲンさんも、お母さんも、皆の傷が次々と癒え、ルナマリアに感謝の気持ちを伝える。
「う、嘘…」
その治癒の効果は、自分がかける回復魔法よりも、遥かに強力で、綺麗に治されていて。
「な!何でよ!何であんたが回復魔法なんて使えますの?!貴女は!魔法使いでしょう?!」
「?どうして魔法使いは回復魔法を使っちゃいけないの?決まりでもあるの?」
決まりは無い。
ただ、大多数がそうだから、そうだと、思っているだけ。
ルナマリアは魔法で杖を治した。
「こんな……こんな……これが、普通なの?私は……私は……本当に、下手……なの……?」
注意 ルナマリアのような優秀な回復魔法を使える人は普通では無い。
「うん、下手だよ」
ルナマリアの、本物の回復魔法を見て、自分の無力さをやっと痛感出来たのか、ミスティアお嬢様に最初の勢いはもう無かった。
実際ルナマリア程の魔法使いはそういないが、ミスティアお嬢様の実力は他の僧侶と比べても遥かに劣る。
「貴女程の実力しか無いなら、旅に出るのを諦める位には酷い」
冒険の最中、後遺症の残るレベルの回復をされても困る。
「そんな……私は優秀だから……選ばれた存在だから……いつか、アールレンに行って……学園にも、入学出来る筈で……」
「無理だよ。才能が無い」
ハッキリと、ルナマリアは告げた。
「才能が無い…?この私が…?!」
幸運にも、僧侶としての素質を持って産まれた事は事実で、それは才能だったのかもしれない。
「無い。貴女にはーーー努力の才能が、一欠片も無い」
でも彼女は、努力をしてこなかった。
「将来、レンが女に貢がせるクズヒモ男になろうとも、努力しているレンこそが、評価を受けるべきなんだよ」
ざわっ。
唐突なレンに対するルナマリアの言葉に、周りで聞いていた住民達もザワつく。
「ル、ルナマリア?今の所そんな男になる予定は有りませんよ?」
レンは慌てて否定した。
(結局、レンがミスティア家に養子になって、貴女はレンの力で学園に入学するけどね)
ゲーム。未来でも、彼女は自力で入学しなかった。
学園に行きたいと願っても、結局はレンを自分のスケープゴーストに仕上げ、他力本願で、努力をする事を選ばない。
「貴女は学園に入学しない方が良いと思う」
ハッキリと、冷たい事を言っているように聞こえるが、一応、これはルナマリアなりの優しさだった。
(縦髪お嬢様、入学しても、すぐスケープゴーストがバレて、退学になっちゃうんだよね)
一応、優秀な冒険者、才能を育てる学園。
そんな学園をいつまでも騙し続けられる訳が無い。
(マジでモブ中のモブだったな……)
まさかこんな縦髪ロールのお嬢様だったとは、絵のないモブだから、分からなかった事実だ。




