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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第六章 私がライバル
83/149

80th BASE

 六回裏の亀ヶ崎の攻撃。先頭の京子がショートへの内野安打で出塁する。


《二番ピッチャー、沓沢さん》


 亀ヶ崎はこの試合で初めてノーアウトのランナーを出す。打席には二番の打順に入っていた春歌が立った。


「続け春歌ちゃん!」


 ベンチから真裕が絶やさず声援を送る。しかし春歌は彼女のようにバッティングが得意なわけではない。三点差なので亀ヶ崎はランナーを溜めたいところだが、普通に打たせる以外の選択肢を取っても良いだろう。


 初球のサインを決めた石川が、京子の様子を伺ってから投球を行う。真ん中低めのストレートに対し、春歌はバントを試みる。


「サード」


 白球は三塁側に転がった。石川の球威を相まって強めのバントとなり、サードの長谷川が前に出てきて対応する。


「ハセ、ファーストで良いよ!」


 捕球した長谷川は一度二塁を見やるも、キャッチャーの大下からの指示を受けて一塁へと送球する。送りバントが決まり、ワンナウトランナー二塁となる。


 点差と残りイニングを考えれば、バントでアウトを一つ犠牲にすることは勿体無いという意見が出るかもしれない。しかしここで亀ヶ崎ベンチが重要視したのは得点する行為そのもの。自分たちに一点でも入れば試合の風向きは大きく変わるかもしれず、そのためにクリーンナップの打席で得点圏にランナーを置きたかったのである。


《三番ライト、踽々莉さん》


 京子を生還させることができるか。今日は二打数無安打の紗愛蘭だが、好打者は打席を追うごとに打つ確率を上げていくもの。そろそろ一本出せるはずだ。


 初球は内角高めのストレート。紗愛蘭が見送ってボールとなる。


(ここに来ても真っ直ぐの威力は落ちないな。私たちがずっと捉えられてないことで自信を持たれちゃってる上に、この暑さでもへばらないスタミナを備えてる。元気な状態のままでも打ち崩すしかなさそうだ)


 二球目。紗愛蘭は外角のストレートを打ち返すことこそできたものの、打球を前に飛ばせない。力無い飛球が三塁側のスタンドに消えていく。


(速いだけならまだどうにかできるんだろうけど、石川はコントロールも良い。甘い球がほとんど来ない。単純に打っていくだけじゃ厳しいかも……)


 紗愛蘭は打席を外し、何かを考えているような表情で軽くバットを振る。それを終え、グラウンドをぼんやりと見渡しながら打席に戻る。


 三球目、石川はアウトローにストレートを続ける。一旦は右足を上げてタイミングを取った紗愛蘭だったが、投球が放たれた直後、彼女はまさかのバントに切り替えた。


「ええ⁉」


 予期せぬ出来事に、その場にいた誰もが声を上げる。紗愛蘭は三塁線沿いを狙ってバントする。


「オーライ」


 春歌の時よりも勢いが殺されており、尚且つサードの長谷川の動き出しが遅れたため、石川が自ら手を挙げて処理に向かう。彼女は逆シングルで捕球すると、素早く体を反転させて一塁に投げる。ところがしっかりとボールを握れておらず、強い送球ができなかった。


「セーフ、セーフ」


 一塁塁審の両手が広がる。意表中の意表を突いた紗愛蘭のセーフティバントは見事に成功する。


「よし、上手くいった」


 一塁ベースを駆け抜けた紗愛蘭が仄かに頬を緩める。実は二球目と三球目の間にサードの長谷川の守備位置などを確認しておき、勝算があると見込んでいたのだ。


 これでランナー一、三塁と亀ヶ崎がチャンスを拡大させる。対する楽師館は万里香がマウンドに駆け寄り、石川を宥める。


「いやあ、紗愛蘭がバントしてくるとはね。結構良いところに転がされたし、防ぎようがなかったよ。ひとまず一点は上げても良いから、焦らないようにしよう」

「うん。これ以上は繋がれないように気を付ける」


 二人は自分たちが三点をリードしていることを改めて認識する。先ほど一点でも亀ヶ崎に入れば流れが変わるかもしれないと述べたが、楽師館としてはその一点を渋って複数失点をしては元も子も無い。次打者が四番のオレスともなれば尚更アウトを一つ増やすことを優先すべきだろう。


 では亀ヶ崎は一点を取った上で、更なる追い上げをしたい。前の打席で試合全体の初安打を放っているオレスに、亀ヶ崎ナインは大きな期待を掛ける。


「オレス頼むぞ! 打ってくれ」

「この回で一気に逆転しよう」


 初球、ボールになるカーブが来る。オレスはきっちりと見極めた。


(途中からこのカーブを使うようになったことで、うちの打線は真っ直ぐに目慣れできず差し込まれ続けてる。一試合を通した配球としてはパーフェクトね)


 二球目。内角のストレートをオレスが打ちにいく。しかしバットには掠りもしない。


「ちっ……」


 オレスは舌打ちをしてヘルメットを被り直す。楽師館バッテリーは今の空振りを参考に、三球目も再びストレートでインコースを突く。


 だがこれはオレスの策略だった。タイミングが合っていない振りをして、石川に同じ球を続けて投げさせたのだ。彼女は右足を引いてスイングし、得意の流し打ちで弾き返す。バットの芯で捉えた鋭い打球がセカンドの西本を襲う。


「セカン!」


 西本は何とか打球の正面へ入ると、グラブで捕りにいかず胸に当てる。自身から見て左側に弾かれたボールを咄嗟に拾い上げ、他のランナーには目もくれずに一塁へと送球する。


「アウト」

「西本、オッケーオッケー。ナイスストップだったよ」


 万里香は西本を拍手で称える。打球を体で止めることで後逸を防ぎ、その後も本塁や二塁が間に合わないと瞬時に判断して一塁でアウトを取った。試合展開と自チームの状況を正確に把握した上での冷静なプレーだった。


 この間に京子がホームインし、亀ヶ崎がまずは一点を返す。ただし本音としてはオレスの打球がヒットになってほしかったのは言うまでもない。


「アウト。チェンジ」


 次の打者はファーストフライに倒れ、紗愛蘭を生還させられず。亀ヶ崎は一点でも得点できたと言うべきか、一点で止まってしまったと言うべきか。兎にも角にも楽師館のリードが二点に縮まり、最終回の攻防を迎える。



See you next base……

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