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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第六章 私がライバル
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91st BASE

《亀ヶ崎高校のピッチャーは、柳瀬さん》


 楽師館との一戦から中一日を空けて三回戦が行われる。この試合でも私は先発を任され、前回の屈辱を晴らすべくマウンドに上がった。


「セカン!」


 相手チームや球場の雰囲気に流されず、普段通りの投球を心掛けて投げていく。今大会を通じて三試合目の登板となるため多少の疲れは感じていたものの、それが却って不要な力を抜くことに繋がった。おかげで概ね自分のイメージ通りのピッチングができる。


「アウト。チェンジ」


 私は五イニングを投げ、許した被安打と四球は共に一つ。無失点で降板した。内容にも満足できたが、第一に結果を残せたことに安堵する。


 試合は二回、六番に打順を上げた栄輝ちゃんのタイムリーで私たちが先制すると、嵐ちゃんに代わってスタメン起用された八番のきさらちゃんも続く。レフトへのツーベースを放って二人のランナーをホームに迎え入れた。二回戦突破の立役者が今日も躍動。この回だけで三点を挙げる。

 更には四回に二点、七回には一挙五点を追加。合計で二桁十得点を積み上げた。


 一方の投手陣。私の後の二番手は祥ちゃんが務める。彼女はランナーを二人出しながらも、一イニングを無失点で凌ぐ。


《亀ヶ崎高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、笠ヶ原さんに代わりまして、春木さん》


 迎えた最終回。マウンドには一年生の結ちゃんが送られる。自分の名前をコールされ、彼女は意気揚々とベンチを出ようとする。


「おっしゃ! 遂に出番が来ましたよ!」

「結ちゃん、とにかく投げることに集中すれば良いからね。点差もあるし、いざとなれば春歌ちゃんも控えてる。気楽に行こう」

「分かりました! 行ってきます!」


 結ちゃんはこれが公式戦初登板となる。彼女なら大丈夫だろうと思いつつも、私は心の奥底で少々の不安を抱く。旅に出る子を見送る親は、こんな気持ちなのかもしれない。


 しかし、私の心配は杞憂に終わる。結ちゃんは特別なことなど何も無いと言わんばかりに堂々たる投球を見せる。


「スイング、バッターアウト」


 まずは先頭打者を三振に仕留めてみせた。それだけに留まらず、次の打者からも三振を奪う。


「ファースト!」


 流石に三者連続三振とまではいかなかったものの、結ちゃんは最後の打者をファーストへのファールフライに打ち取り、あっさりと三者凡退で締め括った。彼女は試合後の整列の際に私の隣に並ぶと、得意気な笑顔を咲かせる。


「真裕さん、やりました! 私のピッチングはどうでしたか?」

「完璧だったよ。凄いね!」

「えへへ、ありがとうございます!」


 結ちゃんの口元が一層綻び、頬には靨ができる。私はその顔に可愛らしさを感じつつも、瞳の奥底に秘められているであろう野心に肩を震わすのだった。


 宿舎に帰った私たちは夕食を済ませた後、明日の四回戦に向けてミーティングを行う。相手は福井の鯖江戸(さばえど)高校。最初に第二顧問である森繁先生からチーム情報が伝えられる。


「鯖江戸は今時と言っては何だが、データを駆使して戦ってくる。まずはこの映像を見てほしい」


 森繁先生は事前に用意していたプロジェクターを起動させ、とある映像を再生する。そこにはバックネット裏付近から撮影した鯖江戸の試合風景が映っていた。


 鯖江戸は守備側。イニングは分からないが、状況はワンナウトでランナーがおらず、左打席に相手チームの四番打者が入ろうとしている。鯖江戸の内野手たちは各々の守備位置を大きく右に動かし、サードは三遊間、ショートは二塁ベースの後ろまで移動する。


「今打席に立ったバッターは、打球の八割がマウンドから右方向に飛んでいる。鯖江戸はそのデータを基にして極端なシフトを敷いているんだ。彼らは今年から大会運営に許可を得てベンチにタブレットを持ち込んでおり、その中に各選手の打球傾向や特徴などが記録されていると思われる」


 これまた凄いことをするチームが現れたものだ。試合中にタブレットを使用するなんて、少なくとも高校野球では見たことがない。外部との通信機能やカメラ機能などが無いことも証明しないといけないだろうし、持ち込むための手続きも大変そうだ。


「もちろん野球はデータが全てではないが、去年まで良くて二回戦止まりだった鯖江戸がタブレットを使えるようになったことで四回戦まで勝ち上がってきたことも事実だ。私たちのデータも取られているはずだし、明日はそれを参考にして配球を組み立てたり戦術を練ったりしてくることが想定される。皆には自分自身が鯖江戸にどう見られているのか、彼らの分析を乗り越えるにはどうするべきかを考えながらプレーすることが要求されるだろう。こちらからの報告は以上だ」


 森繁先生の話が終わり、続いて監督から先発投手が発表される。私は心音が大きくなるのを感じながら聞く。


「明日の鯖江戸戦だが、先発ピッチャーは祥に任せたいと思う」

「あ……、は、はい!」


 私の胸の鼓動が緩やかになると同時に、祥ちゃんがやや上擦った声で返事をする。投げられないのは残念だが、こうなることは予想していた。私の体にはこれまでの登板で相応の疲労が蓄積している。監督はそれを考慮し、準決勝に万全の状態で臨むためにも連戦となる明日は休ませたいのだろう。加えて祥ちゃんの方が私よりも鯖江戸のデータは揃っていないと考えたかもしれない。


「祥、相手はお前を崩そうと色々仕掛けてくるだろうが、何も気にしなくて良い。二年半で培ったものをそのまま出せれば必ず抑えられる。頼んだぞ」

「分かりました……。頑張ります!」


 祥ちゃんは不安気な表情を見せながらも、最後は目元を引き締めて意気込む。彼女には自信を持って投げてほしい。そうすれば鯖江戸が如何なるデータを持っていようと簡単には打たれない。


「野手陣はまず守備で祥を支えてやってくれ。そしてできるだけ早く、そして多くの点を取って、ピッチャーが投げやすい状況を作ろう。鯖江戸にどれだけ豊富なデータがあろうとも、こちらがリードして逃げ切ってしまえば関係無い。相手の策に恐れず、自分たちのやるべきことを地道に積み重ねていく。そうすれば勝てるはずだ!」

「はい!」


 鯖江戸のデータ野球がどんなものなのかは、実際に戦ってみないと分からない部分も多い。けれどもどんな相手だろうと私たちは倒さねばならない。


 これを勝てばベスト四。悲願の全国制覇も見えてくる。



See you next base……


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