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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第五章 終わりが始まる
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66th BASE

 四回裏、ワンナウトランナー二、三塁から昴の打ったゴロをサードの優芽が冷静に処理し、三塁ランナーの生還を阻止する。ツーアウトランナー一,三塁となり、七番の菜々花が打席に立つ。


(いける……、いけるぞ。このまま無失点で切り抜けられる)


 先ほどまでは願うばかりだった那奈佳だが、今はこのピンチを凌ぐビジョンが明確に見えている。他の和久学園ナインも希望を抱いて小熊を盛り立てる。


「おぐ、あと一人だよ。頑張れ!」

「優芽さんだけに良い格好させないぞ。こっちに打たせてこい!」


 これらの声は小熊の確かな力となる。彼女は気を引き締め直し、油断することなく三つ目のアウトを取りに向かう。


(どうにかツーアウトまで漕ぎ着けたんだ。曲がりなりにも私はエースなんだから、ここで打たれるわけにはいかないぞ)


 勝利の女神を振り向かせるべく、小熊は全身全霊を傾けて投球を行う。菜々花との決着は、初球で付いた。


「センター!」


 外角のストレートを弾き返した菜々花の打球が、センターの右に上がる。これを歩子がノーバウンドで捕ればチェンジとなる。


(さっきのアウトは優芽が取ったんだ。私だって……)


 歩子は決死の思いで走る。その執念に打球が吸い寄せられているのではないかと錯覚するほど、彼女は急速に落下地点までの距離を詰めていく。スタンドの観客は湧き、愛里たちも自然と大きな声を出す。


「歩子行け! 捕れ!」


 打球が落ちてくるのに合わせ、歩子がグラブを伸ばす。彼女の左腕にチームの命運は託される。


 ――しかし、打球は無情にも地面に弾む。歩子が勢い余って前方に転倒する間に、フェンスまで転がっていく。


 三塁ランナーのオレスは悠々とホームイン。続いて一塁ランナーの昴が三塁を蹴る。


「バックホーム!」


 歩子のカバーに回ったライトからの返球がセカンドに渡る。ところがその時点で既に昴が本塁ベースを踏んでいた。


「ああ……」


 和久学園ベンチ、更には一塁側のスタンドから大きな溜息が零れる。歩子があと一歩のところで打球に追い付けず、亀ヶ崎に二点を加えられてしまう。


「よし!」


 打った菜々花は三塁まで到達し、両腕を握ってガッツポーズする。二回、三回と静かだったベンチの選手たちも、彼女と一緒になって喜ぶ。


「ナイスバッティング! よく打った!」

「栄輝、このまま菜々花も還そう!」


 点差は三点と広がった。攻撃の手を緩めず加点していきたい亀ヶ崎は、八番の栄輝が打席に入る。


「皆、下向いてちゃだめだよ! まだまだ跳ね返せる点差だし、ここを踏ん張ろう」


 一方で突き放された和久学園は、那奈佳が声を張ってナインを励ます。無失点で終われる兆しが出ていながら菜々花にタイムリーを浴びたことで大きなショックを受けているものの、逆転勝利の可能性を消さないために何とか持ち堪えなければならない。ピッチャーの小熊も前を向く。


(ここで気持ちを切らしたら何もかも終わっちゃう。次で必ず締める!)


 栄輝への初球、小熊はストレートを投じる。真ん中低めに投げたかったが、インコースに抜けてしまう。


「あ……」


 思わず小熊が声を漏らす。投球の向かった先は栄輝の背中だったのだ。


「ヒットバイピッチ」

「すみません……」


 小熊はすかさず帽子を取って謝る。この打者で切ると気分を改めた直後の躓き。ツーアウトのため展開的にそれほど影響は無いが、精神的には痛い死球となる。


《九番ピッチャー、柳瀬さん》


 打席に立つのは真裕。ラストバッターではあるが、バッティングにも期待が持てる。小熊も全力で抑えに掛かる。


 一球目はカーブが低めのボールゾーンに落ちていく。真裕は見向きもしなかった。投げ終えた小熊は口を真一文字に結び、不快感を示す。


(悪くないコースだと思うけど、あっさりと見送ってくるな……。ちょっとくらい反応しても良いじゃん)


 続く二球目はアウトハイのストレート。これを真裕は打ち返す。


「セカン!」


 鋭いライナーがジャンプするセカンドの頭上を越えていく。センターへのヒットとなり、三塁ランナーの菜々花が拍手をしながら生還する。


「ナイスバッティング!」

「……ふふっ、やったね」


 真裕も一塁ベース上で嬉しそうに白い歯を見せる。これで四点差。和久学園にとっては致命的とも言える重い一点が積まれる。


 この厳しい展開に、スタンドの愛里たちも表情が険しくなる。その中の誰か一人がふと、呟くように言った。


「……どうしてこんなに打たれ始めちゃったのかな? 前の回まで良い感じに抑えていたのに」


 小熊は初回こそ京子と嵐の連打で一点を失ったものの、その後は九者連続でアウトを取っていた。ところがこの四回裏は今の時点で四本の安打を許している。不思議に思う者がいて当然だろう。


「確かにね。けどきっと……」

「センター!」


 何となく原因に気付いていた愛里が答えようとした瞬間、一番の京子が二球目のストレートを捉えて快音を響かせる。打球は右中間を真っ二つに破り、二塁ランナーの栄輝はもちろん、真裕もホームへと駆け込んでくる。


「ホーム無理! 中継で止めて!」


 返球はセカンドに送られただけ。亀ヶ崎は六点目を挙げる。


「はあ……、はあ……。くそっ」


 本塁のカバーに回っていた小熊は膝に手を付く。中々アンダーシャツを着替えられないが、そんなことはとっくに考えられなくなっていた。


「おぐちゃん、まだ投げられそう?」


 マウンドで待っていた那奈佳が小熊に尋ねる。本来なら交代させたいが、和久学園には亀ヶ崎に通用する投手が他にいない。


「大丈夫です。すみません、こんなに打たれてしまって……」

「そんなに謝らないで。試合は終わってないし、最後まで私たちの力を出し尽くそう」

「はい、もちろんです」


 この点差では、昴もそう軽々と逆転できるなどとは言えない。それでも諦める姿勢だけは見せたくなかった。小熊もその想いを受けて必死に投げ続ける。


 だが亀ヶ崎の猛攻は終わらない。()き止められていた波が溢れ出したかのように、小熊に連打を浴びせていく。二番の嵐がライト前ヒットで繋ぐと、打者一巡して打席を迎えた紗愛蘭がレフトにタイムリーを放つ。


 これで七対○。尚もランナーを一塁と二塁に置き、四番のオレスに打順は回る。



See you next base……

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