4
いきなり目の前で頭を抱え、苦悩するルナマリアに、フランは心配そうに声をかけた。
(…うん、でも仕方ない!だって現実問題、ゲームの世界に転生するなんて思う訳ないし、気付かなくても仕方ないよね!)
ルナマリアはポジティブに捉えた。
「頭でも打った…?」
覗き込むように見上げるフランの顔は幼いながら美形そのもの!
「流石キャラデザは満点!!」
(大丈夫だよ!)
「え、何?キャラデザ?」
プチパニックなのか、心の声と発言が逆になる。
「ご、ごめんごめん。ちょっと、気が動転?高揚?してて」
ルナマリアは目の前のフランを見ながら、彼の、ゲームでの設定を思い返した。
名前はフラン=アドリアス。
攻略キャラの1人で、幼い頃、魔物が村を襲撃し、自分一人だけ助かってしまう。という、とてつもなく暗い過去を持ち、魔物への憎しみと、自分1人だけ生き残ってしまった負い目を背負った故の、ネガティブ思考強めキャラ。
戦闘シーンには魔物を前に理性を失い、発狂しながら戦うとゆー誰得?みたいな演出を組み込まれた残念イケメン。
(更には恋愛シーンでも、いちいちネガティブ発言を挟んでくるんだよね)
『僕なんて君には相応しく無いよ………僕は、死んだ方が良いんだ……』
ルナマリアは悲しい目をフランに向けた。
「え?何?怖い怖い」
コロコロと変わるルナマリアの変化に、そろそろフランは恐怖を覚え始めた。
(ゲーム開始時点では、確か16、17歳位?だったかな)
この時点で、ゲームより前の時代だと理解する。
(今は何か、普通の男の子っぽい)
ルナマリアの事を心配するし、顔色も明るいし、何より、いちいちネガティブ発言しない。
「ーーーフラン、お願いがあるの」
「な、何?」
既にルナマリアに1歩引いてるフランは、恐る恐る尋ねた。
「このまま、良い子に育って欲しい」
「え?何目線で?」
初対面の、自分より歳下の女の子に言われる台詞では無い。
相手にするのが怖くなったのか、フランはルナマリアを放って、薬草探しを再開し始めた。
(フランは、ネガティブで戦闘時発狂する残念イケメン男だったけど、確か、剣の腕は一流だった)
魔物への憎しみから剣技を極めた彼は、ヒロインに選ばれると、ヒロインと一緒に魔王を倒す。
(ヒロインが誰を選ぶかは分かんないけど、魔王は倒して貰わないと困る)
魔王を倒さないと、この世界は滅びるというバットエンドが待っている。
(ゲームの世界なら他人事だけど、当事者になってみると、ほんと酷いエンディングを用意してくれてるよね…)
平和で、堕落したぐーたら生活を送る為には、魔王を倒して貰う事は必須。
(うん。今フランに死なれたら困る!)
彼にはヒロインに選ばれた暁には、魔王を倒して貰わないといけないんだから!
トン。と、ルナマリアはフランの肩に触れた。
「フランは皆の希望だよ」
「ーーは?」
全く意味の分からないフランは、いよいよ本格的に恐怖を感じた。
そんなフランの気持ちをよそに、ルナマリアはラフラーレンを助けつつ、フランの事も守らないと!と、無理しない程度で頑張る事を決めた。
「これだけ集めたらもう大丈夫?」
あれから、ルナマリアはフランの薬草摘みを手伝い、彼と共に村に戻った。
「うん。これだけあれば、2、3日は大丈夫そう」
フランは籠いっぱいの薬草を前に、笑顔を浮かべた。
「ありがとうルナマリア。正直、初めは君の事凄い変な奴で、近寄ったら駄目な奴だ。なんて思ったけど」
「わー正直ー」
嘘偽りの無い少年の言葉を、ルナマリアは笑顔で受け止めた。
「ルナマリアも、何が困った事があったら言ってね」
「!なら、皆が困ってる魔物について教えてくれない?」
「魔物…」
フランは悲しい表情を浮かべながら、話し始めた。
魔物は大きな猪のようなもので、牙や爪が鋭く、その巨体では考えられない程、素早いスピードで動き、家や畑だけで無く、人や家畜までも襲う。
「村にはまだ、妖精様の加護があって、深くは入り込んで来ないんだけど……」
度重なる魔物の襲撃に、加護が弱まり、最近は村の中にまで侵入してくるようになった。
(ラフラーレンの加護か)
久しぶりに会ったラフラーレンは弱っているように見えたから、それは事実。
(ラフラーレンに元気になってもらわないと)
ルナマリアはフランにお礼を言うと、家に来ないか?と言うフランの誘いを断り、湖の方に戻った。
「ラフラーレン、戻ったよーーー」
『あ、おかえりルナマリア!』
戻った先には、これでもかとお菓子や飲み物が並んでいた。
「……まだ元気そうだね」
『だって久しぶりにルナマリアに会ったんだもの!元気にもなるよー!!』
その言葉通り、笑顔満点のラフラーレンだが、湖には、先程と同様活気が無い。
「ラフラーレン、1度女神様の所に帰ったら?」
女神様のいるあの神聖な場所は、傷付いた妖精達を癒す場所。
だが、ラフラーレンはルナマリアの提案に、首を横に振った。
『今私がここを離れたら、湖は枯渇しちゃうし、村も、全滅しちゃう……最後まで、ここを守らなきゃ』
その言葉には、ラフラーレンの決意を感じる。
『でもね、私はルナマリアに危険な目にあって欲しくないの』