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「それは最低だね」
こんなに可愛いらしいグリフォンを虐めるなんて!
酷い人間もいたものだよ。
「でもここって魔物とも近い生活をしてるんじゃないの?魔物を虐めていーの?」
魔物使やらなんやら、魔物達と人間の境界線の境目が良く理解出来ていないルナマリアが尋ねると、神楽は険しい表情を浮かべた。
『魔物には凶暴なのが多いのは事実で、国の者、全員が全員魔物に好意的では無いのと、グリフォンは成長が遅くてな。差別されとるのじゃ』
本来の鳥の魔物は、今よりもっと大きく、人を乗せて飛べるまでになるのだが、グリフォンはまだ子供のサイズのままで、誰とも魔物使していない。
他の兄弟達は皆、巣立っているから、この大きな巣に、グリフォンの姿しか無かった。
「ーーーだからって虐めて良い理由にはならない」
『同感じゃ。ほんに、人間達は好かん』
ルナマリアも人間なのだが、彼女は例外らしい。
『キィキィ』
グリフォンは怒っているルナマリアにそっと近寄ると、膝の上に乗った。
『オコッタ?ダメ、エガオー!』
「こんな可愛い子虐めるなんてほんと有り得ないー!!出てきて!ルナが全員こてんぱんにする!!」
あまりの可愛さに、ルナマリアは思わず体を反らしながら発狂した。
「ーービックリした」
「『『!』』」
背後から聞こえる、幼い声。
『ミヅキ!』
グリフォンがいち早く反応し、ルナマリアの膝から飛び立つと、声の主、瑞月の肩に止まった。
「急に大きな声が聞こえたから、ビックリしちゃった」
ルナマリアより2つ若い8歳。
少しくせ毛のある、黒髪、黒い瞳の、完全な美少年。
(面影がある……!)
ゲーム開始時での瑞月の年齢は確か14、15歳位。
(駄目だ!やっぱり攻略対象の瑞月だったーー!!)
僅かな希望の、同名の別人の線は泡となって消えた。
「こんにちは、神楽様」
『久しいのお、瑞月』
丁寧に神楽にお辞儀をすると、瑞月はルナマリアを見つめた。
「この国に余所者なんて珍しい…初めまして、僕は瑞月。お姉ちゃんの名前は?」
(言いたくない!!)
「……ルナマリア」
一生懸命頑張って、ルナマリアは笑顔を浮かべた。
(こんな可愛い男の子と初対面、普通なら胸踊る場面なのだろうけど、私には恐怖でしかない)
そもそもが25歳なので、恋愛対象外。
「ルナマリア…。ありがとう、ルナマリア」
瑞月はルナマリアに近寄ると、彼女の手を握り、上目遣いで見上げた。
「グリフォンの、僕の大切な友達の為に怒ってくれて、嬉しかった」
「いえいえー、どういたしましてー」
顔が引きつってしまうのを我慢して、精一杯、ルナマリアは愛想笑いを浮かべた。
「……」
そんなルナマリアを、瑞月は不思議そうに見ると、小さな声で呟いた。
「おかしいな…これで大体、僕におちるのに…」
「へ?」
『無駄じゃぞ瑞月。ルナマリアにお主のあざとさ?は、通じん。色恋には全く興味の無い女じゃ』
「失礼な!あるもん!」
(多分!)
と、心の中で追加する。
「あは。流石は神楽様のご友人ですね」
瑞月はそう言うと、自分の頬に擦り寄るグリフォンを撫でた。
「嬉しいと思ってるのは本当だよ。グリフォンの為に怒ってくれてありがとう」
その光景は、互いが、本当に信頼し合っているように見えて、微笑ましい筈なのに、ルナマリアはどこか遠くを見つめた。
(これがどうして、あんな残念な恐怖男になってしまうんだろうー)
瑞月は、ホラー系ストーカー残念イケメン男。
過去の悲惨なトラウマにより、誰の事も信用出来ずにいたが、聖なる力を持つヒロインを盲目的に愛してしまい、ストーカー化する。
(ーーーいや、何で?!?!誰得よその設定!?!?)
ゲームの最中、学園の寮に帰って、ベットの下にいたのを見た瞬間、ガチ引きしたわ!!恐怖よ!!
そのまま笑顔で微笑まれた時の気分よ!!恐怖しか無いよ!
誰がこんな奴好きになるねん?!
いや、ヒロインなったな!凄いな!
最後なんか、「こんなに愛されてるなんて…」って感動してたけど、いや、恐怖しか無かったよ!!!
(しかも戦闘シーンも魔物喰うって。ほんまにただただ怖かった。ホラー残念イケメンキャラだった)
「……あの、何でさっきから憐れむような目を向けてこられるのか……」
『気に病むな。ルナマリアは少し変わっておる』
ルナマリアの自分を見る憐れむ視線に納得のいかない瑞月は、不快な表情を浮かべ、神楽はいつもの事だ。と、スルーを勧めた。
「ところで、僕の事を話してたの?気にしなくて良いって言ったのに」
気を取り直した瑞月は、グリフォンに向かって、鼻を付き合わせた。
『キュイ、キュイ、シンパイ!シンパイ!』
バタバタと翼を広げ、反発するグリフォン。
『グリフォンはお主を心配しておるのじゃ』
「分かっていますよ、神楽様。でも、僕は逆に、グリフォンの方が心配なんです」
「……」
グリフォンは付きまとわれている瑞月を心配し、瑞月は、それに巻き込まれ、虐められるグリフォンを心配している。
互いが互いを思いあっている。
(和の国以外では見ない光景だね)
と、ルナマリアは純粋に思った。
街に魔物がいるのも然り、魔物と共存する魔物使も然りーーー
(一角兎の保護対象も、つい最近決まったって言ってたっけ)
貴重な薬の材料源ですら、可決には時間がかかったと言っていた。
(ゲーム開始の6年後も、人間と魔物の距離感は今と変わっていない)
当然か。
多くの魔物は、今も、人や妖精を襲っている。
考え込んでいると、瑞月と目が合った。
「外の人達も、魔物に対して普通に接してくれるんだね。なんか安心した」
『ルナマリアが特殊なだけじゃ』
和の国以外での魔物への扱いを理解していて、心配しているような台詞を、瑞月が吐く。
「うぅゔっっっ!!!!」
そんな瑞月の台詞を聞いた途端、ガバッと勢い良く両手で顔を塞ぎ、嗚咽しながら涙を流すルナマリア。
「え、何?何?」
ただただ困惑する瑞月。
(なんでこんなに魔物思いなのに、職業、魔物喰いになってしまうのーーー?!?!)




