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「あら、来たわね瑞月君」
瑞月に案内され辿り着いたのは、校内を抜けた先にある大きなグラウンドだった。
そこで、眼鏡をかけた、上下ジャージ姿の見た目30代位の女性が、瑞月とルナマリアを出迎えた。
「先生!お待たせしました」
ニコリと笑顔で挨拶する瑞月。
先生との呼び名の通り、この学校の教師なのだろう。
グラウンドには、他、大勢の生徒もいて、遅れて到着した形になった自分達には、嫌でも視線が集まった。
「貴女がルナマリアちゃんね。初めまして。この学校で教師を勤めている、清香よ。よろしくね」
「……ルナマリア。よろしく」
差し出された手を握り返し、挨拶する。
大勢の生徒の中には、ルナマリアに虐めを仕掛けてきていた、ファンクラブの人達の姿もある。
「神楽様からの紹介で、この学校を見学させて欲しいと伺ったわ。存分に見学して頂戴」
「はい」
ルナマリアは、和の国で強力な権力を誇る神楽に、瑞月の通う学校に一緒に登校出来るように頼んだ。
(瑞月ともっと仲が良いってアピールすれば、きっともっと仕掛けてくる)
このまま現状維持では何も変わらない。
瑞月を救う為には、何か、仕掛ける必要がある。
(早くしないと、皆が可哀想だしね)
瑞月はルナマリアを案内し終えると、自分も、生徒の輪に入り、そのまま授業の様子を見学するルナマリアは、グラウンドのはずれに用意された椅子に腰掛けた。
瑞月の通う学校は、普通の学校とは異なる。
「ピィーーーー」
清香(きよか)先生が笛を吹くと、バァァーっと、数十匹の魔物が、グラウンドに四方八方から集まる。
普通の学校ならば、魔物が出た事でバニックになり、逃げ出す所だが、この学校の生徒は誰1人として、逃げ出す事はしない。
寧ろ、積極的に関わっていく。
「良い?!しっかりと魔物とコミニケーションを試みなさい!そして、調教するの!戦いにおいて、調教は絶対よ!」
清香先生は、大きな声で生徒達に指示を出した。
魔物達が生徒を攻撃する様子は無い。
魔物と人間が関わる、他では見られない授業風景。
(流石、魔物使を育てる為の学校だね)
和の国ツキナリにしかいない職業、魔物使専用の学校。
勿論、安全な魔物である事を確認して、生徒達に触れ合わせているのだろう。
(普通の人間には、安全か安全じゃないかなんて見分けつかないもんね)
見た目はどこからどう見ても魔物。
そこに、戦う意思があるのかどうかで、ルナマリアは判断する。
戦う意思が無いものとは、ルナマリアは戦わない。
面倒だし。
出来れば戦いたくないし。
生徒が魔物と何とかコミニケーションをとろうとしている最中、人一倍、魔物を周りに引き寄せている人物がいた。
瑞月だ。
彼の周りには、沢山の魔物が、彼を慕うように集まっている。
「どうかしら?瑞月君は優秀でしょう?」
黙って見学していたルナマリアに、清香先生が誇らしげに尋ねた。
「ええ。タラシの素質がありますね」
真剣な表情で答えるルナマリア。
「タ、タラシ?」
人だけで無く、魔物もたらし込むとはーーこれは最早、天性の魔性の男!
「…なんか、悪寒がする…」
ルナマリアの視線に、瑞月は体の震えを感じた。
「タラシが何の事だかは分からないけど、瑞月君は本当に優秀なの!まだ2年生なのに、魔物とのコミニケーションは完璧だし、このままなら卒業を迎える前、史上最年少で魔物使になれる可能性があるわ!」
強く熱弁する程、瑞月は優秀なのだろう。
魔物使に詳しく無いルナマリアですら、他の生徒が上手く魔物と意思疎通を測れていないのを見て、瑞月が特別なのだと分かる。
「折角だから、ルナマリアちゃんも参加してみる?」
「私?」
「ただ見てるだけだと暇でしょう?魔物は皆、安全な魔物だから安心して!それに、神楽様の紹介だもの!素晴らしい才能をお持ちなのでしょう?是非、見せて!」
授業には参加するつもりが一切無かったのだが、清香先生が目をキラキラさせて推してくるので、断り切れず、ルナマリアは立ち上がり、グラウンドの中に向かった。
(そんな事言われてもなぁー私、魔物使目指した事も無いし…)
ただ、見学と銘打っている以上、先生に勧められたら参加せざる得ない気にもなる。
「?どうしたの?」
そんな事を考えていたら、小さな小動物の様な魔物が、ルナマリアの頭まで上がり、口で髪を引っ張った。
「あはは。何?構って欲しいの?」
笑顔で答えると、小さな魔物は、ルナマリアの腕まで移動する。
「可愛いねー」
よしよし。と、顎を撫でると、気持ち良さそうに小さな魔物は目を閉じた。
「…凄い…」
気付けば、ルナマリアの周りには、瑞月よりも大勢の魔物が集まっていて、瑞月は目を見開いた。
「僕より凄い人…初めてだ…」
ルナマリアは瑞月をタラシと称したが、それを言うなら、ルナマリアも真性のタラシである。
神様や妖精、精霊、そして魔物までもが、彼女を好む。
「ルナマリア、凄いね。ルナマリアも魔物使になれるよ」
「私?私はいいよ。大丈夫」
あっさりと拒否する。
「…僕、ルナマリアと一緒に、魔物使になりたいな…」
そんなルナマリアに、瑞月はそっと、彼女の手を取り、上目遣いでお願いをした。
顔面偏差値高めの可愛い男の子からの、上目遣いと、甘える声は、 破壊力抜群。
周りのファンクラブの面々からは、ぎゃーーー!!!と、悲鳴に近い歓声やら、怒号が響いた。
「私と魔物使?瑞月は、魔物使になりたくないのに?」
「ーーえ」
おねだりをスルーし言う、ルナマリアの台詞に、思わず、瑞月は目を丸くした。
そのまま、ルナマリアは集まった魔物達と和気あいあいと過ごした。
「…凄い…な…」
魔物と、自分よりも上手にコミニケーションをとるルナマリアを、瑞月はしばらく、見つめ続けた。




