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「な……何よ……これ……」
清香先生も、突然現れた神聖な存在に、ぼう然と、立ちすくむ。
「…神…獣……?」
ルナマリアの言っていた、召喚の言葉を復唱する瑞月。
「神獣…?!神様の…獣?!」
おとぎ話程度でしか聞いた事の無い、幻の、聖なる生き物!
「ファイティン、悪い魔物を殲滅します」
ルナマリアも、魔法で杖を出すと、魔物達に構える。
『了解した。我が主よ』
ルナマリアを囲うように現れたグリフォンは、ルナマリアの命を了承すると、勢い良く魔物達に食らいかかった。
圧倒的な力で、多勢の敵を、打ち破っていく。
「な…う、嘘!嘘!嘘!何これ…何これ?!」
清香先生は、目の前で起きている事が信じられない様に、パニックを起こしていた。
「破壊魔法」
ルナマリアの呪文とともに、光が魔物達を次々と貫通し、絶命させていく。
全ては圧倒的で。
ルナマリアは、汗1つかかず、慌てる事も無く、無表情で、全てを終わらせる。
教室内にいた魔物も、グラウンドにいた魔物も、ファイティンとルナマリアの魔法で、あっという間に倒された。
『ガルルルル!!』
「ひっ!」
厳しい目つきで、目前まで迫るファイティンに、清香先生はその場で尻餅をつき、小さく悲鳴をあげる。
「駄目だよファイティン。人を食べないで」
『こんな不味そうな人間、食べぬわ』
ルナマリアは、清香先生に杖を向けると、捕縛の魔法を唱えた。
光の輪が、清香先生の体を拘束する。
「あ、あ…本当に…神獣?!どうして…どうして、そんな小娘なんかにーー!!」
『我が主を愚弄するな!許さぬぞ!』
「ひぃ!」
萎縮するのも無理は無い。
ファイティンは神聖なるもの達の中でも、神や女神に次ぐ、位の高いものとして知られている。
そんな高貴な存在が、ルナマリアを主と呼び、仕えている。
「ル、ルナマリアって…何者…?」
窮地と思っていた状況は一瞬で覆った。
彼女にとって、あの状況は窮地でもなんでも無かった。
「あーあ……校舎ちょっと壊しちゃった……」
当の本人は、戦闘によって破壊された校舎を気にしていて、1人、落ち込んでいた。
***
翌日ーーー。
『お久しゅうございます。ファイティン様』
『久しいの、神楽』
神楽邸にて、神楽は、両膝をつき、腕を掲げてファイティンに丁寧に挨拶をした。
『ご挨拶が遅れた事、深くお詫び申しあげます』
『う、うむ』
深々と頭を下げる神楽に、ファイティンは引き気味に頷く。
「挨拶が遅れちゃったのは、神楽が烈火の如く怒りまくって、見境をなくしちゃったからだよ」
すぐ側のテーブルにそれぞれ、瑞月、ルナマリア、傍にはグリフォンやトロンの姿。
テーブルから少し離れた場所で挨拶を交わす2人の様子を見ながら、ルナマリアが昨日の出来事を思い返した。
あれから、騒ぎを聞き付け、急ぎ駆け付けた神楽は、騒ぎの原因と元凶を知り、大激怒。
そのままの勢いで和の国を滅ぼしそうな所を、瑞月とルナマリアが必死に宥めた。
『離せ!世にも恐ろしい目に合わせてやるわ!ルナマリアに魔物をけしかけるなど!なんたる罰当たりなーー!!』
『落ち着いて下さい神楽様!』
『止めてよ神楽!ルナ、大丈夫だから!』
それはもう怒りに怒って、どちらかと言うと、ルナマリアには神楽を宥める方が大変だった。
怒り狂った神楽は、自分より位が高いファイティンの事も完全にスルーし、あまりのキレっぷりに、ファイティンも引いていた。
『ほんに、恥ずかしい姿をお見せしてしまい…』
『い、いや、儂は気にしておらぬ』
深々と再度頭を下げる神楽に、ファイティンは優しい言葉をかけたが、実際は、ファイティンは神楽のキレっぷりに若干どころか、かなり引いていた。
結局、神楽は和の国に正式に抗議をし、元凶となる清香先生は、この国では大罪となる、人を傷付ける魔物を手引きした件や、魔物の意思を無視し、無理矢理調教した罪で、無期投獄となった。
その際、全てを失い、絶対的な敗北を叩き付けられた清香先生は、茫然自失状態で、反論も、反抗もしなかった。
「本当にありがとう、ルナマリア」
瑞月は、改めてルナマリアにお礼を告げた。
「ルナマリアのお陰で、僕は、魔物使になる覚悟が出来たし、また、いつも通りの生活が送れるようになった」
瑞月の傍には、先日、魔物使したグリフォンと、トロンの姿。
2匹とも幸せそうに、瑞月の傍にいる。
(全員救えて良かった)
「ね?瑞月は立派な魔物使になったでしょ?」
「立派かどうかは、分かんないけど……そうなるように、努力したいな」
幼ないながらに、覚悟を決めた瑞月の表情に、ルナマリアはバッ!と視線を逸らし、顔を手で隠した。
(めっちゃ良い奴なのに、何で魔物喰になるのーー!??!!)
「ど、どうしたの?!」
急なルナマリアの態度に困惑する瑞月。
「大丈夫。未来予想図に私がついていけないだけだから」
「未来…予想図…?」
全く意味が分からないが、スルースキルを手に入れた瑞月は深く追求しなかった。
「…ね、ルナマリア」
「ん?」
そっと、ルナマリアの手を握ると、自分の頬に持っていく。
「僕、ルナマリアと一緒に、学校生活を送りたいな……。旅なんて止めて、ここで、一緒に過ごそうよ」
上目遣いで可愛くおねだりする瑞月。
(可愛い!!流石キャラデザだけは最高満点!!!)
心の中で思わずルナマリアは叫んだ。
「んー。私、お使い頼まれてる途中だし……それに、学園の様子も見に行かなきゃいけないし」
お使いは女神様の、お世話になっている妖精達に恩を返して来いと放り出された事で、学園の様子は、この世界が滅亡の道を辿らないよう、ゲーム《リアリテに舞い降りた聖女》の進行状況を確認する為である。
やんわりと断るルナマリアに、瑞月はむー。と、頬っぺを膨らませた。
「ほんと、ルナマリアには僕の可愛さが効かないんだね」




