34
ヒョイっと出来あった黄色の結晶を地面に落とすと、バチバチっ!と音がなり、小さく爆発する。
「!これはーー」
先程まで手にしていた薬草や山菜とは、姿、形、性質ーー全く異なる物。
「魔力で色々な物を組み合わせたりしたら、新しい物が作れるから……」
「そ、そんなの、初めて聞きましたけど」
「そーなの?」
ルナマリア自身が苦手な事も有り、旅を初めてから一切形成を使っていなかったが、確かに、外で魔力を使って形成をしてる人を見た事が無い。
(女神様……色々、外での常識教えておいて欲しかったな)
前々から思っていたが、魔法を使える人が希少だったり、今回の形成の事だったり、一般常識的を知らない事が多い。
魔力を使い、材料と材料を組み合わせて、新しい物を作るーーー女神様のいた神聖な場所では、妖精達が良く行っていた行為だから、自然にある物だと思い込んでいた。
魔法だって、妖精や精霊達は少なからず使える。
だから、魔法使いが希少な存在だとは知らなかった。
「魔力を組み合わせる……本当は、何になる筈だったんですか?」
失敗した。と、ルナマリアは言った。
「苦い飲み薬」
薬草の効力と、山菜の素材で形成される物。
昔、女神様の聖なる場所にいた時、転けて怪我をしたルナマリアに、妖精が作ってくれた。
「薬が……作れるんですか?」
「上手くいけばね」
母親の為に持って帰ろうとしていた薬草を無駄にしてしまったのが、申し訳無い。
「私、これ凄い苦手なの」
形成するには、それぞれの材料の特性を完璧に覚え、それらを残すように調整したり、マイナスの部分を薄めたりとか……何せ頭を使うし、一言で言うと、面倒臭い。
女神様曰く、魔力の量が強い魔法使いには不向きだと言われた事もあって、何度か練習したけど、諦めた。
(魔法使いのルナマリアには不向き。だけどーーー)
「ルナマリア、私にこのやり方をーー教えて下さい」
レンは、ルナマリアに向かい、真剣な表情で、頼む。
(ーーーレンなら、得意なんじゃないかな)
頭脳明晰な彼は、全ての種類の薬草を覚えるだけの知識も有り、魔力も、繊細な扱いを必要とする量のみを所持している。
適任だと思った。
物質の形成を組み換える術者ーーー錬金術師に。
* * *
レンの一日は忙しい。
朝早く起きて、母親に変わり朝食の準備をし、洗濯をし、母の看病をしてから、仕事に行き、帰れば夕食を作り、洗い物をし、掃除をし、合間に、勉学に励む。
(立派過ぎて直視出来ない……)
働けない母親に変わり仕事こなし、家事をこなし、自分の睡眠時間を削り、勉強をする。
ぐーたら生活を満喫する事を夢見るルナマリアには、自分の駄目っぷりを自覚してしまう、大変、心痛い存在である。
「ルナマリア、教えて下さい」
更には、ルナマリアに錬金術師となる為の教えを乞うその姿勢に、眩暈がする。
「私、人に教えられる程、得意じゃ無いよ?」
今はルナマリアが居候していて、ギルドからの仕事を手伝っているので、少し時間の余裕が普段よりあるのだろうが、それでも、彼な多忙なのは変わらない。
朝、レンと一緒に洗濯を干している最中、幾度目かの頼み事をされる。
「構いません」
「…うーん」
多忙過ぎるレンの体を労わって断っているのもあるが、正直、得意では無いルナマリアが教えるのも違う気がして、都度断っていた。
(まさか錬金術師がレアだなんて…)
普通に錬金術師がいると思っていたので、その人に師事すれば良いと思っていたのに、まさかいないとは……。
「本当にルナでいーの?私、基本放置ーー見守り系だけど」
以前、ジュリアスに対しても、盗賊の経験など全く無いルナマリアが何も教えられる筈も無く、環境だけ整えて、後はゆっくりお茶をして見守っていたという実績がある。
「構いませんよ」
「じゃあいーよ」
何度も断るのも申し訳無い気になってきた。
「!ありがとうございます!ルナマリア」
パァッと笑顔でお礼を言うレン。
(衣食住お世話になってるし、恩は返さないとね)
洗濯を全て干し終わった後、そのまま外で、椅子に座るレンと、そのレンの前で、普段かけない眼鏡をつけ、白衣を羽織り、指し棒を手に持つルナマリア。
「えっと…ルナマリア、どうしたんですか?その格好?」
「どうせなら教師になりきってみようと思って」
くいっと眼鏡を片手で直す素振りをする。
「錬金術は、材料となる物の性質とかを正しく理解して、調合する際に魔力を加えて、手を加えて、合体させて、完成します」
ルナマリアの前の机には、材料となる薬草が2種。
「レン、この薬草分かる?」
「はい。一般的に用いられる、上草と下草です。効力はーーー」
正解。
鑑定魔法を使い、浮かぶ鑑定結果と全く同じ内容を述べる。
(知識は全く問題無い)
「じゃあ、その2つの薬草に、レンの持つ魔力を与えます」
言われるまま、レンは両の手をそれぞれの薬草にかざす。
「…うん、OK。そのまま、形成をイジれたり出来そう?」
ここからが、繊細な作業の始まりで、難しい。
例えるなら、小さな部品を、1つずつピンセットで組み立てて行くような、緻密なもの。
「やってみます」
素直なレンは、言われた通りに、順序良くこなす。
じっと、ルナマリアは魔力の動きを確認する。
薬草から薬草に、魔力が加わり、形成されているのは、分かる。
(出来てはいる)
でも、ここまで来ると、成功しているのかしていないのか、ルナマリアにも分からない。
「っ、わぁ!」
ドボンっ!と、音とともに、煙が上がる。
「レン、大丈夫?」
驚いて後ろに転けてしまったレンに、ルナマリアはひょこっと顔を覗かせた。
「うん、大丈夫だけど……あ!薬草は?!」
机を見ると、そこには、青い結晶があった。
「爆竹だよ」
残念ながら、失敗。
「そうですか」
だが、当の本人は気にしていない様子で、出来あった青い結晶を手に取ると、笑顔で天にかざした。




