第1章 ようこそキボウ部へ(7)
「気象予報部なんて名乗るからには、これがなにかはわかるな?」
階段を上りきって俺たちは屋上に出てきていた。
淡い青空の下、おっさんは白い風船のようなものを手にしている。
「ラジオゾンデでしょ? 実物を見るのは初めてだけどほんとにおっきいんだね」
水無瀬は声を弾ませておっさんに近寄ってまじまじとその風船のようなものを眺めている。
「麻帆もおいでよ。せっかくだから近くで見せてもらいなよ」
「そんなに大声を出さなくても聞こえている」
うんざりしたような声音ながら来栖の口元も微かにほころんでいる。どちらかといえば無表情でいることの多い来栖には珍しい表情だ。水無瀬もいつもよりテンションが高いし、あの風船は気象予報に関わる人にとってはテンションが上がるようなものなのか?
「なんなんだ、これ?」
「そんなことも知らずにお前はここに来たのか?」
訊ねた俺におっさんはあきれ顔を向けるが、知らないものは知らないんだからしょうがない。
「これはね、大気の状態を観測するための装置だよ。ぴゅーっと飛ばして上空の気温とか湿度とか風向きなんかを調べるんだ」
「それなりの勉強はしてるみたいだな」
テンション高めに解説する水無瀬におっさんが感嘆するが、続く質問に顔をしかめた。
「いまから飛ばしてくれるの?」
「やっぱり勉強不足か」
「え? なんで?」
「希、ラジオゾンデ観測は朝と夜の九時の二回だ。そんなことではまた試験に通らないぞ」
冷静に解説する来栖に水無瀬はぐぬぬとうなる。
「だいじょうぶ、一回間違ったことはもう間違えないから」
「ちなみにこれまで試験は何回受けてるんだ?」
俺の疑問に対して水無瀬は
「まだ知り合って間もない一真には教えられないな」
「なんでだよ?」
「だって試験を何回受けたかっていうのは高度な個人情報だからね」
「どこがだよ……?」
「六回だ」
俺が水無瀬にジト目を向けていると、来栖がぼそっとつぶやいた。
「あーっ、麻帆っ! 勝手に教えないでよ!」
「一真だって気象予報部の一員になったんだからそれぐらいいいだろう」
「いずれ教えようと思ってたんだよ。でもいまじゃないのに!」
「なにが違うんだよ?」
そんなふうにわいわいやっている俺たちをおっさんは苦々しい顔をして眺めていたが、
「やっぱりお前らはガキだな」
ぼそり言うと、「次は中を見せてやる」と踵を返すと屋内へ向かった。