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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第六章 私がライバル
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78th BASE

 楽師館が三点を先制した直後の五回裏。石川が先頭の昴をワンボールツーストライクと追い込む。迎えた五球目、彼女はここまで見せていなかったカーブを投じる。


「う……」


 予期せぬ変化球に昴は体が泳ぎ、右手一本でバットを振る格好となる。それでも投球の着地点が外角高めだったため空振りは免れ、バントしたのではないかと勘違いするような当たり損ないのゴロを打つ。


「ピッチャー!」


 打球はマウンドの左前方に転がる。昴としては完全に打ち取られたわけだが、彼女の足の速さであればひょっとすると内野安打にかもしれない。


 処理に向かった石川は打球を掴むと、時間短縮のためサイドスローで一塁に投げる。対する昴も全速力で走る。


「アウト」


 紙一重で石川の送球が勝る。少しでも動きが遅くなれば一塁がセーフになるかもしれない中、無駄の無いフィールディングで自身を助けた。


「駄目だったか……」


 是が非でも出塁したかった昴だが、使命を果たせず。彼女は首を横に振りながら引き揚げていく。


《七番キャッチャー、北本さん》


 ワンナウトとなり、七番の菜々花に打順が回る。三失点で真裕を降板させてしまった責任を切に感じているが、今は切り替えて打席に集中する。


(昴を打ち取った球種はカーブだった。あれを織り交ぜられると一層打ち辛くなるな。それでも何とかしないと……)


 初球、真ん中低めに来た投球を菜々花が打ちに出る。ところが球種はフォークであり、彼女はボール球を振らされる。


(いきなりフォークとは……。こっちが真っ直ぐに張ってることは向こうも分かってるだろうし、それをまんまと利用されたな。けどここで狙いを変えたら後手に回るだけだ。初志貫徹で行こう)


 二球目。カーブが真ん中付近に入ってきた。ものの、ストレート待ちの菜々花はバットを振ることができなかった。二球とも裏を掻かれて呆気無くツーストライクを取られる。


(また真っ直ぐじゃなかった。こればっかりは悔やんでも仕方が無い。ここから少しでも挽回するんだ)


 三球目はアウトコースにストレートが外れる。投球が石川の手元から離れた時点で明らかなボールだったため、菜々花も悠然と見送ることができた。


 だがこれで次に来る球が分からなくなる。配球としてはストレートを続けてもフォークを使っても良く、更に言えばカーブだって有り得る。菜々花は三つの可能性を頭に入れながら対応しなければならない。


 四球目。楽師館バッテリーの選択は、インローのストレートだった。ボール気味ではあるが、見逃し三振を避けたい菜々花は打つしかない。詰まりながらもバットに当て、一塁側へのファールで逃げる。


「ファースト!」

「オーライ!」


 ところが思った以上に打球は上がってしまう。スタンドまでも届かず、ファーストの東條の守備範囲に収まった。


「アウト」

「くっ……」


 菜々花は持ったバットを軽く叩き付けるような素振りを見せて悔しがる。ファールフライで彼女も凡退し、亀ヶ崎の攻撃は早くもツーアウトとなる。


《八番ファースト、野極さん》


 続く打者は先ほどレフトからファーストに回った栄輝。すれ違った菜々花から何やら耳打ちされて打席に入る。


 一球目、内角低めのストレートが来る。栄輝は躊躇無くバットを振り抜くと、鋭いライナーをファーストの頭上に飛ばした。


「フェア」


 打球にはスライスが掛かっていたものの、切れることなくライト戦の内側に弾む。一塁を蹴った栄輝はスライディングの必要も無く二塁まで到達する。


「おお! ナイバッチ!」


 あっさりツーアウトを取られて暗くなっていた亀ヶ崎ベンチが明るさを取り戻す。栄輝が持ち前の長打力は発揮し、一振りで得点圏にランナーを置く。


(菜々花さんが真っ直ぐ一本に絞れって言ってくれたおかげで、初球から迷わず打ちにいけた。振り遅れることもなかったし、我ながら良いバッティングができたよ)


 栄輝は菜々花に感謝する。菜々花は直前の自身の打席では、変化球二つで追い込まれていた。にも関わらず、何故栄輝にストレートを狙うようアドバイスしたのか。


(やっぱり栄輝の初球は真っ直ぐだったか。キャッチャーとしては速球の良いピッチャーに二回連続で変化球から入らせたくはないよね。その人の特長を消しちゃうかもしれないし、栄輝も私の打席を間近で見てるから、普通なら二の舞にならないようボールになるフォークは警戒するからね)


 菜々花は同じキャッチャーという立場から、石川ではなく大下の考えを読んでいた。それが功を奏したのだ。


《九番レフト、柳瀬さん》


 先制された直後に一点でも返せれば、亀ヶ崎の選手たちは終盤での逆転に向けて期待感を持ってプレーできる。真裕は自らの失点をバットで取り返せるか。


(春歌ちゃんのおかげで何とか三点で踏み止まれた。あんな投球をしても私は試合に出続けさせてもらったんだから、せめて打つ方で貢献しないと)


 初球はアウトローのストレートが来る。打つ気満々でテークバックを取った真裕だが、明らかに低かったためスイングはしない。


「ボール」


 投手としてマウンドに上がっていた時と比べ、打席での真裕は随分と落ち着いている。外野を守って間に頭を冷やせたようだ。


(石川さんは今日初めてピンチを迎えたわけだし、それなりに力が入るはず。少しでも真っ直ぐの精度が落ちればチャンスだぞ)


 二球目、石川がストレートを続ける。インコースを目掛けて投げたが、コントロールミスで若干ながら真ん中に入ってしまった。真裕は素早く腰を回転させて弾き返す。バットから短い金属音が鳴り、低い弾道の速い打球が三遊間に飛ぶ。


「おお!」


 亀ヶ崎ベンチから大きな歓声が上がる。二塁ランナーの栄輝は真裕が打った瞬間に一歩目を踏み出すと、一気に本塁へ突入するため必死に走る。


 しかし、彼女たちの希望は唐突に断たれた。ショートの万里香が横っ跳びで打球を掴んだのだ。


「アウト。チェンジ」

「ああ……」


 一塁へ向かい掛けた真裕の足は一瞬にして止まる。石川のストレートを捉えることこそできたが、万里香の好守備によってヒットを一本奪われた。結果的に亀ヶ崎は得点を挙げられず、三点差のまま五回裏が終了する。



See you next base……


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