23
才色兼備と謳われ、幼い頃から、同年代は敵では無く、歳上の人よりも、優れる事が多かった。
特に、魔物使の才能は、誰よりも秀でていた。
だから、周りが、自分より優位に立った事が、今まで1度も無くて、ルナマリアが初めて、自分より上手に、魔物とコミニケーションをとった。
それは初めての感覚で、初めての、敗北ー。
***
「…ルナマリアは、僕をちっともチヤホヤしてくれないんだね」
グラウンドの授業を終え、お昼休み、2人で一緒にお弁当を食べている最中、拗ねたように瑞月は口にした。
「皆は僕の事、可愛いって言ってくれるのに」
「勿論、可愛いって思ってるよ。キャラデザだけは最高だもん」
三角おにぎりをパクっと頬ぼる。
「何だろ…キャラデザって…」
相変わらずよく分からない返答をするルナマリアに、瑞月は溜め息を吐いた。
「…ルナマリアなら…ちょっと頑張れば、僕より優秀な魔物使になれるのに」
鍛錬をしなくてあれなのだ。
素晴らしい才能を持っている。
「んー?私は、これ以上は頑張れないかな。魔法で精一杯」
そう。
その上、魔法の才能まである。
(ズルいな…)
瑞月にとっては、誰かに嫉妬するのも、劣等感を感じるのも、切望するのも、初めての感情だった。
「瑞月だって、頑張ってないよね」
「ーーえ?」
「瑞月、真面目に魔物使の鍛錬してない」
「!」
核心を疲れたようで、ドキリとする。
思わず、言葉が詰まって、それが、肯定を意味してしまった。
「…なんで…」
「だって、のほほんとしてるのが分かるから」
授業を見学していて思ったのは、圧倒的な瑞月の才能。
でも、だからこそ、争う者がいないからこそ、瑞月は授業を真面目に行っているようには見えなかった。
力を抜いていた。
それでも、瑞月は飛び抜けて優秀だから。
そして、もう1つ、真面目に鍛錬しない、理由がある。
「……調教するのが、嫌なんだ」
ポツリと話す。
「仲良くしていたいから…調教だなんて…」
魔物使は、魔物に指示を出し、行動をさせる。
そこには信頼関係も必要は勿論、指示を行わせる、調教が必要となる。
サーカスのライオンを手懐ける感覚か、またはイルカショーに出演するイルカに、芸を教え込む感覚か。
ルナマリアには分からないが、瑞月は、友達ーーとしての意識が強いのだろう。
命令をする。
その行為そのものを、嫌だと感じている。
「瑞月は優しいねー」
温かいお茶をすするルナマリア。
「私も、命令して、その子に何かあったら嫌だなって思うよ」
「!ほんと?」
今まで、魔物使として、調教したくないと思う気持ちに同調してくれる人に出会った事が無かったので、瑞月は思わず身を乗り出して、ルナマリアに尋ねた。
「僕も、嫌なんだ……友達が、僕のせいで、傷付いたりしたら……」
何度も、魔物使された魔物が、傷付いているのを、見た事がある。
その都度、魔物使するのが嫌になる。
「瑞月は魔物使になりたくないの?」
「……なり、たく。ない。のかな」
歯切れ悪く、俯きながら答える。
魔物と触れ合うのを見ても、嫌がっているようには見えなかった。
寧ろ、楽しんでいるように見えた。
ただし、その先の、調教を嫌がり、1歩引いている。
「ーーーなら、別に無理しなくてもいーと思うよ」
「!!」
ルナマリアの言葉に、瑞月は驚いて顔を上げた。
「魔物使だけが職業じゃないもん」
あっけらかんと答えるルナマリア。
「そう…そう、だね」
自分に押し寄せられた期待から、魔物使にならないといけない!
そう思っていた瑞月にとって、ルナマリアの言葉は、衝撃だった。
「ね」
お弁当を食べ終わり、片付けを始める中、黙り込む瑞月の顔を、ルナマリアは覗き込んだ。
「わ!な、何?」
驚く瑞月に、ルナマリアは笑みを浮かべる。
「瑞月は、立派な魔物使になるよ」
「え?な、何それ…さっきはーー」
「休憩時間終わるから、行こー」
戸惑う瑞月を横目に、ルナマリアは教室の中へ入った。
***
放課後ーーー。
あれから座学の授業やらを受けたりして、無事、一日の授業は終了した。
ファンクラブの面々から、小さな嫌がらせ(ゴミをぶつけられる。無視、悪口)は受けたが、ルナマリアにはノーダメージ。
「瑞月君、ルナマリアちゃん」
帰る途中、清香先生に2人は声をかけられた。
「2人ともお疲れ様。ルナマリアちゃんとても優秀ね。どう?良かったらこのまま学校に入学しない?」
「あはは、お断りします」
義務教育等は前世で一通り終えたつもりなので、たまにならは別として、出来れば勉強はお断りしたい。
「そう?残念」
「先生。今日は僕、ルナマリアと一緒に帰ります」
「あら、分かったわ。神楽様によろしくね。瑞月君、ルナマリアちゃん、また明日ね」
そう言うと、清香先生は笑顔で手を振った。
「いつも先生と放課後何かしてるの?」
瑞月の言い方からして、何か予定があったように感じた。
「放課後、特別にレッスンしてくれてるんだ。調教を、少しでもやりやすく出来るようにって」
「…ふーん。先生、瑞月が調教に苦手意識がある事知ってるんだ」
「うん。清香先生にも気付かれちゃって……そこから、凄い親身になって相談に乗ってくれてるんだ」
「相談。ね」
笑顔で答える瑞月に、ルナマリアは無表情で、今もまだこちらに向かい手を振り続けている清香先生を見た。
『大丈夫かえルナマリア?!虐められてはおらぬじゃろーな?!』
「うん。全く虐められなかったよ」
嘘をついているのか、それとも、あの程度 (悪口や無視やゴミ投げ)は彼女には虐めにカウントされないのか、全く無いと言う彼女に、全てを知っている瑞月は、ただ黙った。




