フラン編2
「なりませんね」
即答でルナマリアは答え、その答えに、女神様は更に頭を抱えた。
この神聖な場所は、変化が無い、穏やかな場所。
普段、各地にいる妖精や精霊が傷付いたり、弱ったりした時に体を休める為の場所でもある。
『妖精や神獣達も、皆、それぞれの役割を果たしてるというのに、お主ときたら…』
そう。
妖精とか精霊って、働いてないと思いきや、意外と働いてる。
風を運んだり、火を灯したり、加護を宿したり。
幼い頃、傍にいた風の妖精のシルも、自分が元いた場所に戻ってしまった。
『外の世界で、今まで世話になった者達に恩を返して来い!それまで、此処に帰ってくる事は許さん!』
と、追い出されてしまった。
「もー女神様、酷い…」
とぼとぼと、とりあえず人里を目指し歩くルナマリア。
初めて外に出たが、やはり地球とは違い、自然豊かで、空気が美味しい。
ただ、問題があるとすれば。
(魔物がいるんだよね)
そう。この世界には魔物と呼ばれる存在がいる。
今の所、幸運な事に出会っていないが、凶暴で、人や妖精、巨大になれば、神様まで襲う。
(確か、今から会いに行くラフラーレンも、魔物に傷付けられて、あの場所に来たって言ってたっけ)
湖の妖精ラフラーレン。
その土地の水や、湖に住む生物達を守る妖精。
(妖精とかって、のほほんとしてるだけかと思ってたのに、実際、産まれた時から役割を与えられて、人間より働いてるよね)
ルナマリアは純粋に感動し、失礼な事を考えていた事を心の中で謝罪する。
「…着いた」
村の前に到着すると、ルナマリアの姿を見た成人男性が驚いた顔を向けた。
「おいおいお嬢ちゃん、どっから来たんだい?!大丈夫か?」
「大丈夫ですよー」
精神年齢的にはお嬢ちゃんと言われる歳では無いので、少し違和感を感じつつも、ルナマリアは頷いた。
「お父さんやお母さんは?」
「知らないです」
遥か昔に自分を捨てた両親の行先を、ルナマリアは知るはずも無い。
普通に答えているのだが、男の顔は悲痛に染まる。
「可哀想に…。お嬢ちゃん1人を残して、魔物に襲われちまうだなんて…」
更に他の住民もルナマリアの周りを囲う。
「今は魔物の動きも活発な時期なのに、こんな所にノコノコとやってくるのが悪いじゃろ」
「大丈夫ー?怪我してないー?」
ルナマリアは村人の会話から想定し、両親と一緒にこの村に尋ねてきたが、魔物の襲撃にあい、私だけが生き残ったと思われている事を察した。
「えっと…」
「何の為にこの村に来たんじゃ?」
「知り合いに会いに来ました」
否定しようとしたが、その前に質問が飛んで来たので、先に答えた。
「知り合いがいるのか」
「はい」
「名前は?」
「ラフラーレン」
ルナマリアの出した名前に、村人達は目配せしながら、首を傾げた。
「そんな名前の奴いたか?」
「いやぁ…」
「こんな小さな村、住民達は皆顔見知りだが、そんな名前のやつはいねぇぞ」
「そうですか」
村人達の答えに頷きながらも、ルナマリアは、村の奥を見据えた。
(ラフラーレンの気配がする)
「とりあえず、探してみます」
ペコリと村の人達に頭を下げて、気配のする方へ向かう。
木々を抜けた先、村の奥には、テニスコート程の広さの、湖が、ポツリと、あった。
その姿は、水に光も無く、生き物がいるのかすら危うい程、寂しく、暗く感じる。
「ラフラーレン、いる?私だよ、ルナマリア」
ルナマリアは湖を覗き込むようにしゃがみ込んだ。
ピカッ。
湖の奥が、一瞬光ると、水色で髪や瞳を形成されている小さな妖精が現れた。
『ルナマリア!』
ルナマリアを見て、涙を溜める。
「久しぶり」
ラフラーレンはそのままルナマリアの首筋にギュッと抱きついた。
「ラフラーレン大丈夫?だいぶ弱ってるみたいだけど…」
そう言って湖に視線を向ける。
妖精がいるとは思えない程、湖は廃れて見え、それは、妖精の力が弱まっている事に直結する。
『ぐすぐす。駄目なの…あのね、魔物がねーー』
ラフラーレンは泣きながら、今までの事を話し始めた。
魔物が妖精の住まう湖に目をつけ、侵略しようとしてる事。
それを頑張って阻止してる事。
ルナマリアはラフラーレンが用意したお茶を啜りながら、話を聞いた。
「そっか。大変だったんだね」
『うわーん!』
話を聞き終えた後、労いの言葉をかけると、ラフラーレンはまた泣き始め、ルナマリアに抱きついた。
「あのね、私、ラフラーレンを助けに来たんだ」
『え?!』
ルナマリアの言葉に心底驚くラフラーレン。
『あ、あの、ぐーたら過ごす事だけを生き甲斐にしてたルナマリアが?!』
「……うん。真実だから否定の仕様が無いね」
やっぱり皆にそう思われていたのだと実感する。
「何が出来るかは分からないんだけど、何かお手伝い出来る事があったら言って」
(私なんかが出来る事なんて何も無いだろーけど)