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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第六章 私がライバル
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83rd BASE

 七回表、春歌はノーアウトランナー一、三塁のピンチを凌いだ。この姿をレフトから見ていた真裕だが、彼女の好投を素直に称えられない。


(何だろう、このもやもやした感じ。春歌ちゃんが好投してるのに、あんまり嬉しい感情が湧いてない……。きっと自分たちが負けてるからだよね。私にも打席が回ってくるし、勝つためには打つしかないぞ)


 胸の騒めきを一旦落ち着かせ、真裕はグラブを置いてバッティンググラブを付ける。自分に打席が回ることを信じて準備を整える。


《七回裏、亀ヶ崎の攻撃は、六番セカンド、木艮尾さん》


 まずは昴が打席に入る。前のイニングでは京子が先頭打者として出塁し、得点に繋げた。その流れを再び作りたい。


(こんなところで負けてたまるか。春歌のピッチングにも応えたいし、三年生を引退させるわけにもいかない。私が道を拓くんだ)


 一球目。石川はカーブを投じてくる。昴が見送ってストライクとコールされる。


(初球はカーブから入ってきたか。流石に真っ直ぐの威力も落ちてくるだろうし、緩急を使って打ち気を逸らしながら乗り切ろうって考えてるのかも。だったら尚のこと真っ直ぐを打てれば、いよいよ投げる球が無くなってくるぞ)


 二球目もカーブが続く。一球目よりも低く投じられており、昴はバットを出さない。


「ボール」


 配球の流れから、次はストレートが来ると考えられる。昴は狙いを定めて打ちに出る。ところが三球目、石川が投げたのは真ん中から落ちるフォークだった。昴は振り出していたバットを止められない。


「ああ……」


 空振りした昴は思わず渋い顔をする。予測を外され、石川の思うがまま操られるような形で追い込まれてしまう。


(真っ直ぐは投げてこないのか? ……いや、そんなことはない。ここまで来て考えを曲げるな)


 昴の脳内に三振を喫するイメージが浮かぶ。その恐怖に心身が怯えながらも、彼女は自らを奮わせてバットを構え直す。


 石川が四球目を投じる。投球は昴の胸元の高さを直進。ストレートが来たのだ。


「……くわっ!」


 昴は窮屈なスイングを強いられながらも、低い唸り声を上げてバットを振り抜く。鈍い打球音を奏で、力の無い小飛球が上がる。


「ファースト!」


 飛んだ先は一二塁間。グラブを伸ばしてジャンプする東條の上を通過し、その後方に打球は弾む。そのまま外野に抜ようかとする寸前で、セカンドの西本が回り込んで追い付く。


「ボールファースト! 急いで!」


 マウンドからベースカバーに走ってきた石川が叫ぶ。彼女は西本からの送球をベースの手前で受け取った。あとは昴との競走。二人は必死でベースに向けて足を伸ばす。


「セーフ、セーフ!」


 際どいタイミングだったが、一塁塁審セーフの判定を下す。昴と石川が同時にベースを踏んだと判断したのだ。普段はクールな昴も、これには手を叩いて嬉しがる。


「よし!」


 昴が球威に負けずバットを振り切っていたことで打球はファーストの頭を越え、内野安打に結び付いた。それまでほとんどの打者がファールや逆方向にしか打てていなかっただけに、どんな形でも引っ張れた事実には価値がある。石川のストレートの威力も、微小ながら弱まっているかもしれない。


《七番キャッチャー、北本さん》


 同点に追い付くためには最低でもランナーがもう一人必要となる。言うまでもないが、その一人はアウトを取られる前に出塁したい。菜々花は昴に続けるか。


(もちろんそんなつもりは無いけど、悪く考えれば高校生活最後の打席になるかもしれない。どうせ最後になるなら、せめてスイングぐらいは悔いの残らないようにしよう)


 初球、真ん中低めへと沈むカーブを、菜々花はフルスイングで打とうとする。だがミートポイントが合わずにバットは空を切る。


(確か昴の時もカーブから入ってきてたな。最終回で慎重になっているだけじゃない。単に真っ直ぐへの信頼が薄れてきてるのもあるんだと思う。今の私のスイングを見て、真っ直ぐを投げることを更に怖がってくれたら山を張りやすくなるぞ)


 二球目はストレート。キャッチャーの大下のミットは菜々花の膝元に構えられていたが、投球は低めに外れる。


(今の一球はキャッチャーの要求にピッチャーが応えられなかった感じかな。やっぱり真っ直ぐに自信が無くなってきてるんだ。だとしたら次は変化球が来るぞ)


 三球目、菜々花の読みは的中する。石川は外角低めにカーブを投じてきた。


(臆するな。振れ!)


 菜々花はそう自分に言い聞かせ、バットを振る。昴とは一転して快音を鳴らす。


 左中間に大飛球が舞い上がる。菜々花は走り出すと同時に、打球に向かって叫んだ。


「行け! 抜けろ!」


 打球は菜々花の声に後押しされて勢いを増す。……かと思われたが、放物線の頂点に達したところで急激に失速する。必死に背走していたレフトの中本が慌ててブレーキを掛け、最後は少し前に出てきて落下点に入る。


「アウト」

「ああ……」


 打球が中本のグラブに収まり、菜々花と亀ヶ崎の選手たちは一様に溜息を漏らして空を見上げる。打った瞬間は長打になるかと期待が掛かったが、外野の頭を越えることはできず。外角球をやや強引に引っ張ったため、いまいち飛距離が出なかったか。


《八番ファースト、野際さん》


 アウトカウントが一つ増え、打席に栄輝が入る。二打席目ではストレートを引っ張ってツーベースを放っており、亀ヶ崎打線の中で唯一、石川に対して力負けをしていない。

 ただ石川の投球は変化球が多くなっている。それに対応できるか。


(昴も菜々花さんも初球はカーブだった。さっき私がストレートを打ってる記憶は残ってるだろうし、きっとカーブが来る)


 一球目。石川の投球は抜けたような軌道でアウトハイに向かう。カーブにも見えるが、それにしては回転数が少ない。


(……これはフォークか? このコースなら打てる!)


 狙いとは違うものの、栄輝は手を出していく。フォークの落ち際にバットを潜らせて打ち返した。


「センター!」


 打球がセカンドの上を越えてセンター前に弾む。栄輝が二打席連続のヒットを放ち、同点のランナーが出塁する。



See you next base……


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