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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第五章 終わりが始まる
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70th BASE

 和久学園との試合を終え、私たち亀ヶ崎野球部は宿舎に帰ってきた。それぞれ着替えなどを済ませると、大広間に集まって軽いミーティングが行われる。


「ひとまず一回戦を突破できたな。序盤こそ苦しんだが、全体的に皆の動きは良かったと思う。何より四回の集中打はベンチから見ていても見事だった。コールドで勝てたことも今後に活きてくるはずだ」


 監督は最初に今日の振り返りをする。ただそこまで深くは言及せず、早々に二回戦の話題へと移る。


「次の試合は明後日、楽師館との対戦だ。楽師館に関しての説明は態々するまでもないだろう。愛知県同士の高校がこの早い段階で当たるとは思っていなかったが、これもトーナメントの綾だ。強敵なのは分かっているし、勝って勢いに乗るぞ!」


 次戦は万里香ちゃん擁する楽師館が相手となる。難敵であることは言うまでもない。もしも私が今日のような立ち上がりをしようものなら、確実に打ち込まれるだろう。初戦ではないため落ち着いて試合に入れるとは思うが、入念に備えておきたい。


「先発は真裕で行く。頼んだぞ」

「はい!」


 私は力強く返事をする。中一日あるので、今日投げた疲労感はある程度抜ける。万全の状態で試合に臨めるだろう。


「次回は今日みたいなコールド勝ちはまずできない。もしかしたら七イニングで終わらないかもしれない。だから他の投手陣も準備しておいてくれ」


 私としては完投を目指して投げるつもりだが、楽師館は一筋縄ではいかない。試合が長引けば継投も必要になってくる。


「今日に関しては夕飯をしっかり食べて、ゆっくりと休むように。明日は午前中に楽師館対策を練った後、午後から全員で少し体を動かすぞ」

「はい!」


 ミーティングが終わった。私たちは各自の部屋に戻り、夕食までの一時を自由に過ごす。


「いやー、疲れたね。今日も暑かった」


 私は部屋に戻るや否や床の上に寝転び、背筋を伸ばす。真夏の炎天下で投げた後に浴びるクーラーの風は、これほどなく気持ち良い。


「暑かったね。けどいつも感じてる蒸し暑さよりはまだ良いかな」


 そう言って隣に腰を下ろしたのは紗愛蘭ちゃんだ。今大会は二人で一部屋を借りており、私は彼女と同室になった。実はこれで三年連続。紗愛蘭ちゃんは毎年可愛いパジャマを持ってくるので、それを見るのが私の密かな楽しみになっている。


 因みに昨日はピンクのフリルが付いたパジャマだった。この前の誕生日に彼氏から貰ったそうだ。日替わりで二着持ってきているらしいので、今日はまた違う柄が見られる。


「よいしょ」


 寝っ転がったままでいると寝落ちしてしまいそうなので、私は起き上がってスマホを開く。すると万里香ちゃんからメッセージが届いていた。


《一回戦は無事突破したみたいだね。まさかいきなり戦うことになるとは( °_° )》

《私もびっくりだよ! もう少し後かと思ってた》


 楽師館は二回戦が初戦となる。そういう意味では先に一戦を熟している私たちが少しばかり有利かもしれない。ただ楽師館ならそのブランクをすぐに埋めてくるはずなので、初回から激しい攻撃に注意しなければならない。


《何にせよ真裕たちと戦えるのは楽しみ。負けないよ!》

《それはこっちの台詞だよ。勝つのは私たちだから!》


 こうして仲良さそうにメッセージのやり取りをしているが、私の心の中では既に闘志が漲っている。おそらく画面の向こうにいる万里香ちゃんも同じだろう。


 万里香ちゃんに返信したタイミングで、新しいメッセージが届く。送り主は椎葉君だ。


《今さっき速報見た。楽勝だったな》

《そんなことないよ。スコア以上に苦戦したし、特に初回は危なかった。皆に助けられたかな》

《そうなのか。でもコールドなら上々のスタートだろ》

《うん。椎葉君たちの調子はどう?》


 椎葉君も私と同様、現在は夏の大会の真っ最中。毎日のように激戦を繰り広げている。現在は地方大会のベスト八まで勝ち残っており、甲子園出場まであと三勝に迫っている。


《順調と言えば順調だな。ただこっからは名門との対戦が続くし、より気合入れていかないと》


 愛知県の地方大会は全国一の参加チームを数える。その上、私立校の強豪が犇めいており、亀ヶ崎のような公立校が優勝するのをまず有り得ないと言われている。だが椎葉君ならその逆境を諸共せず、甲子園に行けると信じている。


《ここからが本番って感じだね。椎葉君なら大丈夫だよ! 頑張れ٩(ˊᗜˋ*)و》

《ありがとう。柳瀬と一緒に甲子園の舞台に立ちたいな》


 私の心音が僅かに速くなる。二人が共に勝ち進めば椎葉君と甲子園で会える。それを考えると自然と胸が高鳴った。これは球友だからなのか、それとも他の感情から来るものなのか、答えを出すのは今ではない気がする。


《私も! 一緒に日本一になれたら最高!》


 当たり障りの無い返信を送り、私はスマホを閉じる。夕飯までに入浴を済ませるべく、その支度を始めた。


 翌日。椎葉君は準々決勝に臨んでいた。私は時間の合間を縫ってスマホのネット中継を確認する。


 試合は八回裏まで進み、三対一で亀ヶ崎がリード。しかしワンナウト満塁のピンチを迎えている。


 マウンドには椎葉君の姿がある。今日は六回からマウンドに上がったらしく、ここまでは無失点に抑えている。アップで映された彼の顔には多量の汗が滴っているが、その口元は薄らと緩んでおり、まだ余裕はありそうだ。


 打席には右打者の佐野(さの)君が入る。今日は第一打席でライトへとヒットを放った。後の二打席は凡退しているものの、いずれも粘って投手に球数を投げさせているらしい。この場面でも同じことをやられると非常に厄介だ。


 だが椎葉君はそうはさせんと言わんばかりに力勝負を敢行。初球、二球目とストレートで押す。佐野君はどちらにも手を出してきたが、バットに当てさせない。


 空振りを喫した佐野君は自軍ベンチを見て苦笑いしながら、肩の力を抜く仕草を見せる。ここに来て椎葉君はギアを上げており、その変化に付いていけないようだ。


 追い込んだ椎葉君はどう仕留めに掛かるのか。セオリーならチェンジアップなどの緩い球を見せたいところだ。

 ところが三球目、椎葉君が投げたのはストレートだった。アウトローを突いた見事な投球。佐野君は慌てた様子でスイングするも、バットは空を切る。


「おお!」


 これには私も思わず唸る。打者のタイミングが合っていなかったのもあるが、打球が前に飛ぶことすら嫌な場面で三球連続ストレートを続けるなんて、相当な勇気と自信が無いとできない。


 椎葉君は次の打者も打ち取り、ピンチを脱する。これにて勝負あり。最終回の攻防でもスコアは動かず、男子野球部は準決勝進出を決める。


 試合が終了し、椎葉君はチームメイトと笑顔を交える。その姿はとても格好良く、輝いて見える。彼と共に甲子園へと行きたいという想いが、一層強くなった。



See you next base……


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