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でも、証拠が無い。
解除魔法を使えるルナマリアは簡単に魅力を解けるけど、それだと、また、今度は違う手で、同じ様な事を繰り返すかもしれない。
だから泳がす事にして、
虐めをさせられている以外に、ファンクラブに被害は無さそうだったから、今まで可哀想だけど、放置してた。
でも、人殺しをさせられそうになるなら、話は別。
「本当に…今迄の事も…ごめんなさい…!」
「…こちらこそ本当にごめんなさい」
涙を流しながら謝罪の言葉を口にするファンクラブに、ルナマリアが罪悪感を覚える。
「私の虐めを気に病む必要は全く無いよ。私に会ってからは、私しか虐めて無いでしょう?」
「え?う、うん」
「なら良かった」
出会う前の虐めは、もう仕方無い。
それでも、彼女達は何も悪く無い。
寧ろ被害者と言える。
「ね、虐めとかする前に、何かいつもとおかしな事は無かった?」
「おかしな事?」
正気を取り戻したファンクラブは、互いに顔を見合わせた。
「そう言えば…見た事ない魔物と会ったかも」
「私も」
「黒くて、小さな翼の生えた魔物だよ」
ルナマリアの予測通り、魔物の仕業だが、肝心の清香先生の名前は出てこない。
用心深く、姿を見せず、魔物を矢面に出している。
(誰の魔物か特定するの難しいかな)
やっぱり、直接操っている所を抑えるしかない。
現行犯逮捕!ってやつですね!
「本当に大丈夫?怪我とか…」
「大丈夫。私、電車で痴漢を現行犯で捕まえた事あるから」
「で、電車?」
体の心配の大丈夫?に、この世界では意味不明の単語を含めて返事をし、相手を悩ませるルナマリア。
ファンクラブの魅力を解いてしまった以上、清香先生がどう動くが想像がつかない。
何せ、目的が分からない。
「清香先生、どうしよーかなー」
ルナマリアの言葉に出してしまった考え事に、ファンクラブの女性は、辺りを見渡した。
「そう言えば、清香先生の姿が見えないね」
「!清香先生って、瑞月のファンクラブの一員なの?」
「そうだよ。とゆーか、清香先生が立ち上げの第一人者だよ。ファンクラブNo.1」
「おー」
思わず拍手するルナマリア。
「……もしかして、瑞月が目的??」
ピタッと、手が止まる。
「そう言えば清香先生、最近おかしかったよね」
「ね。瑞月君は皆の物だから、特定の誰かが仲良くしちゃ駄目。とか」
「そのくせ、自分は瑞月と特別授業したりして、完全に特別扱いしてたしね」
瑞月自身が目的。
嫉妬で、瑞月の仲の良い人達を排除しようとした。
自分だけが、傍にいて、信頼を勝ち取ろうとした。
「瑞月そのものが目的なんだ…」
考えつかなかった。
何故なら!自分が完全に8歳男児が恋愛対象では無いから!!!
(待って。私25歳だったけど、清香先生30歳位じゃないの?あれ?それってアリなの?恋愛対象とかでは無いのか?恋愛は自由なの?いや、分かんない!)
ルナマリアは途中で考えを放棄した。
どちらにせよ、瑞月が目的なら、最終的に瑞月に何かして来る。
現に、瑞月にも、魅力をかけようとしていた形跡がある。
今は何の被害が無くても、いずれ、害を及ぼすかもしれない。
(瑞月の所に戻らなきゃ)
ふと回れ右して、瑞月達の元に戻ろうとした瞬間ーー
ドンッ。
「きゃ」
何かとぶつかり、受け止める。
『キュイ、キュイ!』
「グリフォン」
ルナマリアの胸にしがみつき、必死で訴える。
『ミヅキ、イッタ!ヒトリデ!キイテタ!!』
「…あらあら」
どこからかは分からないが、会話を聞いていたらしい。
「清香先生の所かな?」
『ソウ!ソウ!』
心配そうに、必死で訴え、ルナマリアの腕の袖を引っ張り、連れて行こうとする。
「意外と猪突猛進なんだねー」
『キュイ!キュイ!』
のほほんと返事をするルナマリアに、グリフォンが怒ったような声を上げた。
「はぁっはぁっ」
瑞月は1人、学校に向かい、駆け出した。
『そう言えば清香先生、おかしかったよね?』
『瑞月君は皆の物だから、特定の誰かが仲良くしちゃ駄目。とか』
『そのくせ、自分は瑞月と特別授業したりして、完全に特別扱いしてたしね』
『清香先生が犯人』
ファンクラブの皆や、ルナマリアの言葉が、脳裏を過ぎる。
(先生が犯人ーー!)
信頼していた先生が、自分の周りを傷付けていた。
(信じたくないのにーー!)
自分が、清香先生の無実を証明すると、心に決めたのに、それを覆すような発言が出てくる。
学校に到着した所で、瑞月は一旦立ち止まり、荒い息を整えた。
「……僕の性で……皆が苦しむのは…嫌だ…!」
瑞月はその足で、清香先生のいる教室に向かった。
トントン。
教室の扉を、いつものようにノックする。
「はい。入っておいで」
「……」
普段と同じ会話なのに、心臓がバクバクする。
(怖い…!)
先生がもしかしたら、本当に、自分を独り占めする為に、虐めを主導していた、犯人かも知れないと思うと、手が震えた。
それでも、瑞月はギュッと目をつぶり、大きく息を吸うと、覚悟を決めた。
「ーー先生」
「瑞月君!休みの日に相談に来てくれるの、久しぶりね」
清香先生は、瑞月の姿を見ると、嬉しそうに椅子を引き、瑞月を手招きした。
ぺこりと頭を下げ、導かれるまま、椅子に座る。
「今日はどうしたの?調教が辛いって悩みかしら?」
「あ、はい」
「分かるわ。だから、先生、瑞月君の為に、調教が辛いと思わなくなるのうな授業をしようとーー」
「あの!清香先生!」
矢継ぎ早に話をしようとする清香先生を、意を決したような表情で、瑞月は止めた。
「僕……魔物使にはなりませんーー退学します」
ハッキリと、瑞月は口にした。




