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この仲睦まじい友情に、ルナマリアは変化する未来の姿に耐えられず、嗚咽含みの涙を流した。
何も知らない瑞月は、ただただ目の前で急に泣き崩れられ、意味が分からない。
「……神楽様のご友人って、変わってますね」
『ほんに…時折変な事を言う子ではあったのじゃが…』
2人はただ黙って、ルナマリアが正気に戻るのを待った。
「失礼しました。さ、話を聞くよ」
暫くして、落ち着きを取り戻したルナマリアは、グリフォンを膝に、何事も無かったかのように取り繕う。
「いや、色々大丈夫…?僕より、自分の情緒の心配した方が良いよ」
8歳の子供に気を使われる、25歳。
段々自分が情けなくなって来たルナマリアは、コホンと1つ咳払いをした。
「大丈夫!私の方がお姉さんなんだから!」
この世界でも、今のルナマリアは10歳。
瑞月よりもお姉さんなのだ。
自信満々に胸を張って答えるルナマリアに、膝にいたグリフォンは翼で拍手した。
「……グリフォンが僕以外の人間にこんなに懐くの、初めてだね」
楽しそうにルナマリアの膝の上に乗っているグリフォン。
「……僕自身に…害は、今の所無いんだけど……でもーー凄く……寂しい、気持ちに、なる……」
少しずつ、ぽつりぽつりと話し出す瑞月。
そこにーーー
「瑞月くーーーん!!!」
ザッと現れる、年齢バラバラの数十人の女軍団。
手にはうちわに、瑞月。額にはハチマキに、瑞月。服には、アイ・ラブ・ユー、瑞月。の、文字。
「これはーーー」
ルナマリアは、その光景を見て、前世を思い出した。
「瑞月ファンクラブ!」
デコデコでガチなその姿に、思わず叫ぶ。
「ちょっとあんた!何者?!」
「え?私?」
矛先が自分に来た事に、ルナマリアは驚いて自分を指さした。
「瑞月君は皆の瑞月君なのよ!」
「そうよそうよ!」
「1人だけ抜け駆けしないで!」
怒濤のように畳み掛ける瑞月ファンクラブ。
(熱量が凄い…なんか怖い…)
剣幕に押され、グリフォンは隠れるようにルナマリアの背中に移動する。
「あの…なんだか良く分からないのですけど、私、子供は恋愛対象にならないので、安心して貰えると…」
「あんたも子供でしょーが?!」
「あ、そっか」
ついつい自分の年齢を忘れがちになってしまう。
「分かったら、瑞月君に二度と関わらないで!余所者のくせに!」
「そうよそうよ!」
「瑞月君が優しいからって調子乗ってんじゃないわよ!」
「そうよそうよ!」
『…はぁ。お主達、いい加減にーー』
ルナマリアに対する暴言の数々に、ルナマリアを溺愛している神楽はそろそろ堪忍袋の緒が切れそうで、怒りのまま口を開こうとするが、それを、ルナマリアが目線で止めた。
そのまま、ファンクラブを見る。
「嫌よ」
ハッキリと、拒絶の言葉を口にする。
「はぁ?!今なんてー」
「嫌って言ったの」
大きな声で怒鳴る彼女達とは違い、静かに拒否する。
「私が誰と仲良くしようが、私の好きにする。
貴女に、瑞月が誰かと仲良くするのを制限する権利なんて無い」
ニッコリスマイルで、ルナマリアは再度ハッキリと、彼女達の要求を拒絶した。
「ごめんね、僕のせいで…」
怒り収まらぬファンクラブを何とか神楽の威厳で巻き、グリフォンや瑞月も連れて神楽宅へ帰宅すると、開口一番に瑞月が謝罪を口にした。
「瑞月のせいじゃないから大丈夫。グリフォンも平気?怖かったね」
『キュイ、キュイー!』
ルナマリアの胸の中で泣くグリフォンを、ルナマリアは優しく撫でた。
「……前までは、こんな事しなかったのに……」
前までって事は、結構前からファンクラブ自体は存在してたんだな。と認識する。
『3歳から瑞月のファンはおったぞ』
更に神楽が情報を追記する。
「へー凄いねー」
『迷惑じゃろ』
「ファンクラブ自体は、僕は迷惑じゃなかったんだけど…寧ろ、チヤホヤされるのは全然嬉しかったし……皆、優しかったんだ…」
流石3歳からファンクラブのある人間の言う事は違う。
「でも……最近、あんな風に、僕の周りの人を傷つけようとしたりするようになって……」
要約すると、以前からファンクラブは存在していたが、皆が仲良くしていて、問題を起こした事は無かったのに、最近になって、攻撃的になってしまったらしい。
『ルナマリア、良いのか?お主、先のであやつ等に目をつけられてしまったぞ』
「うん、わざとだもん」
正々堂々、真正面から売られた喧嘩を買った。
『ダイジョーブ?ダイジョーブ?ルナ』
心配そうに顔を覗くグリフォンを、ルナマリアは笑顔を浮かべながら、ギューッと抱きしめた。
「神楽が言ってた、瑞月が付きまとわれて困ってるって、あのファンクラブの事だよね?」
『そうじゃ』
「この可愛い可愛いグリフォンを虐めてたのも、あのファンクラブでしょ?」
『そうじゃ』
「じゃあ、これでグリフォンじゃなくて、ルナの方を虐めてくるようになるよね」
『ルナマリア……お主、わざと挑発しおったな』
神楽は呆れたように、深く息を吐いた。
「だってこのままグリフォンが虐められるのは辛いし…」
それなら、矛先を自分に変えた方が良いと、ルナマリアは判断した。
『ルナマリアを虐めてみろ……妾の怒りを買って、この国がただで済むと思うなよ……』
まだ虐められている訳でも無いのに、先程のルナマリアに対する態度も有り、怒りのオーラが隠す気も無く溢れる神楽。
「か、神楽様?!そんな事したら、この国全体がやばくなっちゃうんですけど?!」
神楽は妖精の中でも位が高く、和の国全体を見守る妖精のようで、隣で聞いていた瑞月が慌てて口を開いた。
『構うものか……ルナマリアの為ならば!妾の役目如き!放棄してくれようぞ!』
「待って下さい神楽様ーー!」
お仕事熱心な妖精の口から出る言葉とは思えない台詞に、神楽がどれ程ルナマリアを溺愛しているのかが伺える。




