旅立ち1
異世界ーー。
ーーー地球とは違う世界。
科学があまり発達せず、代わりに魔法が使える不思議な世界。
《リアリテ》
その中で、人里離れたこの場所は、人間の立ち寄る事の出来ない、神聖な、妖精や精霊、神獣、神様ーーー聖なる者たちが体を休める場所。
綺麗な流れる、穏やかな滝に、湖。
周りには緑の美しい葉を宿した木々。
その湖の中心に、真っ白な大きな花が、綺麗に佇んでいた。
「ん…」
そこには、花の花弁に包まれる、1人の少女。
少女は目を開けると、まだ眠たそうに瞼を擦った。
『おはようルナマリア』
4つの羽を携えた小さな妖精が、ルナマリアと呼ばれる少女の周りを飛びながら挨拶する。
「おはようシル」
綺麗で艶やかな青い髪に、透き通った黄色の瞳。
白いワンピースを着用したルナマリアはまだ幼く、5歳程に見えた。
『今日は何して遊ぶ?』
シルと呼ばれる妖精は、ルナマリアの肩に止まった。
「んー。今日はのんびり、寝て過ごしたいなぁ」
今まで寝ていたにも関わらず、ルナマリアは再度ゴロゴロする事を要望した。
『いつもじゃないか。ルナマリアは怠け者だなぁ』
「怠け者じゃないよ、これは反動!前世社畜だったんだから、今世ではゆっくり過ごしたいんだぁー」
シルの発言に、ルナマリアはニマニマしながら反論した。
そう、ルナマリア、齢3歳。
彼女の前世は、地球、日本に住む25歳のただの社畜OL。
「こんな綺麗な世界で、こーんなに綺麗な容姿で、こぉーんなにのびのび暮らせるんだよー?まるで夢のようだよぉー」
幸せ満載の笑顔で、花の上で転がりながら答える。
「はぁ。もう1回、寝ようかな…」
『おーい、ルナマリアー!』
シルが呼び掛けても、もう眠りについてしまったのか、ルナマリアから反応は無い。
『ルナ、寝ちゃったの?』
『私も一緒に寝よー』
わらわらと、ルナマリアの周りに、他の妖精や神獣が集まり、彼女を囲って、一緒に眠ろうとする。
『あ!ずるい!僕もルナマリアと一緒に寝るんだ!』
シルは慌てて、ルナマリアの胸に飛び込んだ。
穏やかな日常、変わらない日々。
ルナマリアは精一杯、幸せな毎日を過ごしていたーーー
『たわけ。それは堕落じゃ』
ルナマリアは、女神様に呼び出され、正座した。
『毎日毎日、食っては寝て食っては寝て。お前にはメリハリとゆうものが無いのか!』
「朝には1度起きてるよぉ?」
『その後すぐに2度寝しとるじゃろお!』
怒鳴られる声に、ルナマリアは耳を塞いだ。
『良いか!少しは何か学ぶのじゃ!お主ももう3歳!』
「まだ3歳なのに…」
『お主の前世でも幼稚園なるものにでも通ってる頃じゃろお。一日中食っちゃ寝しとる子供はおらん!』
流石は女神様。
地球の事もご存知なのか。と、ルナマリアは感心した。
『いいから、少しは体を動かせぃ。周りの者も、ルナマリアをあまり甘やかすでない!』
女神様は、周りで様子を心配そうに見ていた妖精達にも釘を指した。
「はぁ。遂に怒られちゃった…」
体操座りをしながら、遠くを見つめ、ポツリと呟く。
自分自身、堕落している自覚はあった。
ましてや25歳、成人女性が許される生活はしていない。
「仕方無い…」
ルナマリアはよっ。と、ゆっくり立ち上がると、ぽうっと、手に杖を魔法で出した。
「魔法の練習でもしよ」
異世界に生まれ変わった当初、まだ赤ん坊だった私を、この世界の両親はこの森の近くに私を捨てて、それを、女神様が拾い上げてくれた。
正確には、まだ話す事の出来ない筈の赤子が、助けて貰えませんか?と声をかけたので、驚いた女神様が連れて帰った。
普段、この神聖な場所に人間は入れないようにしてるらしく、自分以外の人間に会った事が無いし、此処から外にも出た事も無い。
ルナマリアは自身の周りに白い光を、浮かべると、そのまま石の壁に向かい、放った。
「ーー破壊魔法」
ドガッッッツ!!!!!
大きな音をたてて、破壊される。
「うん。格好良い」
前世では勿論、魔法なんて使った事が無くて、目にした事も無くて、ぐーたら生活を続けているルナマリアも、魔法には興味があった。
「魔法、極めてこー♩」
調子の出てきたルナマリアは、そのまま魔法の練習を続けーーー
「くぅ」
暫くして、その場で眠りについた。
それから5年後ーーー
ルナマリア、8歳。
神聖な森から離れ、人里が見える山の上に、ルナマリアはいた。
「えっと…あそこかな」
ルナマリアは人里をんー。と、目を細めて見た。
数日前。
唐突に、女神様がルナマリアにお使い?を頼んだ。
『出ておいき』
「ーーーどこに?」
以前と同じように、正座しながら、話を聞く。
『お主はほんっとーに、動こうとせん』
「今は一生懸命魔法の勉強してます」
自信を持って言うルナマリアに、女神様は頭を抱えた。
『お主、毎日毎日此処におって、退屈にはならんのかえ?』