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次の日の朝ーーー。
「あら、おはようルナマリアちゃん」
「……おはよう……ございます」
レン宅。
1階のリビングで、先に椅子に座っていたレンの母親が、寝ぼけ眼のルナマリアに笑顔で挨拶する。
今日は調子が良いのか、幾分か顔色が良い。
「母さん、起きていて大丈夫なんですか?」
朝食の準備中で、エプロン姿のレンが、心配そうに尋ねる。
「平気よ。本当に、ルナマリアちゃんが来てから、調子が良い日が増えたの」
ルナマリアは衣食住の恩に、こっそりと定期的に、レンの母親に回復魔法をかけている。
病気は治せないが、体力は一定量回復する。
「はい。今日はエッグサンドですよ」
そう言って食卓に並ぶ、レン手作りの卵サンドイッチに、コーンスープに、サラダ。
寝る時間を削り夜勉強し、朝早く起床して朝食の準備をする。
ルナマリアは用意されたサンドイッチを、パクりと口に入れた。
(……何でこんなに頑張り屋なのに、将来ヒモ化するんだろ……)
ゲームスタート時のレンの名前はシン=ミスティア。
ミスティア家に養子として入り、名前を変えた。
彼の悲惨な過去はーーー最愛の母親の死ーーー。
最後まで母親を助ける為に奮闘していて、最終的に母親を助ける為に、ミスティア家の養子になる承諾をし、借金をするも、母親は亡くなってしまう。
その後彼に残ったのは、多額の負債。
借金返済のため、頭脳明晰なシンに目をつけていたミスティアお嬢様のスケープゴーストになる。
名前も変えさせられ、矢面に立つ事を決して許さず、自分の為だけに尽くせと、ミスティアお嬢様の踏み台になる人生。
(そもそも彼女の狙いは、リアリテ学園に入学する事だった)
立派な肩書き目当てなのか、その為に、レンを自分のスケープゴーストにする気で、足繁く何度も通っているのだろう。
(自分の実力で勝負する気が無いなんて、よっぽど自分に自信が無い負け犬なんだなぁ)
それなら初めから、入学なんて試みなければ良いのに。と、思ってしまう。
「ルナマリアちゃん?」
母親の自分を呼ぶ声に、ハッと、考え事から引き戻される。
「美味しいですね、このエッグサンド」
「ふふ。自慢の息子が作った、絶品の品よ」
「母さんってば……」
とても仲の良い親子。
互いが互いを大切に思っているのが伝わる。
最愛の母親の死。
ゲームでは、過去の話として、説明文で流れただけ。
でも、現実に出会ってしまえば、それは、本当に悲しくて仕方が無い。
(本当に……私は無力だな)
過去に出会った攻略対象者達も、誰も救えなかった。
(ルナに病気は治せない)
今回もまた、自分には何も出来ないと、ルナマリアは悲しそうに目を伏せーーー
(ーーうん。それならせめて、レンをとりあえず、今だけでも立派にして、お母さんに安心して貰おう!ヒロインの為にも!)
ーーとりあえず、持ち直した。
パクパクとエッグサンドを口に入れ、スープを飲み干す。
「うん、美味しい」
調子を取り戻したルナマリアを見て、レンも母親も、こっそりと2人で微笑みあったーー。
「ルナマリア、外に出たら危ないーーって、冒険者でしたね、そう言えば」
朝食を終え、いつもの様にギルドの採取の仕事に向かうレンに、ルナマリアは声をかけた。
いつもの場所では無く、向かう先は、町の外。
町の外には、魔物が多くいる。
「うん。ギルドの依頼を受けようと思って」
大きな町では無いので、魔物避けの壁や魔法陣は無く、時折、町に入ってきた魔物の被害に合うようで、ギルドには討伐の依頼も多々あった。
普段、討伐の依頼は受けないが、危険が伴う分、報酬が良い。
スタスタと迷う事無く進む。
「魔物の場所が分かっている……探索魔法を使っていますか?」
「正解」
立ち止まった先には、巨大な花の魔物の姿。
「人喰花ーー小さな花を辺りに咲かせ、近寄ってきた人間や動物を捉え、養分にする。弱点は炎。注意すべきは、花から出る、毒の花粉です」
魔物の姿を見たレンが、即座に種類や特徴を答える。
魔法で杖を出すと、何故か、げっそりした表情をルナマリアは浮かべた。
「……悪夢が蘇りそう……」
「え?」
「大丈夫。ごめん」
気を取り直し、前を向く。
レンが攻略対象と知ってから、つい、情緒が不安定になってしまう。
『キィヤァァァアアアアアア!!!』
甲高い声を上げ、こちらに蔓で攻撃する。
「炎攻撃魔法」
杖の先端から出る炎が、花の魔物を一瞬で、焼き付くす。
『ピコン。ギルド、依頼達成です』
持っているギルドのバッチから、依頼達成の音声が流れた。
採取の時は、実物をギルドに持って行かなければならないが、討伐時は、こうやって音声で教えてくれる、ゲーム使用になっている。
討伐時、魔物を倒した証拠とかどうするのだろう?と疑問に思っていたら、大変便利と感動した。
「さ、ギルドに行こう」
後はギルドで報酬を頂くだけ。
「凄い……本当に素晴らしい魔法使いなんですね、ルナマリアは」
あっという間に魔物を難無く退治するルナマリアに感心する。
町へ戻り、ギルド。
討伐依頼達成を報告に行くと、大変驚かれた上に、嘘だと失笑されたりもしたが、本当だと分かると、深く謝罪され、きちんと報酬が支払われた。
採取の時とは比べ物にならない位、多い通貨。
「はい」
ルナマリアはそれを、そのままレンに手渡した。
「これで暫く働かなくても大丈夫でしょ?これで、錬金術の特訓の時間が増やせるよね」
「え?いや、こんなの受け取れませんよ!」
慌てて通貨の入った袋を、ルナマリアに返そうとするレン。
「何で?錬金術の練習したくない?」
「いや、そーじゃなくて……こんな……私は何もしていないのに、お金だけ貰えません」
「ぐほっ!!!」
「ルナマリア?!」
急に吐血(表現)するルナマリアに、慌てるレン。




