第2章 うろこ雲と厚化粧(6)
「どしたの?」
桜というよりも肉の香りを思い浮かべていると、水無瀬が背後からノートPCの画面を覗きこんできた。
「松本が今週末に甲突川から配信するんだってさ」
「ふーん。でも今週末はちょっと花見には向いてないかもね」
「どういうことだ?」
水無瀬は「麻帆、これチェックしてくれる」とプリントアウトした紙を渡してこちらに向き直る。
「今週末はところにより一時雨が降るでしょう、って予報なんだよ」
「いまその予報をしてたのか?」
「そ。傘がいるかいらないかってレベルの雨だと思うんだけど、花見はどうかな」
「でも水無瀬は予報士試験に通ってないんだろ。だったら外れるんじゃないのか?」
窓の外に目をやると、春らしいぼんやりとした青空が広がっている。
週末までまだ数日あるけど、今日の空を見る限りとてもじゃないが雨なんて降りそうにない。
「希の予報の精度は高いぞ」
水無瀬に「問題ない」と言いながらプリントを返す来栖。
「そうなのか?」
「試験に通るのと予報ができるのとは別だ。希が試験に通らないのは精神的な問題だけだ」
「精神的な問題って、試験本番になるとプレッシャーを感じるとかそんなことか?」
「ま、そんなとこだね」
たははと笑う水無瀬は「そんなことより」と言葉を継ぐ。
「これで今週末の活動は決まったね」
「週末は休みにしてほしいんだけど? この間も気象台に行ったんだし」
「一真はほんとに甘いな」
腰に手をやってわざとらしく「はあ」とため息をつく水無瀬。
「気象予報の仕事は二十四時間三百六十五日やってこそ意味があるんだよ?」
「仕事じゃないからな! たかが高校生の部活だからな!」
「そんなこと言って、ほんとは週末にもわたしに会えるのが嬉しいんでしょ?」
「俺の言葉のどこをどう取ったらそう思えるんだよ」
「まあ一真の気持ちはわかったよ。それに応えるのはどうかと思うけど、とにかく週末は甲突川河畔に集合だからね。琴音ちゃんの前で気象予報をして、それが当たったらきっと琴音ちゃんもすごいって言って入部してくれるよ」
「ほんとどう考えたらその発想になるんだよ……」
うなだれる俺に目もくれず水無瀬は来栖と当日の詳しい集合場所やら時間やらの打ち合わせを始めるのだった。
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