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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第七章 私に限界は無い!
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93rd BASE

《二番ファースト、山科さん》


 打席には嵐が入る。腰の状態を考慮してスタメンは外れた三回戦では、彼女に代わって出場したきさらが光る働きを見せた。負けていられない。鯖江戸の守備隊形はほぼ定位置通り。特別なシフトは敷かない。


(私の打球傾向はそんなに偏ってないってことか。そうなると配球でデータを利用してくるのかな)


 初球、アウトコースへのスライダーを嵐が見逃す。判定はストライクだ。


(私にも変化球から入ってきたか。何かしらのデータによるものだろうけど、あんまり深く考えてもしょうがない。同じような球を狙ってみよう)


 二球目。スライダーよりも遅く山なりの変化をするカーブが来た。嵐は打ちに出ようとするも、高めに外れていたためバットを止める。キャッチャーの有村は捕球後、嵐を見やってから返球する。


(やっぱり打ちにきてたな。元々キャッチャーだけに、こういう読みは鋭そうだ。山科はランナーがいないと、追い込まれるまでは広角に打ち分けてくる。そして初球のスイング率が低く、二球目以降の変化球に対しての打率が高い。今のもストライクなら捉えられてたかも)


 三球目、鯖江戸バッテリーはカーブを続ける。今度は真ん中から内角に入ってきたため、嵐は引っ張り込む。


「ファール」


 速い球が三塁線沿いを転がる。しかし球審が手を広げてファールとなり、カウントはワンボールツーストライクに変わる。


(本当はもっと厳しく内を突きたかったけど、まあストライクを一つ稼げたから良いか。山科は追い込まれるとほとんど引っ張らない。おっ付けることに徹してくる)


 有村は四球目、インコースのストレートを要求する。その通りに投げ込んだ雪野の投球に対し、嵐はカットで逃れる。


(そう簡単にアウトにならないか。けど引っ張る気が無いことは分かった。ならそこまで怖くない)


 五球目、チェンジアップのサインを出した有村はアウトローにミットを構える。雪野の投球は真ん中付近に行ってしまったが、低めには来ている。


「セカン!」


 嵐は一二塁間を狙って打ち返した。しかし打球の飛んだ先はセカンドの真正面。難無く処理されてアウトとなる。


 逆方向への意識が強くなっていた嵐に対し、有村は敢えて外角を使った。実はこれもデータを用いた配球である。


(外角低めの打率は高い山科だけど、ツーストライクを取られた後は極端に悪くなる。他のコースはファールしようとするのに、外角低めだけは得意だから前に飛ばしてヒットを打とうとするんだろうな)


 嵐はツーストライク以降に限ると、外角低め付近での結果球が多くなっている。つまり外角低めでフライやゴロなどの凡打、もしくは安打になっている割合が高いのだ。鯖江戸はそうしたデータまで所持している。


《三番ライト、踽々莉さん》


 一、二番が凡退し、迎える打者は三番の紗愛蘭。鯖江戸は彼女に対しても守備位置は大きく変えない。


(データではセンターからレフト方向に打球が多く飛んでる踽々莉だけど、彼女の場合はシフトなんて気にせず野手のいないところに打てる技術がある。それなら何もしない方が良い)


 紗愛蘭の技術があれば、シフトの穴を意図も簡単に突くことができる。鯖江戸はそれが分かっているため、特別なことはしない。有村もセオリーに近い配球をする。


(ひとまずはインコースを意識させて、そこからコーナーに散らしていこう。この打席の踽々莉にはヒットを許しても良い。重要な局面で抑えることを考えるんだ)


 初球はインハイに外れるストレート。紗愛蘭は自らの胸元への投球に、右肘を引いて見逃す。


 二球目も内角のストレートが続く。バッテリーは低めを使って紗愛蘭の足を掃う。こちらも外れてボールが二つ先行する。


(私には二球連続で内のボール球か。コントロールミスというよりか、予め外れても良い感じで投げてるっぽいな。私を出すとオレスが控えてるけど良いの?)


 三球目。スライダーが外角へと曲がっていく。紗愛蘭はこれを予測しており、右足を踏み込んでレフトに弾き返す。


 お手本のよう流し打ちで、打球はレフトの(たいら)の前に落ちた。紗愛蘭は一塁を回ったところで止まる。


(直前の二球で体に近いところを攻められたにも関わらず、次にアウトコースをあっさり打つとは。流石としか言いようがないね。ここは単打で済んで良かったとしよう)


 紗愛蘭のバッティングには有村も脱帽する。配球としては悪くなく、これで打たれたら仕方が無いと割り切るしかない。


《四番サード、ネイマートルさん》


 ツーアウトながら紗愛蘭がチャンスメイクし、四番のオレスに回る。すると鯖江戸は何とも奇妙なシフトを敷く。


「え? 何これ?」


 ベンチで見ていた真裕も眉を顰め、野手の位置を一人一人確認していく。ファーストはランナーがいるため一塁ベースに就いているが、セカンドは一二塁間に寄った上で定位置から数メートル下がっている。ショートは二塁ベースの真後ろに立つ一方、サードは三塁線を締めている。

 それ以上に注目すべきは外野陣。ライトとセンターが右寄りに移動し、レフトに至っては広く空いた三遊間を埋めるかの如く、今のセカンドの位置と同じくらいに前へ出てくる。


 これにはスタンドも含め場内が騒然とする。いくらオレスが右方向に打つのが上手いと言っても、右打者に左中間から左に掛けてぽっかりと空いてしまうシフトを敷くのは如何なものか。


 オレスは特に表情を変えず打席に立つ。その初球、雪野は内角低めのストレートを投じる。レフトがいないとも言える守備隊形の中、いきなりのインコース攻め。オレスは予想してなかったのか、バットを振らずにストライクのコールを聞く。


(このシフトや配球をどんな意図でやってるのかは分からないけど、良い気分はしないわね。次もインコースなら容赦無く叩く!)


 二球目。雪野は真ん中からオレスの膝元へと変化するスライダーを投じる。言うまでもなくオレスは打って出た。


「はっ!」


 快音を残した打球は瞬く間に三遊間のど真ん中を破る。だがそのすぐ後ろに本来はレフトの平が守っている。

 外野手の平だが、巧みなグラブ捌きで危なげなく打球を掴む。それからは二塁ベースカバーに入ったショートに送球する。


「アウト」


 記録はレフトゴロ。またしても鯖江戸のシフトに掛かり、亀ヶ崎は初回の攻撃を無得点で終える。



See you next base……

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