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「病気は治せませんものね」
回復魔法では、病気は治せない。
第一、医療の発達していないここリアリテでは、病気の治療も、材料に頼った薬が一般的で、薬は高価で貴重な物。
一角兎の髭を材料にした病気の薬なんて、こんな田舎の町に届く筈が無い。
普段の細々とした生活と、普段の母親の治療費ならば、頑張って働いていれば事足りる。
だからこそ、レンはミスティアお嬢様に頼らなかった。
でも、怪我なら違う。
怪我なら、ここでは、唯一の僧侶であるミスティアお嬢様に頼るしか他無い。
「それにしても、随分粘りますわね」
事件を起こしてから今日で1週間が経ったが、まだレンから、ミスティア家の養子にならせて欲しいと泣きついて来ない。
予想では、即、その日にでも、飛び込んで来るものだと思っていた。
自分の家の養子にさせるのは、絶対に逃げられなくする為と、既に知られている、天才的な頭脳の持ち主というレン=カターナの名前を消し去る為。
「まさかだとは思いますが、殺してしまったんじゃないでしょうね?」
ギロリと、ミスティアお嬢様は2人を睨んだ。
「殺してません殺してません!」
慌てて首を横に振る。
「ちゃんと息の根止めないように加減しましたって」
死んでしまえば、治療する事が出来ない。
「ふん。まぁいいですわ。どうせ、最後には泣きついてくるに決まっていますもの」
レンは母親を愛してる。
母親の為ならば、その身を犠牲にすると踏んでいる。
「そう言えば、また新しい宝石を持ってくると、行者が言っていましたわね」
町には定期的に、外部から荷物が届く。
食料やら日用品やら、珍しい物ーー宝石も、ミスティアお嬢様の要望で、届くようになっている。
「ふふ。もっともっとお金が必要ですわ」
そう言うと、僧侶の武器と言える本に触れた。
「ーー?あら、私、最近本に触れていませんでしたわね」
少し本に埃が被っていた事で、久しぶりに本に触れた事に気付いた。
「そー言えばそうっすね」
「部屋でずっと自分のコレクションとながめっ子してましたもんね」
ミスティアお嬢様は、部屋の窓から、ふと、外を見た。
「…?最近、町の住民達が私の所に来ていないのね」
何時もなら、治療のお願いにと、誰かしらが自分の所に頭を下げに来る。
「怪我してないんじゃないっすかー?」
怪我が無ければ、僧侶のミスティアお嬢様の所に来る事は無い。
「はぁ。お金が必要な時なのに、ついておりませんわ」
彼女にとって治療は、ただのお金を稼ぐ為の手段でしかない。
「あはは。お嬢様いつも金金って言ってるじゃないっすーーいてっ!」
「お黙りなさい!」
言い終わる前にお嬢様の投げたピンクのランプが顎を直撃する。
「全く…」
ミスティアお嬢様は、再度、窓から町を見た。
(面白くありませんわ…例え怪我をしていないとは言え、私を蔑ろにするだなんて)
誰のお陰で、この町で怪我をしても無事でいられるのか。
僧侶である私が、この町にいてあげてるお陰!私が、才能を持って産まれてきたお陰!
(いずれこんな町見捨てて出ていきますけど……)
だとしても、自分を放置されていると感じるこの状況が、ミスティアお嬢様には面白くなかった。
「そうだわ。次から治療費をもっと値上げしましょう!」
名案を思い付いたように、口にする。
「いーっすね」
「俺等の給料も上げてくだせーよ」
ミスティアお嬢様の名案に賛同するお付の2人。
「考えておいてあげるわ」
レンにも、ずっと自分のスケープゴーストをさせる為に、高額のお金を踏んだくるつもりでいる。
「ふふ。次はどんな宝石を買おうかしら」
ミスティアお嬢様は気分良さそうに微笑んだ。
「くっしゅん!」
「大丈夫レン?風邪?」
レンの家の庭で、本当に普段通り錬金術の練習をしている2人。
いきなり大きなくしゃみをするレンに、ルナマリアは背後から尋ねた。
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ噂でもされてるのかな」
噂されてるとくしゃみをするって聞いた事がある。
迷信だけど。
「ーー形成します」
呪文を口にし、薬草と薬草を魔力で組み合わせる。
この数週間でだいぶ手馴れた様で、テキパキと錬金術を行うレン。
とっくにルナマリアよりも上手になっている。
薄緑の光とともに現れる、液体の入った、小さな小瓶。
「どうですか?」
レンはそのまま、小瓶をルナマリアに手渡した。
鑑定の魔法を使い、見えるのは、傷薬(小)の文字。
「うん。成功してる」
「!良かった…!」
ルナマリアは、魔法で小型のナイフを取り出すと、そのまま、一筋、腕を傷付けた。
「ちょっ!」
驚くレンを他所に、レンの作成した傷薬(小)を傷付けた腕につけると、傷が綺麗に完治する。
「うん。効力も問題なーー」
「駄目ですよルナマリア!傷なんて、つけないで下さい!」
言葉を過ぎり、レンにしては珍しく大きな声でルナマリアを叱咤すると、そのままルナマリアの腕をとった。
「傷が残ったらどうするんですか……それに、治ったとしても、傷付いた事には変わりありません」
とても悲しい表情で、傷をつけた箇所を見つめるレン。
「ご…ごめんね、レン。効力、確かめた方が良いかなって思って…」
絶対に傷が治る確信があってしたのだが、とても悲しませてしまった事を反省する。
勿論、ルナマリアも痛みは嫌い。
ただ、成果の為に行った。
「駄目ですよ。本当に必要なら、私がしますから、ルナマリアは自分を傷付ける事はしないで下さい」
「…はい」
心から心配しているのが分かる顔。
(ああ……本当……残念でしか無い……)
何故こんなに正統派の優しいイケメンのお兄さんキャラなのに、このまま成長出来ないのか。
高難易度ダンジョンに傷だらけどころか、下手したら死ぬ事になるのもお構い無しに、ヒロインをダンジョンに放り込む男とは思えない!!!




