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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第五章 終わりが始まる
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59th BASE

《いよいよ今日からだな。そろそろ開会式が始まる感じ?》

《うん! 今はアナウンスがあるまで待機中だよ。去年よりもたくさんの高校が集まってる(^^♪》


 椎葉君から届いていたメッセージに返信し、私はスマホをズボンの後ろポケットに入れる。かつてないほどに心が弾んでいるのは、このやりとりに対してなのか、それともこれから始まる大イベントに対してなのか。


 七月下旬の快晴の日。蝉たちが命を燃やして鳴き続ける炎天下、私たち亀高女子野球部は、兵庫県丹波市にあるスポーツピアいちじま球場に来ている。ここで夏の大会の開会式が行われるのだ。


《まもなく、全国高等学校女子硬式野球選手権大会の開会式を始めます。選手入場!》


 張りのある女性の声と、高校球児なら聞き慣れた曲が場内に轟く。それらに導かれ、過去最多となる四〇を越える出場校が一校ずつ入場行進していく。


《宮城県、奥州(おうしゅう)大学(だいがく)附属(ふぞく)高校》


 初めに呼ばれたのは、昨年の優勝校である奥州大学附属高校。私たちは決勝でこのチームに敗れ、日本一を逃している。


「来たぞ、小山(こやま)だ!」

「頑張れ! 今年は二刀流を見せてくれよ」


 列の先頭を歩く一人の野球少女がグラウンドへと足を踏み入れた瞬間、スタンドから大歓声が木霊する。成人男性にも引けを取らないほど身長が高く、腰まで伸びた黒髪を靡かせている彼女は、私と同じ三年生の小山舞泉(まみ)ちゃんである。

 投手と野手どちらにおいても他を圧倒する才能を持ち、マウンドに上がれば快速球を投げ、打席に立てば快音を連発する。間違いなく今大会で一番注目されている選手だ。


 舞泉ちゃんは一年生だった一昨年に彗星の如く現れると、投打に渡る活躍で奥州大附属を初優勝に貢献。二年生となった昨年は投手としての登板こそ無かったものの、四番打者としてチームを牽引し、二連覇を果たした。

 その凄まじい活躍ぶりから付いた呼び名は“怪物”。彼女が少しでも良いプレーを見せれば観客は大手を振って喜び、グラウンドを揺るがすほどの拍手喝采が起こる。そうしてどんなにチームが劣勢でも瞬く間に空気を一変させてしまうのだ。実際に経験した立場から言うと、これほど恐ろしいことはない。


 私と舞泉ちゃんは、こちらが投手の立場で昨年も一昨年も対戦している。打たれて抑えてを繰り返しているものの、今のところその結果が試合の行方を大きく左右することにはなっていない。互いに白も黒も付いていないのが現状だ。私も舞泉ちゃんもそれに納得できておらず、特に昨年の決勝戦では同点の状況で私が途中降板したため、共に蟠りが残ってしまった。


 舞泉ちゃんを抑えない限り、日本一への道は拓かれない。私は静かに闘志を燃やす。


《愛知県、亀ヶ崎高校》


 奥州大付属が出てから何校も後、亀高の番がやってきた。私たちは紗愛蘭ちゃんの掛け声に合わせて行進を開始する。


「いち、に! いち、に!」


 一塁側のゲートからグラウンドに入り、三塁側のファールゾーンを回ってマウンド後方に整列する。これが行進の順路だ。


「亀ヶ崎、今年こそは優勝だー!」

「柳瀬、小山との勝負に勝つのを楽しみにしてるぞ!」


 奥州大付属ほどではないが、私たちに対してもスタンドの観客から声援が送られる。私にとっては苦い思い出の強い夏大だが、亀高としては一昨年がベスト四、そして昨年が準優勝と実績は十分に残してきている。大会雑誌では奥州大付属の三連覇を阻止する筆頭候補として特集されていた。


 そうした期待を掛けられていることに悪い気はしない。ただしいざ試合になれば、そんなことは気にしていられないだろう。

 加えて奥州大付属と対戦するのはもっと先の話であり、他にも強豪校は控えている。まずは足元を掬われないよう目の前の一勝を積み上げていかなくてはならず、自分たちの力を過信し、履き違えてはいけない。


「今ここに、全国高等学校女子硬式野球選手権大会の開会を宣言します!」


 全ての出場校が整列を済ませ、開会式が始まる。特に変わった催しは無く、開会宣言が為された後に大会を主催する理事長のような人が挨拶を述べる。


「……今年は去年よりも更に出場校が増え、私たち運営委員会としてもとても嬉しい限りでございます」


 ありがたい話ではあるのだろうが、正直に言うと内容はほとんど頭に入ってこない。全校集会などで校長先生が話す時と同じような感覚だ。私はこの暑い中よくこんなに長々と喋れるなあと感心半分、呆れ半分で聞き流していた。


 しかし、そんな私の耳を傾けさせる一言が、唐突に発される。


「……そして何と言っても今年は、大会史上初めて、決勝戦が甲子園で行われるようになりました!」


 そう、今大会は決勝戦に限り、阪神甲子園球場で開催される。高校球児なら誰もが憧れる野球の聖地だ。

 正式決定されたのは今年の春頃。まさしく青天の霹靂で、私はネットニュースで最初に知ったため俄には信じ難かった。当初は京子ちゃんたちと真実なのかどうか疑り合っていたが、その日の練習前に嘘ではないことが知らされ、皆で歓喜に湧いたものだ。


 お兄ちゃんがあと一歩のところで手の届かなった舞台に、妹の私が立てるかもしれない。お兄ちゃんには絶対に勝ち上がれと強く背中を押された。

 それに椎葉君が県大会を勝ち進めば、共に甲子園でプレーできる可能性がある。そう思うと自然と胸は躍る。


「……それでは選手の皆様、怪我の無いように気を付けつつ、これまで以上の熱い戦いを繰り広げてください!」


 理事長の挨拶が終わり、選手宣誓に移る。務めるのは万里香ちゃんだ。


「宣誓! 私たち選手一同は、今年も大会が開催される喜びと感謝を常に胸に抱き、試合終了の瞬間まで諦めることなく、仲間と共にひたむきに白球を追い掛け、これまで培ってきた力の限り戦い抜くことを誓います! 楽師館高校主将、円川万里香」


 堂々たる宣誓を行った万里香ちゃんに、選手、観客、関係者全てから拍手が送られる。これだけ大勢の前で一言一句詰まることなく言えるのは本当に尊敬する。彼女は今日のために何度も練習してきたと話していたし、その成果が出たのだろう。


 そして始まる最後の夏。優勝以外には何もいらない。高校生活、……いや、私の野球人生の全てを懸けて大会に臨む。



See you next base……

★主要メンバーの背番号


1.柳瀬真裕(3年、投手)

2.北本菜々花(3年、捕手)

3.山科嵐(3年、一塁手)

4.木艮尾昴(2年、二塁手他)

5.オレス・ネイマートル(2年、三塁手他)

6.陽田京子(3年、遊撃手)

7.野極栄輝(3年、左翼手)

9.踽々莉紗愛蘭(3年、右翼手、主将)

10.笠ヶ原祥(3年、投手)

11.沓沢春歌(2年、投手)

13.春木結(1年、投手)

15.弦月きさら(2年、内野手他)

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