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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第六章 私がライバル
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73rd BASE

 亀ヶ崎は初回、楽師館の先発投手である石川に京子と嵐が打ち取られる。


《三番ライト、踽々莉さん》


 ここからでもチャンスを作りたい亀ヶ崎は、打席に紗愛蘭が入る。初球、インコースのストレートを彼女は打って出る。


「サード!」


 打球はフライとなって三塁側のファールゾーンに上がる。サードの長谷川が追っていくも、そのままスタンドに消えた。


 紗愛蘭でさえ石川のストレートに差し込まれている。狙い球を変えることも一つの手だが、そうなれば楽師館バッテリーはストレートの割合を増やしてくる。結局いずれはストレートを打たなければならなくなるのであり、それなら最初から狙っていった方が良い。


 二球目のストレートが高めに外れ、続く三球目、紗愛蘭は外角のストレートを弾き返す。


「レフト」


 打球は外野に飛んだものの、石川の球威に押されているため伸びていかない。レフトの中本が少し左に寄って足を止め、難無くキャッチする。


「アウト。チェンジ」


 一回の攻防が終了。両チーム三者凡退と結果は同じだが、真裕の投球数が二〇なのに対して石川が九と、中身に差が出た。これが後の展開にどう影響してくるだろうか。


《二回表、楽師館高校の攻撃は、四番ライト、東條(とうじょう)さん》


 右打席に四番の東條が立ち、二回表が始まる。先日の練習試合と比較して大きくスタメンを入れ替えてきた楽師館だが、一番の万里香と四番の東條だけは動かしていない。二人が打線の中核として信頼を置かれている証だろう。


 しかしこの東條も例外無くチームの作戦を遂行する。初球、彼女は真裕の投球に合わせてバントの構えを見せる。


「ストライク」


 ダッシュしてきた真裕を見つめながら、東條はバットを引いた。真裕は労せずストライクを取れたものの、決して気分は良くない。


(四番ですらバントしてくるなんて、いくら何でもやり過ぎでしょ。勝つための策と言われたらそれまでだけど、こんなんじゃちっとも面白くないよ。ふざけるなって言いたくなっちゃう)


 真裕は失望と共に怒りを覚える。こんな卑しい野球をしてくるとは、楽師館の名が聞いて呆れる。ライバル校として情けなく感じられた。


(まあ良いや。真面目に付き合うのも馬鹿らしいし、あんまり考えないようにしよ)


 西本の時と同様、真裕はストレートをストライクゾーンに投げ続ける。それでも東條は二球目にも打つ素振りを見せずに追い込まれると、三球目以降はアウトにならないようカットすることに徹する。


「サード」


 だがそれも長くは続かず、東條は六球目を打ち損じてサードゴロに倒れる。普通なら真裕でも要警戒の打者だが、この打席は意図も簡単に抑えることができた。


 楽師館は後続の打者も東條と同じく、ツーストライクを取られるまでは見送り、その後はファールを打ってできるだけ真裕に球数を投げさせようとする。真裕は悶々とした感情を抱きながらも、割り切ってアウトを重ねていく。


 二回、三回も楽師館は三人で攻撃を終える。一方の亀ヶ崎も石川の前にチャンスを作れず、序盤に出したランナーは相手のエラーによる一人に留まる。


《四回表、楽師館高校の攻撃は、一番ショート、円川さん》


 試合は中盤に突入。四回表の先頭打者として万里香が打席に入り、真裕と本日二度目の対戦を迎える。


(二巡目に入ったし、流石にしょうもない作戦は止めるでしょ。こっから仕切り直しだ)


 真裕は気を引き締め直し、万里香への投球に臨む。初球に投じたのはインコースのストレートだ。

 万里香はその意気に応えるべくフルスイングで応戦。……することなく、一打席目をリプレイするかのようにバントする。


「ええ……」


 真裕は信じられないという表情を見せながら慌ててマウンドを降りる。ただこれもファールとなった。恐らく万里香はフェアゾーンに入れる気が無かったのだろう。


(……嘘でしょ。昨日の楽しみにしてるってメッセージはこういう意味だったの? 万里香ちゃんにはがっかりだよ)


 ボールを拾った真裕は眉を顰めて万里香に視線を送る。だが万里香は意に介さず、何事も無かったかのように一塁から引き返す。


「はい。バット」

「ああ、ありがとう」


 菜々花が万里香にバットを渡す。万里香は軽く礼を言って受け取り、打席に入り直す。菜々花はその一挙手一投足から一瞬たりとも目を離さない。


(さっき顔を見た感じだと、万里香はふざけてプレーしてるわけじゃないと思うんだよね。もしかしたら球数を稼ぐ以外に狙いがあるのかも。ここはちょっと慎重になってみるか)


 菜々花は次の球としてストレートのサインを出し、万里香の膝元にミットを構える。後の打席のことを考え、厳しい攻めをしておこうとする。


(え? どうしてそんな勿体無いことするの? どうせ打ってこないんだから、適当に投げてさっさと終わらせようよ)


 しかし真裕は首を振る。真剣に配球を組み立てていては、それこそ楽師館の術中に嵌ると思ったのだ。


(……そうか。まああんまり気にするのも良くないだろうし、もう少し様子を見よう)

 菜々花は仕方無く要求を変える。二球目、真裕は抜いたストレートでストライクを取りにいく。万里香にとっては絶好球。けれども彼女はバットを振らない。

(ほらね。それでどうせここから粘ってくるんでしょ)


 真裕は嘲るように鼻息を漏らす。三球目ももちろんストレート。万里香も分かっているはずだが、前に飛ばすことはしない。態とタイミングを遅らせてスイングし、右方向へファールを打つ。


「ファースト」


 それから万里香は四球ほどファールで粘ったものの、最後は一二塁間への力無いゴロを打つ。これを嵐が捕球し、ベースカバーに入った真裕に送球する。


「アウト」


 際どいタイミングになったが、真裕が万里香よりも一足早くベースを踏む。彼女は万里香に目もくれずマウンドへと戻った。顔を合わせても苛立ちが増すだけだ。


 その後、二番の中本、三番の西本も凡退。真裕は四イニングで七二球と普段よりは多い球数を投じているが、身体的な疲労感は皆無に近い。打者と勝負している感覚は全く無く、少年野球を相手に打撃投手でもしているのかとさえ思いたくなっている。



See you next base……

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