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「ーーは?退学?」
信じられないと、驚愕の表情を浮かべる清香先生。
「決めたんです。僕は魔物使にならない」
これは、ルナマリアと話していて、思った道筋でもあった。
自分は魔物使にならなくてはならないと思い込んでいたけど、別に必ずしもなる必要は無いと。
「何言ってるの!瑞月君には素晴らしい才能があるのよ!?調教なんて、そんなに気にする事じゃ無いわ!相手はたかが魔物なのよ?!」
ガシッと、両肩を掴まれ、勢い良く話される。
「たかが…?」
「そうよ!魔物相手に瑞月君が気を使う必要は無いの!魔物は、私達にとってただの道具なのよ!」
「……今まで、僕が先生に相談した事は、ちっとも、先生には伝わってなかったんですね」
魔物が、心を通わせた友達が、傷付くのを見たく無いと感じる瑞月にとって、清香先生の発言は、真逆そのもので。
瑞月はガタッと、席を立った。
「待って!瑞月君!」
「後日、正式に退学の手続きに来ます……僕に、魔物使の才能なんて、無かったんだ…」
そのまま、教室を去ろうと、扉に手をかける。
ーーーが、扉は開かなかった。
鍵はかかっていないのに、強い力で押されているようで、まだ幼い瑞月では、ビクともしない。
「行かさないわ…」
清香先生の前に現れる、黒い、翼の生えた、悪魔の魔物。
「なっ!これってーー」
「《トロン》!魅力しなさい!」
トロンと呼ばれた悪魔の魔物は、清香先生に言われるまま、瑞月に向かい、大きく口を開け、超音波のように、魅力の魔法を唱えた。
「くっ…!」
「瑞月君、自信を持っていいのよ?貴方には素晴らしい魔物使の才能があるわ」
1歩1歩、瑞月に近寄る清香先生。
「トロンの魅力に今までかからなかったのは、瑞月君にそれだけ力があるから」
清香先生は用心深く、決して自分の姿を見せなかった。
瑞月に至っては、トロンの姿さえ、直接見せる事はせず、遠くから魅力の魔法を使っていた。
(頭が…クラクラする…)
目の前が覚束無い。
それなのに、気持ちが高揚する。
「ふふ。ずっと魅力をかけ続けていた甲斐があったわーーーやっと、やっと!瑞月君を私の物にする事が出来る!」
瑞月の傍まで来ると、放心している瑞月の頬に、そっと触れる。
長い時間をかけ、魅力の魔法をかけ続けた事で、やっと今、瑞月が魅力にかかった瞬間。
清香先生の表情は、恍惚に満ちていたーーー。
『キュイ!キュイー!!!!』
「きゃあ!」
バタバタと翼を使い、清香先生の顔を攻撃する。
「な、何?」
茫然自失としている瑞月の前には、彼を守るように立ちはだかる、グリフォンの姿があった。
「お前…いつもいつも!私達の邪魔ばかりして!!たかが魔物の分際で!!!」
先程までの恍惚とした顔から一転、殺意の籠った表情で、グリフォンを睨みつける。
「お前の性で、瑞月君は私との2人の時間を、何度も過ごせなくなったのよ?!」
清香先生が放課後、瑞月の為と称して行っていた特別授業の事だろう。
普通の事だ。
たまには、友達と仲良く過ごしたい。
そんな思いから、特別授業を断ったに過ぎない。
それを、清香先生は、グリフォンの性と、憎んでいた。
「もういいわ……殺してやるわ。瑞月君との仲を、これ以上邪魔するなら、要らないわ」
そう言い、清香先生は左腕を大きく広げた。
それを合図の様に、トロンが音も無く、清香先生の前に現れると、グリフォンに向かい、超音波の攻撃を仕掛けた。
『キュイ!』
そのまま、魔物同士の戦闘が始める。
「ふん。お前みたいな中途半端な魔物なんて、相手じゃないわ」
グリフォンは、鳥の魔物の中でも、成長が遅く、まだ体も小さい。
『キュイ!』
言葉通り、グリフォンはトロンに押されていた。
それでも、傷付いても、グリフォンは戦う事を止めず、何度もたちむかった。
「ーーー」
(止めて……)
そんなグリフォンの様子を、虚ろな眼差しで見つめる瑞月。
(止めて!グリフォンを傷付けないで!)
止めに入りたいのに、体が思う様に動かない。
(助けて…助けて!誰かーーー!!!)
「瑞月はやっぱり魔物使にむいてるよ」
「!」
いつの間にか瑞月の背後にいるルナマリアの姿。
「小娘ー!あいつ等、失敗したのね!あの約立たず共!」
あいつ等とは、ルナマリアの殺害に向かわせたファンクラブの事だろう。
ルナマリアが無事にここにいるという事は、ルナマリアを殺害する計画の失敗を意味する。
殺意を隠さず、露わに向けてくる清香先生だが、ルナマリアは気にも止めていない、涼しい表情を浮かべていた。
「瑞月」
清香先生を無視し、瑞月に背後から語りかける。
「瑞月は友達を傷付けたくないし、調教したくないって言ってたけどさ」
視線を、グリフォンに向ける。
「グリフォンは、瑞月の為に戦う事を決めたんじゃないかな?」
例え魔物使されなくても。
「それなら、瑞月もグリフォンと一緒に戦ったら?」
「……」
(一緒に……戦う……)
「調教じゃなくて、協力して、一緒に戦っていけたら、それは、とても凄い、素敵な事だよ」
「ーーー」
ルナマリアの言葉に、瑞月は、目を、見開いた。
「五月蝿い五月蝿い!何をごちゃごちゃとーー!私の瑞月君と気安く会話しないで頂戴!!」
ヒステリックになって叫ぶ清香先生。
そんな清香先生に、ルナマリアは再度、同じ言葉を口にする。
「私が誰と仲良くしようが、私の好きにする。
貴女に、瑞月(みづき)が誰かと仲良くするのを制限する権利なんて無い」
「!こんのっっー!」
怒りで顔が歪む清香先生。
「ーーーグリフォンっっ!!」
絞り出すように、喉から発せられた、瑞月の声。
自力で、魅力を解いた。
「!なっ!嘘っ!」
清香先生は、信じられない!と、慌てて、トロンを呼び寄せる。
グリフォンもまた、自分を呼ぶ瑞月の元に、駆け寄った。
自分を守る為に、傷付いたグリフォンの姿に、涙が溢れる。




