第4章 寝耳に水の初試験(1)
諏訪之瀬島での合宿から戻ってきて二週間。キボウ部は順調に活動を続けていた。
動画配信は水無瀬が慣れてきたというのもあるけど、松本のアドバイスのおかげでチャンネル登録者数は二〇〇〇を超えた。ほそぼそと俺が投稿しているツイッターのフォロワーも同じぐらい。
普通の高校生がネット上で活動しても、なかなかこの数にはならないはずだし、もう部の活動実績が足りないって難癖をつけられることはないだろう。部室に来る途中で回収した学校新聞にも新生徒会長の抱負として「生徒の自主性をいままで以上に重視した生徒会にする」って書いてあるし。
「センパイ、なに読んでるの?」
向かいの席に座った松本がネイルの手入れをしながら、ちらと視線を送ってくる。
「学校新聞。俺と同じクラスの名倉美空が生徒会長になったって記事が載ってたから部室に来る途中でもらってきた」
「面白いわけ?」
「こういうのは面白いとか面白くないとかじゃないだろ」
「つまり面白くないって言いたいんじゃん。じゃあなんで読んでんの?」
「松本はまだ一年だから詳しくないかもしれないけど、うちの学校の生徒会長ってけっこう権力を持ってるんだよ。それこそ気に食わない部を潰すことだってできるらしい」
「へえ、いままでそんなことがあったんだ」
「いや、あくまでそういう権力があるってだけで、実際に部を潰した人は俺が知る限りじゃいない。さすがにそんなことをすれば横暴だって言われるだろ」
「たしかにそうかもね」
「一真、無駄話に興じるとはなかなか余裕があるな」
松本と言葉を交わしていると、奥のほうで天気図を解析していた来栖が丸眼鏡の奥でぎらりと瞳を輝かせていた。気象予報士試験が近付くにつれ、来栖の俺に対する指導は厳しくなってきていた。最近では出された問題が解けずにいると、下校時間のあとでもファミレスに連れ込まれて解けるまで帰してもらえない。サービス残業の毎日で、これじゃあブラック部活だ。時代はゆる部活だというのに……。
しかし来栖の指導は的確で過去問を解くとだいぶ手ごたえを感じるようになってきていた。
そんなわけで来栖に逆らうわけにはいかず、
「わかってるよ。ちゃんとやるから」
学校新聞をたたむと俺はカバンから問題集を取り出す。
来栖の近くの席では水無瀬も熱心に勉強している。合宿から戻ってきてからは動画撮影をするとき以外はずっとこの調子だ。からかわれることが少なくなってほっとする半面、寂しい気もする。
「一真、さっさとやれ」
「はいはい、わかってますよ」
再び来栖に睨まれて俺は今度こそ問題集を解き始めるのだった。
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