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心優しいレンを目の当たりにする度、目頭が熱くなる。
「ルナマリア?ごめんなさい…怒りすぎましたか?」
目頭を抑えながら黙り込むルナマリアに、心配して声をかけるレン。
「大丈夫……現実を受け入れてるだけだから」
「わ、私はそんなに現実から目を背けたくなるほどきつい事を言ってしまいましたか?!」
実際は自分の世界にワープし、ゲームでの設定と葛藤しているだけなのだが、何も分からないレンは、自分のせいでルナマリアが悲しんでいると思い込み、慌てた様子で、謝罪した。
「ーーーちょっと!!」
「「!」」
以前にもあったように、また、同じ場所で、怒りの籠った声が聞こてきて、振り向いた。
「ミスティアお嬢様」
声の主も、以前と同じ。
以前と違うのは、前も怒っていたが、今の方がもっと不機嫌に見える。
お付のガラの悪い2人組と共に、ズカズカと、レンの家の敷地内に侵入すると、レンの隣にいたルナマリアをキッと睨み付けた。
(この人、見た事あるな……)
「確か……縦髪お嬢様」
「誰が縦髪お嬢様ですか?!」
1度しかエンカウントした事は無いが、インパクトの強いその縦髪クルクルロールの髪型は忘れる事は出来ない。
「ごめんなさい、つい口に……」
「すみませんミスティアお嬢様。ルナマリア、思ってる事を無意識に口に出してしまう癖がありまして……」
「一刻も早く治した方が良い癖でしてよ?!」
深々と頭を下げる2人に、ミスティアお嬢様は大きな声でつっこんだ。
「そんな事より、何ですの?!何をそんなに楽しそうにしていますの?!」
勢い良くレンに詰め寄る。
「えっ、と……?」
レンは何故怒られているのか分からずに、ただただ困惑する。
「母親が大怪我をしている時に、何をそんなに悠長に遊んでいるのかと言っているのですわ!」
「怪我なら治りましたよー」
レンに変わって答えると、は?と、ミスティアお嬢様はルナマリアに目線を変えた。
「治る訳ないでしょう?!私が治していないんだもの!」
「ああ。この町の唯一の僧侶って、貴女の事だったんだ」
ルナマリアは、町の住民達の僧侶に対する悪い話を思い出した。
「そーですわ!その私が治していないのよ?!母親が無事でいれる筈無いじゃない!」
「?私が治したよ」
「はぁ?!」
大きな声を出すミスティアお嬢様に対し、思わず耳を塞ぐ。
「有り得ませんわ!貴女みたいな小娘が僧侶の筈が無いーー私みたいな優秀な!才能あるものこそが、僧侶になれるのですわ!」
ギャンギャン吠えているが、ルナマリアには全く今が分からず、耳を塞ぎながら、首を傾げた。
「どうして回復魔法が貴女だけの専売特許なの?」
ルナマリアは、ミスティアお嬢様と呼ばれる人に、魔法使いだと明かしていない。
なら、治した。と言えば、僧侶だと思われてもおかしくないのに、
彼女の口振りからすると、自分だけが傷を治せる者だと、自分だけが特別だと、主張している。
「確かに珍しいのかもだけど、僧侶も魔法使いも、どこにでもいるよ?」
以前出会った悪徳パーティの中にも、魔法使いや僧侶がいたのだ。
ランプの街にも、在中で僧侶がいたし、冒険者として出会う人達の中には、何人もの僧侶や魔法使いと出会った。
「どうして貴女が優秀なの?」
「……は?」
「悪党パーティの人達にも聞いたけど、私が未熟なのかな…本当に、分からないの」
そして、全ての僧侶や魔法使いには、勿論、実力の差がある。
「はぁ?!私は僧侶でしてよ!?選ばれし存在なの!こんな小さな町で一生を終える程、私は安くありませんわ!」
険しい剣幕で怒鳴るミスティアお嬢様に対し、ルナマリアは終始、真剣に困惑しているように、答えた。
「安価MAXだよ。魔法は雑い、弱い、下手。こんなの、他の僧侶達にも鼻で笑われるLvだけど……流石に本気で、自分が僧侶として優秀って言ってる訳じゃないよね?」
「はぁ?!?!」
彼女の回復魔法を受けたゲンさんの傷は、お世辞にも、治せていない。
ただ、無理矢理傷を塞いだだけ。
「貴女は私が出会ったどの魔法使いよりも、僧侶よりも、下手くそだよ」
ハッキリと答え続けるルナマリア。
そんなルナマリアを、レンも、お付のチンピラ2人組も、あ然と口を開けながらただ見ていた。
「…私が…下手くそ…?」
「はい。これ以上無いくらーー」
「ル、ルナマリア!ちょっと止まりましょう!」
本人に自覚は無いが、次から次へと鋭い攻撃(本音)をぶつけているのを、レンがルナマリアの口を塞いで止めた。
「っぅ!たかだかっっ!一介の冒険者のクセにーー!!」
「それを言われたら元も子も無いんだけど……」
ルナマリア自身、そこら辺を旅をする冒険者の1人に過ぎない。
「私は!選ばれたーー!!!」
この狭い町の中で、たった1人の僧侶として、適正魔力を持って産まれた故か、彼女は何度も、自分は特別だと、選ばれたと口にする。
それが、どれだけ井の中の蛙なのか。
(……分からない……何故、あの実力であそこまで自信満々に出来るのか……)
例えるのならば、幼稚園の子が掛け算が出来たらすごーい。と言われるのだろうけど、高校生が掛け算出来ても、うん。普通だね。え?それで威張るの?。くらいの話。
「……そっか。幼稚園の時に掛け算が出来たから、天才だと思っちゃって、そこから、学ぶ努力をしてこなかったんだね」
「お嬢様、どーします?ちょっと痛い目見せましょーか?」
ミスティアお嬢様のお付の1人が、そう言うと、腰に帯刀していた短剣に手をかけた。
「ルナマリア」
「絶対大丈夫だよ」
レンはその様子を見て、ルナマリアに心配そうに声をかけ、彼女の前に立とうとするが、当のルナマリアは、視線も向けず、手でそれを制止した。
ルナマリアは、本当に優秀な魔法使い。
それは、短い期間だが、傍で過ごしてきたレンも、理解している。




