1話 砂漠の国、アデラン
…暑い。
俺は地獄の業火にでも焼かれてるのか。
それとも天国が熱いのか。
ん、人の話し声が聞こえる。誰だろう。
「ねぇカーリ、コイツもう死んでんじゃないの?それより早く支度してきな!」
「いいえ叔母さん、まだ生きているわ。いくらなんでも見捨てられないでしょ。ほら起きて!人が来ちゃう!」
優しく揺さぶられる。たぶん鬼か天使に起こされているのだろう。
でもこの揺さぶりをもう少し堪能していたい…
「起きな!」
べチン!
「痛った!」
俺は急な痛みに飛び起きる。
俺の目の前にあったのは天国でも地獄でもなく、広大な砂漠だった。
「言っただろう?男はこうやって起こすんだよ。」
そう語っているのは巨漢の女だ。壺のようなものを腕に5つもぶら下げている。
「もう、叔母さん乱暴すぎ…怪我人だったらどうするの…
あ、おはよう!大丈夫?歩ける?」
そう俺に聞いたのは青色の長髪美女だ。可愛いと綺麗が混じった美しい顔立ちをしている。
俺はとりあえずコクリと頷く。
「じゃあついておいで。叔母さん、見張りお願い!」
「はいはい…ったく世話が焼ける子だねぇ…」
俺は彼女に手を引かれ、彼女の家らしき民家に連れていかれた。
「あの、ここは…」
そう言いかけた瞬間、彼女は真剣な顔つきで俺の手を握った。
「ええ、確かにここは貴方のいるべき場所じゃない。見つかったら殺されちゃうわ。でも私が安全に帰してあげるから安心してね。」
「え!?殺される!?ここどこなんですか!?」
「え?ここはアンダランよ?貴方、もしかしてデグドスじゃないの!?」
「なんですかデグドスって!俺は…」
あの水面が鮮明によみがえる。自分の口から溢れる空気、冷たい水…
「…死んだはずなのに…」
ここはどこなんだ?俺は誰と話しているんだ?それともこれは夢なのか?
「…ねぇ、貴方は何者?デグドスを知らないって…しかも死んだはずってどういうことなの?」
「えっ?えーと、俺は…」
つい言い淀んでしまった。彼女に自殺のことを言うのは、何だか情けない気がした。
「あぁごめん、先にこっちから言うのが筋よね。私はカーリ。そしてここはアデラン王国の最も大きな街、アンダランよ。」
「俺は斎賀渉、北海道…日本から来ました。あの、あとここは地球のどこらへんなんですか?俺場所わかんなくて…」
「チキュー?なにそれ?」
「え…?」
何を言ってるんだ?いや、田舎の国で何も教育を受けてないとか?
「えっと、じゃあここの隣の国の名前って何ですか?」
「オリアリとか、ハシャクィとかよ。」
全く聞いたこともない。
ん?ちょっと待て、まずこんな聞いたこともない国なのになぜ日本語が通じるんだ?
「貴女が今話している言葉って何語かわかります?」
「それはまぁアデランの言葉だけど…」
おかしい。ここは本当に地球上の場所なのか…
いや、前こんな話を聞いたことがある気がする。
これはもしかすると、ひょっとして…
「…信じられない話ですけど、もしかして俺、異世界から来たのかもしれません…」
「異世界!?どうやって!?」
「いや、これは根拠も何もない仮説です。でも確実に非科学的なことが起きて、俺はここに移動しました。転生したのかもしれません。」
「ふんふん…じゃあ後で巫女様に聞いてみよっか。」
「あれ、随分簡単に納得するんですね…」
「まぁこの街の人じゃなくて、デグドスも知らないならその選択肢しか無いからね。」
「そうですか…そういえばデグドスって何なんですか?」
「あぁ、まだ言ってなかったね…」
「デグドスというのはこの国の最底辺の人々…年中無休で働かされて、その命がモノのように扱われる人々。」
要するに奴隷という事か。
「デグドスの人々はちゃんとした服も着れずに、満足にごはんも食べられずに、わずか30年ほどで寿命を迎えてしまうの。皆と同じ、人間なのに…」
カーリはまるでそれを見てきたかのように、強く重く語った。彼女の言葉に心動かされて、思わず
「それはひどい話ですね」
と賛同した。
するとカーリは顔をぱぁっと明るくし、期待にあふれた目で俺を見つめてくる。
「そう思う!?ほんと!?」
「はい、もちろん。」
「そっか、そっか!いやよかった、同志が見つかって!ちょうど一人欠員が出てたんだよね~!」
「何のですか?」
嫌な予感がした。何かに巻き込まれている感じがする。
「革命隊の!」
「私率いる革命隊は今夜王宮に乗り込んで、王族を追い出して、デグドスの人々を開放するの!」
彼女は無邪気に笑った。
「サイガワタル、私たちと一緒に戦わない?」