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本日は学校はお休み。
ルナマリアは瑞月とグリフォンと一緒に、グリフォンの住んでいたお寺の裏手に出掛けていた。
「グリフォン、楽しい?」
『キュイ、キュイ』
神楽の家では、自由に大空を飛ぶ事は出来ないので、久しぶりの飛行に、グリフォンは楽しんでいるようだった。
(…楽しそう)
勿論、グリフォンの隣の瑞月も、笑顔が溢れている。
彼等はここ暫く、ファンクラブの妨害も有り、一緒に過ごす事が出来ずにいたが、ルナマリアは強力な護衛で有り、今はそのルナマリアに虐めのターゲットが変わっている。
久しぶりに一緒に遊んでいる姿は、心底、楽しんでいるように見えた。
(良かった)
その様子を見るだけで、ルナマリアも笑顔になる。
こんな仲の良い2人を引き離すなんて、絶対にしてはいけない事。
(早く何とかしないとなぁーー)
「!」
そう思っていると、ふと、気配を感じ、その方向に向いた。
「……これはまた、随分と気が短い事で」
行動が思っていたより早い。
仲良いアピールをして、こんなにすぐに動きがあるとは思わなかった。
清香先生は想像以上に短気な方らしい。
(そして想像以上にーーー)
今まで自分に向けられていた感覚とは違う。
これは、明確な、殺意。
(まさか、人を殺す事も厭わないなんて思わなかったな)
ルナマリアは座っていた石段から立ち上がると、魔法で杖を出した。
チラリと、まだ何も気付いていないグリフォンと瑞月を見る。
(……伝えない方が良いのかな)
信頼している先生が、まさか殺人まで犯そうとしているなんて、知りたくは無いだろう。
そう判断したルナマリアは、そっと、その場から去った。
トコトコと、1人、寺を抜け、人気の無い道を歩む。
そして、誰も周りに無関係の人がいない事を確認し、振り向いた。
「こんにちは、ファンクラブの皆さん」
ズラっと、数十人の子供、大人、合わせた人数が、ルナマリアの前後に現れた。
「わー大人数」
「五月蝿い五月蝿い!あんたが悪いのよ!瑞月君は皆の物なのに!」
1人が、刃物を。
「そうよ!瑞月君の前から、消えて!」
1人が、弓矢を。
「お姉ちゃんさえいなければ、瑞月君は、私の物にーー!」
ルナマリアより小さな女の子も、中には見えた。
「止めた方が良い」
ルナマリアは鋭く、忠告する。
「見えない?ルナマリアは魔法使いだよ」
ルナマリアは今、杖を持っている。
ルナマリアが子供で、人数で勝っているとはいえ、魔法使いは希少だし、冒険者でも無いただの村人が戦うには、躊躇しそうな物だが、ファンクラブは止まらなかった。
「…そう。止まらないんだ…」
ルナマリアはそう言うと、杖を構えた。
「し、し……死んでーー!!」
ルナマリアに向かい突進してくる女の人。
その人の声は、刃物を持つ腕は、震えていた。
「止まらない。じゃないね。《止まれない》っかーーー可哀想」
守護の魔法で刃物を食い止め、そのまま、呪文を唱える。
「解除魔法」
綺麗な光が、ファンクラブ1人1人の体を、包む。
「いやぁ!何これ?!」
得体の知れない現象に悲鳴を上げ、パニックになる。
「落ち着いて。大丈夫。これは危害を加える物じゃない」
ルナマリアは全員が光に包まれてる事を確認すると、持っていた杖を魔法で閉まう。
「えーーー?、?、?あ、れ?あれ?私…何して…」
先程まで、悪意に満ちていた目が、憑き物が落ちたように、平然さを取り戻していく。
ポトポトと、持っていた凶器をその手から落とす。
「っ!やだ!私ーーなんてことをー!!ごめんなさい!大丈夫?!」
暫く、何が起こっていたのか、理解出来ないでいたが、ルナマリアを見た後、徐々に、自分の仕出かした事を今、思い出した様に、慌てて駆け寄り、ルナマリアに必死に謝罪するファンクラブの面々。
「何でーーこんな事ーー!」
「私達、瑞月君にも、酷い事してたーー!」
「お友達の、グリフォンにも!!」
今まで行っていた行動を思い返し、次々と後悔を口にする。
「大丈夫。貴方達は悪くない」
泣きじゃくり後悔する彼女達に、ルナマリアはハッキリと告げる。
そう。ファンクラブの人達は、誰1人も悪くない。
ルナマリアは初めてファンクラブと会った時から、彼女達が、《何者かに操られている》事に気付いていた。
(これは、魅力の魔法)
魅力の魔法にかかり、操り主により、感情をコントロールされていた。
(そんなに強い魔法じゃない。現に、私には効かない)
何度か魅力の魔法をかけようとされた形跡はあるが、ルナマリアには効果が無い。
魔法は、扱う人物の魔力の力によっても、効果が異なる。
ルナマリアにも、神楽にも、及ばない。
(そして、瑞月本人にも、効かなかった)
瑞月には潜在的に強い魔物使としての素質がある。
(これは、きっと、清香先生が魔物使している魔物の力)
ファンクラブが操られている事には最初から気付いたが、誰が操り人なのかは、流石に分からなかった。
だから、主犯に向けて、ルナマリアは宣戦布告した。
『私が誰と仲良くしようが、私の好きにする。
貴女に、瑞月が誰かと仲良くするのを制限する権利なんて無い』
操られている人間がこの言葉を、主犯に届けてくれる。
そうすれば、ルナマリアがターゲットになる。
でも、中々ルナマリアの前に姿を現さなかった。
ファンクラブを送り、小さな虐めを繰り返すだけ。
学校に行って、清香先生と対峙し、気付いた。
彼女の中に潜む、彼女に調教されている、魔物の存在ーーー。
(清香先生が犯人だ)
それに、上手に笑顔を向けているけど、その瞳の奥は、ルナマリアに対する負の感情でいっぱいだった。
悪意が隠しきれていない。




