瑞月(みづき)編17
2年後ーーー。
ルナマリア10歳。
「ふぁああ」
大きな欠伸をしながら、身体を伸ばす。
身長も少し高くなり、顔つきも少し、大人びた。
「結構いっぱい回ったなー」
それでも、今迄出会った数の半数にも、まだ届いていない。
行く先で何かトラブルがあれば解決するまで留まるし、中には寂しいから暫くいて。と、数ヶ月滞在する事もあった。
「フランもジュリアスも元気かなー?」
あれから会っていないが、順調に剣士・盗賊として成長しているのだろうか。
(変に会いに行って、トラウマ真っ盛りの所に乗り込むのも怖いしーー)
前回出会った彼等は、まだ可愛い子供だったが、今はもう最低最悪の残念イケメン男に成り下がっているかもしれない。
(私なんかが悲惨なトラウマから救ってあげれる訳無いし……仕方ないよね)
うんうん。と、ルナマリアは1人で自分を納得させた。
「さて、目的地までもう少し」
ルナマリアは立ち上がると、歩みを再開した。
以前立ち寄った街から離れて、もう1ヶ月は経過している。
「疲れちゃった…」
体力の無いルナマリアも起因しているが、道程が長く、時間が長く経過している。
「あら」
目の前に立ちはだかる、巨大な岩。
これを乗り越えないと、目的地には辿り着けない。
「飛行魔法」
杖を出し、自身の体を浮かせると、そのまま岩を乗り越え、反対の地面に着地した。
「ここが……和の国、《ツキナリ》」
杖を消し、振り向くと、目的地である和の国ツキナリがあった。
赤い神社の鳥居に、瓦のついた家
前世日本で過ごしていたルナマリアにとっては、どこか懐かしい雰囲気があった。
「やっと着いた…」
「おい!待て!」
もう早く休みたい。
これがルナマリアの本心で、そのまま、町に入ろうと足を進めた所で、門番の男に声をかけられた。
「見ない顔だな」
「初めまして、ルナマリアです」
ペコりと頭を下げて挨拶する。
「怪しい者は町に入れるなと言われている」
「私、怪しいですか?」
普通の冒険者のつもりなので、ショックを受ける。
「……どうやってこの町の場所を知った?」
「場所?」
「この町の場所は外に漏らしていないはずだ!」
「そうなんですか、初めて知りました」
和の国 《ツキナリ》。
ルナマリアはこの国の事を、前世から知っている。
他の街から遠く離れた場所にあるように、周りとの関わりを断ち生きる国。
(この国には、特殊な職業がある)
門番の男は、ピーと、指笛を吹いた。
その指笛に呼応し、現れたのは、1匹の黒い、狼の魔物ーーー。
(魔物を調教し、使役する、魔物使)
呼び出された、男がティマーしている魔物は、鋭い眼光で、ルナマリアを威嚇した。
「即刻立ち去れ。拒めば子供だろうと容赦しない」
「……」
ルナマリア自身、争う気は無い。
どうしようかな。と、考えていると、ツキナリの中からルナマリアを呼ぶ声が聞こえた。
『コラ!ルナマリアに何してるのじゃ!酷い事したら許さんぞ!』
「神楽」
和の着物を着用した、小さな妖精が、ヒューーー!と、素早いスピードで飛び出し、ルナマリアと門番の前に立つと、門番を睨み付けた。
「か、神楽様のお知り合いでしたか」
睨み付けられた門番は、慌てたように膝をつき、敬礼する。
『ルナマリアは妾の友達じゃ!粗末に扱う事は許さん!』
プンプンと怒るのは、和の国ツキナリの妖精、神楽。
「神楽、久しぶりだね」
『ルナマリアー!』
満面の笑みで、神楽はギュッとルナマリアの首筋に抱きついた。
「神楽のご友人とは知らず、大変失礼致しました」
狼の魔物を下がらせ、深々と頭を下げる門番。
「神楽、偉い妖精なんだね」
今まで旅した中で、自分以外に妖精や精霊を見れる者にまだ出会った事が無く、普通に、妖精である神楽を認知している事自体が、珍しい。
『この国は、私達妖精や精霊、魔物とも、近い生活をしてるよ』
(流石特殊な国)
半分以上うろ覚えだが、前世、ルナマリアはゲーム《リアリテに舞い降りた聖女》で、和の国ツキナリに、攻略対象関連のイベントで来た覚えがある。
(人ならざる者達と近い国、特殊な職業。そしてーーー)
ここには、攻略対象の1人がいる。
(ーーー魔物喰い、瑞月)
響きで分かるように、魔物を喰らい、その能力を得る、この世界でもただ1人しかいない希少な能力。
ルナマリアはその光景を思い出し、口を抑えた。
(何故乙女ゲームであんなグロいシーンを出したーー?!)
能力を取り込む為に魔物を食すシーンは、ハッキリ言って超絶グロく、吐き気がした。
あそこでリアル作画を求めた制作陣の意図も分からん。
(兎に角、瑞月には関わらない様にしなきゃ)
もう既に2人関わってしまっているが、攻略対象に関わり過ぎるのも良く無い気がする。
(あと正直に言うと、怖い!瑞月怖いの!恐怖なの!だからあんまり関わりになりたくない!!!)
例外など無い、残念イケメン男しかいない攻略対象者。
ルナマリアは、出来る限り関わらないようにしようと、強く心に決めた。
和の国の中では、あちらこちらに魔物の姿が有り、今迄立ち寄った街とは明らかに雰囲気が違う。
(他の街なら、魔物が出ただけで大騒ぎだもんね)
辺りを見渡しながら、和の国の中を、神楽に誘導されながら歩く。
他の国との交流を遮断している此処では、余所者のルナマリアは大層目立つようで、過ぎ行く度に視線が刺さる。
幸い、神楽がいるお陰で、絡まれたりはしていない。
『此処が妾の家じゃ』
神楽に誘導され辿り着いたのは、小型サイズの彼女にしては大き過ぎる家だが、家の扉を開けると、ポンッと、神楽は普通の人間のサイズに変化した。
「家まであるの?」
『うん。人間が用意したぞ』
どうやら、和の国の妖精である神楽は神格化されているようで、大切にされているのが伺えた。
『人間サイズになるのは久しぶりじゃ』




