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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第六章 私がライバル
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77th BASE

 五回表、楽師館に三点を奪われた亀ヶ崎は春歌をリリーフとして投入。その春歌は九番の石川の送りバントを阻止する。


「おお! 春歌ちゃんナイスキャッチ!」


 レフトから真裕が声を上げて拍手する。春歌は一瞬だけそちらに目線を動かしたが、それ以上は何もせずマウンドに戻る。


 ようやくこのイニングで初めてアウトのランプが灯る。しかし亀ヶ崎のピンチは続く上、打席には一番の万里香が入る。


(真裕と代わっちゃったのは残念だけど、これも勝つためだからね。他の投手でどこまで持ち堪えられるかな?)


 亀ヶ崎は絶対的エースの真裕を擁する一方、彼女以外の投手は全国大会での実績が非常に乏しい。楽師館は真裕をできるだけ早く降板させ、その後に登板した投手を打ち崩して点差を付けるゲームプランを立てている。ここで万里香に一打が出れば、理想的な試合運びとなる。

 春歌たちとしてはそうなるわけにはいかない。初球、彼女はツーシームで万里香の懐を抉る。


「ボール」


 外れはしたものの、春歌はきっちりとインコースに投げ切った。死球を恐れる心理を度胸で凌駕している。


(もしも円川さんに真裕さんと勝負できないことへの未練があるなら、その分だけ私への注意力は散漫になる。そこに付け込めれば絶対に抑えられる)


 二球目も春歌は同じ球を続ける。今度は万里香の腰を引かせる。


(相も変わらず厳しいところを攻めてくるけど、そのせいでカウントが悪くなってるよ。間違っても歩かせるのは止めてよね)


 三打席目を迎えている万里香だが、前の二打席はチームバッティングに徹していた。楽しみにしていた真裕との勝負はまともにできておらず、溜まった鬱憤を晴らすための一振りを欲している。


 三球目は外角のカーブ。万里香はストレートを待っていたものの、バットの届くコースだったため打って出る。しかし捉えることができずにファールとなった。


 これで春歌はストライクを一つ稼ぐ。だがバッティングカウントは続いており、四球目は低めのチェンジアップで空振りを誘う。


「ボール」


 万里香は振りかけたバットを途中で止める。菜々花がスイングをアピールするも認められず、カウントはスリーボールワンストライクに変わる。


(おいおい、本当にフォアボールになっちゃうよ。それじゃ面白くないって)


 一度タイムを取った万里香は、打席の外で力の籠った素振りを繰り返す。まるで春歌を煽っているかのようだ。


 万里香を四球で歩かせれば満塁となり、石川に送りバントをさせなかった意味が半減してしまう。それは春歌も理解しているので、次の一球は必ずストライクを入れなければならない。


(円川さんが打ちたがってる雰囲気は伝わってくるけど、ボール球はきちんと見極めてくるな。力勝負で敵う相手じゃないんだ。ここまでの配球を最大限に活かして凡打を誘うしかない)


 春歌が改めてセットポジションに入り、五球目を投じる。アウトローに曲がるカットボール。万里香はバットの芯に近い部分で弾き返した。


 痛烈な打球がワンバウンドでマウンドの春歌の顔面付近へ飛ぶ。センターへのヒットとなれば致命的な四点目が入るかもしれない。


(抜かせない!)


 春歌は咄嗟にグラブを出し、左耳を掠めそうな位置で打球を収める。勢いに押されて一度は体勢を崩した彼女だが、片膝を地面に付くことで上体を安定させた。そのまま振り返って二塁へと送球する。

 捕球した京子がベースを踏んで二塁はアウト。更に彼女から一塁にもボールが送られる。


「アウト、チェンジ」

「まじか……」


 万里香が懸命に走って一塁を駆け抜けるも、こちらもアウトとなる。まさかの併殺に倒れた彼女は堪らず空を見上げた。


「ふう……」


 気迫の守備でピンチを脱した春歌は、一息付いてゆっくりと立ち上がる。表情を変えずにマウンドから引き揚げていく彼女に真裕がすかさず駆け寄り、声を掛ける。


「ナイスピッチ! あんなに強い当たりをよく捕ったね。私の作ったピンチを抑えてくれてありがとう」

「別にお礼とか要らないです。私は自分のやるべきことをやっただけなので。そんなに騒がないでください」


 春歌は素っ気無く返答をしてベンチに下がる。万里香に対して不利なカウントを作りながらも、最後までコントロールは間違えなかった。その結果ゴロを打たせることができたのだ。


(円川さんは打ちたい気持ちを我慢できなかったんだと思う。きっとそれまでの打席でストレスが溜まってたんだろうな。バッティングがちょっと強引に見えたし、あれを押っ付けて流し打ちされたら危なかった)


 普段の万里香であれば、コースに逆らわずコンパクトなスイングで打ってきただろう。しかし過去二打席での縛りから解放されたことで、彼女の中では引っ張って大きな打球を放ちたいという思いが強くなっており、必要以上に大振りとなってしまったのだ。もちろん春歌の投球が第一に称えられるべきだが、万里香自身でも凡退する要因を作っていた。


 とは言え楽師館は三点を先取することに成功。緻密な計画を遂行した上で得点した彼らとは対照的に、亀ヶ崎は石川を相手に攻略の兆しさえ見出せていない。試合が動いたため流れも変わってくるはずなので、何としても五回裏に反撃の糸口を掴みたい。


《五回裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、六番セカンド、木艮尾さん》


 先頭打者は六番の昴。同級生の春歌の好救援に応えたい。初球、石川は内角のストレートを投じる。昴は差し込まれてバットが振れず、ストライクを一つ取られる。


(真っ直ぐの威力は落ちてないな。コントロールも健在だし、何よりもマウンド捌きが落ち着いてる)


 石川の投球に変化は無し。味方が点を取ったことへの意識はほとんど感じられない。ならば亀ヶ崎打線もこれまで通り、ストレートを打ち砕くことが求められる。


 二球目もインコースのストレート。前の球よりも少し高いが、昴は打ちに出る。しかしバットは空を切った。


 昴は早くも追い込まれる。インコースのストレートに対しては打てそうな気配が無い。


 三球目、石川は低めにフォークを落としてくる。手を出してしまった昴だが、変化の軌道を予測できていたためバットには当てられた。一塁側へのファールで難を逃れる。


 四球目、再びストレートがインコースに来た。先ほどの一球でフォークへの意識が強まっていた昴は、思わず腰を引いて見送ってしまう。


「ボール」

「おおっ?」


 投げた側の石川は口を丸めて一瞬固まる。二球目よりも僅かに内角へと入り過ぎていたみたいだ。昴としては外れている確信は持てていなかったため、助かった気分になる。


(あの真っ直ぐとフォークを二つとも追うのは結構しんどいな。けど春歌も苦しい場面を乗り切ったんだ。私も負けていられない)


 昴は深呼吸をして肩の力を抜き、バットを構え直す。ワンボールツーストライクからの五球目、石川の右腕から放たれた投球は一度浮き上がってから落ちてくる。ここまで見せていなかったカーブを投げてきたのだ。



See you next base……

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