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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第七章 私に限界は無い!
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94th BASE

 初回、亀ヶ崎はツーアウトから出塁した紗愛蘭を一塁に置き、オレスが三遊間を破る痛烈な打球を放つ。しかし鯖江戸はレフトの平を極端に前へと出すシフトを敷いており、彼女が二塁をアウトにしてチェンジとなる。


「ちっ……」


 オレスは強く舌を打ち、こうなることなら得意の右方向へと打つべきだったと悔やむ。そんな彼女に守備位置に向かおうと一塁ベンチから出てきたゆりが声を掛ける。


「惜しかったねチャンオレ。切り替えて次の打席でやり返してそう!」


 ゆりは陽気にオレスの肩を叩いて走り去る。オレスは彼女の背中を見ながら小さく鼻息を漏らし、自らも守備に就くべく一旦ベンチへと下がった。


 対する鯖江戸ベンチでは、有村がプロテクターを外して奥の席で腰掛ける。守備を終えて一息吐きたいところだが、そんな暇は無い。すぐさまタブレットを手に取り、次のイニングに向けてデータを浚っておく。


(二回は五番の西江から。傾向としては引っ張った打球が多いけど、単打に関しては右方向も少なくない。九種別ではちょっと変化球の打率が高い程度か。こうやって見ると掴みどころのないバッターだな)


 タブレットのデータはほとんど頭に入れている有村だが、自軍の攻撃時には打席に立ったり出塁したりしない限り必ず確認を行っている。万が一にも覚え間違いをしていれば致命傷になりかねず、それで負けるようなことがあってはならないと常に戒めている。


《一回裏、鯖江戸高校の攻撃は、一番サード、参藤さん》


 鯖江戸の一番打者を務める左打者の参藤が打席に入り、一回裏が始まる。亀ヶ崎の先発は祥。マウンドの後ろで左肩を回し、緊張を紛らわしてから参藤と対峙する。


(初っ端から左バッターが相手か。おそらく私が左に弱いってデータは出てるだろうし、それを基に打順を組んでるのかも)


 鯖江戸は亀ヶ崎が真裕を先発させてこないことを想定し、投手毎のオーダーを用意していた。その上で今日は練習風景などから祥が先発マウンドに上がると断定。彼女が苦手とする左打者が多く並んだオーダーを使用している。


(ただ監督から言われた通り、私は二年半で積み上げてきた力を出すだけだ。左バッターだって抑えられるようになった。自信を持って投げるぞ!)


 祥は自らを鼓舞し、第一球目のサイン交換を行う。彼女は雪野と同様セットポジションから投球モーションを起こすと、力強く左腕を振り抜いた。


「ストライク」


 ストレートが外角に決まる。初球からストライクが入り、祥は仄かに安堵する。


(よし。データ野球だろうが何だろうが、相手がどんなことをしてきてもストライクを先行させるべきなのは変わらない。この調子でリズム良く投げよう)


 二球目も祥はストレートを続ける。こちらもきっちりとアウトコースのストライクゾーンに投げ込んだ。参藤が手を出してこなかったため、あっさりと追い込める。


 三球目は外角から逃げるスライダー。これは参藤が見極めてボールとなる。


(笠ヶ原は左に対しての四球率が異様に高かったけど、徐々に改善傾向にある。この二球を見る限りコントロールは悪くなさそうだし、制球難は克服しつつあるんだろうな。フォアボールは期待せず、打って出塁しよう)


 様子見をしていた参藤だが、ここからは手を出していかなければならない。四球目、アウトコースのストレートを彼女はバットに当て、三塁側へとファールを打つ。


(ここまでは全て外角。笠ヶ原の特徴の一つに、立ち上がりは左バッターの内角にほぼ投げてこない。キャッチャーがサインを出さないのもあるけど、それだけバッテリーに自信が無いんだろうな。この点は狙い目だね)


 五球目、祥の投球はまたもや外角へ。低めに沈むカーブに対し、参藤は右足を着いてから溜めを作ってタイミングを合わせる。


「ショート!」


 参藤の放った打球は緩やかにショート上空を舞う。京田のグラブは届かず、その後方に落ちるヒットとなる。


「おーし! ナイスバッティング!」


 鯖江戸ベンチから拍手が起こる中、参藤は一塁に到達。祥はいきなりランナーを背負う。


(上手く低めに投げられたと思ったのに……。打たれたものは仕方が無い。ここから踏ん張ろう)


 気を取り直して祥は次打者への投球に臨む。キャッチャーの菜々花も彼女に一声掛けてフォローを入れる。


「祥、打たれはしたけど良い球だったよ。ランナーはあんまり気にせず、とにかく打者を打ち取っていこう」

「分かった」


 続く打者は二番の里山(さとやま)。彼女も参藤と同じく左打席に入る。


(鯖江戸は今大会で盗塁を決めていない。相手にもよるんだろうけど、基本的に足を絡めた攻撃はしてこないと考えて良い。だから祥にはバッターに集中させてあげたい)


 初球、菜々花はアウトコースに大きく外してミットを構える。祥はそこに向けてストレートを投じる。里山は手を出さず、当然ボールと判定される。


「ファースト!」


 すると菜々花は立ち上がって一塁に送球。二次リードを取っていた参藤はヘッドスライディングで帰塁する。


「セーフ」


 クロスプレーにこそなったものの、アウトにするのは厳しいタイミングだった。しかし参藤に釘を刺すには良い牽制となる。


「祥、ランナーが走っても私が安心して。まずはアウトを一つ取るよ」


 祥が深々と頷く。キャッチャーにこれだけ言われれば、ピッチャーも信じて任せられる。菜々花の強肩を見せられ、鯖江戸としてもランナーを動かすことは躊躇われる。里山はベンチからのサインを受け取ると、バントの構えを見せた。


(手堅く送ってくるのか? クリーンナップに自信があるなら良いと思うけど、まだ初回だぞ。祥だってアウトが取れれば少し落ち着けるし、こっちからすればありがたい)


 菜々花は送りバントとは決め付けず、あくまでも里山が打ってくるものとして配球を考える。二球目は祥に外角のスライダーを投げさせる。


「ストライク」


 若干真ん中に入ってしまったが、里山はバットを引いて見送るだけ。バッテリーがすぐに並行カウントに戻す。


(やっぱり簡単にはバントをしてこないよな。真ん中のボールを見逃してくれたし、結果的にこっちとしてはラッキーだった)


 三球目。菜々花はストレートのサインを出す。一球目とは異なり、ストライクゾーンにミットを構える。


「ストライクツー」


 祥の投球は外角高めに決まる。今度は打つ姿勢で構えていた里山だったが、スイングはしない。


「良いぞ祥ちゃん! ナイスボール」


 祥はランナーを出しても動じず、テンポ良く里山を追い込む。これにはベンチの真裕からも彼女を称える声が飛ぶ。


(祥ちゃん、慌てることなく投げられてるな。まだ始まったばかりだけど、今日は大丈夫そうだ)


 四球目、バッテリーは遊び球を挟まず勝負を決めにいく。選んだのはアウトローへのスライダーだ。



See you next base……

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