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「盗れそー?」
ルナマリアはジュリアスの方を振り向いた。
「…そんなん…言っとくけど俺は、今まで魔物と戦った事もねぇし…」
この街のギルドの依頼は、討伐や護衛など、冒険者以外、ましてや、子供が出来る依頼が少ない。
街の連中は貧困街出身を雇おうともしない。
だから、貧困街の連中は、汚い手を使わないと生きていけない。
生きる為に精一杯で、盗みだけをして今まで生きてきた。
「大丈夫。ジュリアスなら、盗めるよ」
「……さっきから……どこにそんな自信があるんだよ」
ルナマリアの言葉には、節々から、絶対の信頼があって。
(自分自身が、俺を信じてねぇのにー!)
「魔物相手なら、私の時みたいに、躊躇する必要無いよね」
「えー」
「盗み、働くの、嫌だったでしょ?」
「ーーー」
絶句する。
嫌だなんて、思った事なんかねぇよ。
思う余裕なんてなかったんだ。
物心ついた時には、そうしないと生きていけなかった。
「魔物相手なら、冒険者の盗賊なら、心痛める必要無いよ。ジュリアスは誰にも負けない位、速くて、手癖が悪くなれるよ!」
「盗賊…俺が…」
ジュリアスは自分の手を見つめると、ギュッと力強く握りしめた。
そのまま、兎の魔物の方に向かう。
「うんうん。頑張れー」
応援するルナマリア。
(良心がまだ残ってるみたいだし、可哀想だもんね)
例え未来、極悪非道残念イケメン男になってしまうとしても、まだ小さい子が傷付いているのは良くない!
犯罪は普通に駄目だし。
(実際、ゲームでもジュリアスの職業は盗賊だった)
魔物相手だけなら、冒険者の盗賊で終わるのだが、未来の彼は人間に対しても、盗み、恐喝、暴力、人身売買etc…どっぷり裏社会に染まっていて、人として終わっていた。
(ちょっとフライングで冒険者の盗賊を教えてあげる位、いーよね)
良い事をしたと、ルナマリアは満足げに何度も頷いた。
「ーーっ!よし!盗れた!!」
何度目かのトライにして、ジュリアスは兎の魔物の髭の採取に成功し、ガッツポーズする。
「おー、凄ーい」
パチパチと、その光景を見ていたルナマリアも、笑顔で拍手する。
「……」
無言で、自分の盗った髭を見るジュリアス。
「どうしたの?」
「っ!何でもねぇ!って、後1匹いるな」
ルナマリアが結界で囲った魔物は、2匹。
続いてもう1匹を捕まえようとジュリアスが動き出す前に、空を見上げたルナマリアは、杖を空に向け、結界を解いた。
一目散に逃げ出す兎の魔物。
「あ!おい!」
「もう暗くなってきたし、明日にしよー」
ふぁあ。と欠伸をする。
「明日って…」
「あんまり動くと、夜の山とかって、色々魔物出るし、面倒なんだよ」
見通しも悪くなるし、寒いし、眠いし、お腹空いたし。と、次々と付け足す。
「野宿すんのか?」
冒険者で無いジュリアスにとって、野宿は初めて。
「そうだね。暫くはここを支点にして、ジュリアスの特訓だね」
「ーーは?」
(俺の特訓???)
ルナマリアはニッコリと満面の笑みを浮かべた。
「盗みの才能があっても、それを開花させないと意味ないもんね♪勿論、ある程度戦えないとだし♪」
兎の魔物みたいに、臆病で逃げてばかりの魔物だけが出没する訳じゃ無い。
ルナマリアは魔法で、2つの短剣を出すと、ジュリアスに手渡した。
「これ、前、宝箱でゲットした短剣ね。ジュリアスの素早さには、短剣が生きると思うんだ」
(ゲームの世界で装備、短剣だったし)
テキパキと話を進めるルナマリア。
「おい!勝手にーー」
「ジュリアスなら、世界一残念な極悪非道イケメンの盗賊になれるよ!」
「世界一なんだって???」
捨て置けない台詞に、ジュリアスはルナマリアをキッと睨み付けた。
ルナマリアの宣言通り、ひたすら兎の魔物との鬼ごっこと、短剣の練習(完全に我流。ルナマリアは短剣使えないとNG)を繰り返し、数日後ーー。
山道の脇、草をむしゃむしゃ食べている兎の魔物。
タッタッタッ。
そこに、軽快な足音がしたと思ったら、次の瞬間には、シュッと、風が走った。
ズザーーーーー!!!
「ーー盗った」
現れたジュリアスの手には、兎の魔物の髭。
急に現れたジュリアスに驚き、魔物は一目散に逃げ出した。
ジュリアスの成長具合は著しく、元々がスリで鍛えていたとはいて、人と魔物では勝手が違う筈なのに、才能がある人間は習得のスピードが違う。
戦闘の方は、我流な事もあり、まだまだだが、鍛えれば強くなる片鱗が見える。
「わー凄ーい。期待以上……」
しかし、パチパチと拍手するのと裏腹に、ルナマリアの表情は暗い。
(ああ……私が、ヒロインにあんな暴力を振るう最低最悪極悪非道イケメン残念男を作り上げてるのか……)
最初、ルナマリアが魔法で結界をはり、魔物を逃げられないようにしていたりしたが、今ではその必要も無くなった。
ジュリアスの成長速度が早い程、ゲームでのジュリアスがヒロイン(プレイヤー時の自分)にした事(暴力・人身販売未遂)を思い出し、葛藤する。
「ヒロインマジでごめんっっ!!」
「何言ってんだ、お前…」
急に意味の分からない事を叫び出すルナマリアに、ジュリアスは呆れた表情を向けた。




