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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第二章 日本一を目指すということ
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8th BASE

お読みいただきありがとうございます。


遅ればせながら明けましておめでとうございます。

2022年もドラらん並びに『ベース⚾ガール!』をよろしくお願いいたします。


今年最初の更新は男子野球部との交流試合からスタートです!

序章と違ってより濃密な試合を描いていく予定ですので、お楽しみいただければ幸いです。

 四月某日。真裕や結の所属する亀ヶ崎女子野球部は、毎年恒例の男子野球部一年生との交流試合に臨む。


「男子野球部、シートノック行くぞー!」

「女子野球部、スタメン発表するよ!」

「はい!」


 雨が降りそうなわけでもなく、日差しが眩しいわけでもない濁った空に、活気溢れる男女の声が響く。試合に向けた準備は着々と進められていた。


 この交流試合は女子野球部が創設されたことを契機に七年ほど前から始まった。最初期は男子野球部が優勢だったものの、一昨年は引き分け、昨年は女子野球部の大勝と徐々に風向きは変わりつつある。それだけ彼女たちが力を付けてきたということだ。


「七番ピッチャー、真裕」


 一塁側ベンチでは、主将の紗愛蘭がスターティングメンバーを読み上げていく。女子野球部の先発投手はエースの真裕。彼女はブルペンで肩を作っている。


「次、ストレート行くよ!」


 真裕は一年生の頃から男子野球部との試合に出場しており、今年で三年連続となる。初登板を飾った試合から二年、壁にぶつかりながらも成長を重ね、今や絶対的なエースとして君臨している。


 予定では今日の真裕は四イニングで降板。試合は男子に合わせて九イニング制で行われるので、残りのイニングは他の投手で賄うこととなる。先日入部したばかりの結の登板もあるかもしれない。


「集合!」


 試合開始の時刻となり、一塁側ベンチから女子野球部、三塁側ベンチから男子野球部が飛び出してくる。両者はホームベースを介して整列した。


「ただいまより、男子野球部対女子野球部の交流試合を始めます!」

「よろしくお願いします!」


 挨拶を済ませ、後攻の男子野球部の選手たちが守備位置に散っていく。一回表、女子野球部は一番の京子が打席に入る。


 男子野球部の先発マウンドに上がったのは、右投げの足立(あだち)。細身で幼気な顔立ちをしているが、既に一四〇キロ近い速球を投げられる注目の新人である。例年この交流試合では有望株よりも少し実力の劣る投手を起用してきたが、昨年の大敗を受けて方針を転換。二連敗は許されないと全力で勝ちにきている。


「プレイ!」


 球審の号令を聞き、男子野球部バッテリーがサイン交換を行う。足立はグラブを臍から額の位置まで上げて振りかぶると、小さな体に宿した強大なパワーを解き放つべく肩から腕を広く大きく旋回させ、この試合の第一球を投じる。


「ストライク」


 石槍のように強さと速さを兼ね備えたストレートが低めに決まった。差し込まれた京子はバットを出せず見逃すしかない。


(速っ……。一三〇は出てるんじゃない?)


 現在の女子野球界において、日本人で一三〇キロを投げられる者は確認されていない。京子たちもマシンを使った打撃練習で打ってはいるものの、実際に人間が投げたものの方が球質も良く体感速度もずっと速い。つまり女子野球部は未知に等しい投手と戦うことになる。


(……怯むな。夏大ではこれくらいの投手だって出てくるかもしれない。その時のための予行演習だと思え)


 京子は弱気になりかけた心を奮わせる。全国制覇を遂げるにはどんな相手が来ようとも倒す以外に道は無い。できなければそこで挑戦は終了。何としても倒す方法を見つけなければならない。


(真っ直ぐは速いけど、当てられないわけじゃない。ひとまずは芯に当てることだけを考えろ。そうすれば自然と強い打球が飛んでくれる)


 二球目も足立はストレートを続ける。コースは外角高め。京子は打ち返すも、球威に押されて三塁側のファールゾーンにフライを上げる。


「オーライ」


 打球はサードががっちりと掴む。完全に力負けを喫した京子は、たった二球で最初のアウトを献上してしまった。


(ウチのパワーじゃ捉え損ねたら全部こうなっちゃう。次の打席までに修正しないと)


 京子は悔しそうに奥歯を噛み締めて打席を後にする。次打者も凡退してツーアウトとなり、三番のオレスに打順が回る。


(京子の話だと一三〇キロ出てるみたいね。けど重要なのは質。どの程度なのか見定めてやる)


 初球、アウトローにストレートが来る。オレスは球筋を見極めようとしたが、予想以上に球速を感じて目で追い切れない。当然バットを振ることはできずストライクが一つ先行する。


(タイミングが全く合わなかった。速いだけじゃないみたいね。でもそっちの方が攻略し甲斐があるわ)


 続く二球目もストレート。高めのボールゾーンを通っていたが、オレスはバットを出しかける。球速を意識するあまり、つい体が反応してしまった。


「スイング」


 球審はオレスがバットを振ったと判定を下す。忽ちツーストライクとなる。


(いけない。急いでスイングしないとと思って慌てた。まずは目でしっかり捉えて、それから打ちにいかないと)


 一旦打席を外したオレスはヘルメットを被り直す振りをし、冷静になろうと努める胸中を悟られないようにする。気後れした振舞を見せて相手投手を調子付かせるわけにはいかない。


 三球目、足立はまたもストレートを投げてきた。しかしアウトコースに大きく外れており、オレスは落ち着いて見送る。


「あっ、外れちゃった」


 マウンドの足立は微妙に渋い顔を見せる。遊び球を挟まず勝負に行ったつもりだったが、力み過ぎてしまった。パワーがあるが故に制御の利かないことも多く、その点をどう改善するのかが今後の課題である。反対に亀ヶ崎打線としてはこの弱点に上手く付け込みたい。


(ピッチャーの表情を見る限り、態とボールにしたわけではなさそう。二球目もそうだったけど、コントロールにはちょっと不安があるのかも。なら打てる球だけを打ちにいく姿勢を徹底しないと)


 ほんの僅かながら足立の特徴が見えてきた。ワンボールツーストライクからの四球目、彼の投球は真ん中やや内寄りに来たが、これまでよりも若干球速が遅い。


(何これ? 変化球?)


 得体の知れない一球にオレスは戸惑う。ただ見逃せばストライクのため打ちにいかざるを得ない。彼女がスイングを開始した瞬間、投球は緩やかに減速して沈んでいく。


「ショート!」


 バットの下面に当たった打球は勢いの無いゴロとなり、ショートの正面に転がる。これを難無く処理されてスリーアウト。チェンジとなる。


(今のはチェンジアップか。あの速い球と組み合わせられるのは厄介ね)


 オレスすらも足立の投球に翻弄されてしまった。苦戦の予感が漂う中、亀ヶ崎の初回の攻撃は終わる。



See you next base……

PLAYERFILE.5:オレス・ネイマートル(OREZ・NAMARTLU)

学年:高校二年生(年齢は真裕たちと同い年)

誕生日:12/12

投/打:右/右

守備位置:二塁手、三塁手、その他全ポジション

身長/体重:156/54

好きな食べ物:フィッシュフライ

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