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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第四章 その先は……
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56th BASE

 私の通う亀高では、平日は月曜と水曜が七限目、その他の曜日が六限目まで授業がある。七限目までの日は終礼が五時近くとなり、寒い時期であれば既に外が暗くなり始めていること少なくない。


 しかし最近は日も長くなってきたため、その時間帯でも十分に明るい。ただ亀高のグラウンドには照明が無く、日が沈むとボールを用いた練習はできなくなる。空の明るい時間をどれだけ有効に使えるかで、チームの成長度合いは大きく変わってくるのだ。だからいつも私たちは、放課後になると急いでグラウンドへと向かう。


「真裕、準備は整った?」

「オッケーだよ。バッター入って」


 今日の主な練習メニューは、投手陣が投げて打者が一打席毎に代わる実戦形式のバッティング。私は先陣を切ってマウンドに上がり、手短に投球練習を済ませる。


「よろしくお願いします」


 最初の相手である昴ちゃんが、普段通りの落ち着いた雰囲気でバットを構える。私は菜々花ちゃんとサインを決め、振り被って一球目を投じる。

 真ん中低めのストレート。これに対して昴ちゃんはピッチャー返しの打球を放つ。


「うお⁉」


 痛烈なゴロが私の股下を抜けていく。いきなりヒットを許してしまった。


 昴ちゃんはこのまま一塁ランナーとして残り、プレーを続ける。盗塁などは個々の判断で仕掛けて良く、私も試合さながらの牽制やクイックモーションをしなければならない。


「よろしくお願いします!」


 クールな昴ちゃんとは対照的に、次の打者は快活な声を張り上げて右打席に入る。このチームの元気印、二年生の弦月(つるつき)きさらちゃんである。先日の浜静との練習試合では二戦目が雨で流れたため出番は無かったものの、彼女もレギュラー争いの真っ只中にいる。

 内外野を問わず様々なポジションを守れる上、走塁や打撃も光る素質を持つ実力者。更には底抜けの明るさで苦しい局面でもチームを鼓舞してくれる。


「さてさて、私も昴に続くぞ!」


 そう意気込むきさらちゃんへの初球、セットポジションに就いた私は、アウトコースへのツーシームを投じる。きさらちゃんは果敢に打ってきた。


「ショート!」

「うわ、まじか!」


 スイングを終えたきさらちゃんは、まるで家宝の皿でも割った時の子どものように絶望した顔で走り出す。打球はショート正面へのゴロとなったのだ。やや勢いが弱かったためショートの京子ちゃんは前に出ながら捕球し、二塁にボールを送る。それを受け取ったセカンドのオレスちゃんは、流れるような動きで一塁へ送球する。


「セーフ」


 お(あつら)え向きのゲッツーコースかと思われたが、きさらちゃんは懸命の全力疾走で併殺を免れた。ただ当然ながら満足の行くバッティングはできなかったようで、空を仰いで悔しさを露にする。


「くそ、打たされちゃった……」


 先ほどのツーシームは、バットの下面に引っ掛けさせて内野ゴロを打たせるためのもの。つまりきさらちゃんは私の術中に嵌ったのだ。

 これが追い込まれている状況ならば仕方が無い。しかし今の打席は違った。昴ちゃんに続きたい気持ちは理解できるが、初球の打つべきでない球に手を出して凡退してしまうのは非常に勿体無い。自チームの良い流れを止めるだけでなく、ランナーを背負って投げ辛くなっている相手投手も立ち直らせてしまう。事実、今の私も助かった気分になっている。


 きさらちゃんが定位置を掴み切れないのは、こうした点に要因があるのだろう。その場の勢いに任せてプレーをしてしまい、それ故の失敗も見受けられる。もう少し我慢することを覚えられれば、きっとレギュラーの座を手中に収められるはずだ。


 続く打者は栄輝ちゃん。彼女もレギュラーになれる実力は持っていながら、確固たる地位を築けていない。スタメンで出た浜静との練習試合でも目ぼしい活躍はできなかった。

 初球はインコースのストレート。長距離打者なら飛び付いて打ってきそうなコースだが、栄輝ちゃんはあっさりと見送る。


「ストライク」


 狙い球と違ったのだろうか。そう私は疑問に思いつつ、二球目として外角から曲がるカーブを投じる。


「ストライクツー」


 これも栄輝ちゃんはバットを出さない。何を考えているのか分からず不気味に感じる人もいるかもしれないが、私からすれば簡単にツーストライクを取れたので、ありがたい限りである。


 三球目、私は内角低めにストレートを投げる。栄輝ちゃんはボールになる変化球を警戒していると読み、その裏を突いたのだ。

 案の定、栄輝ちゃんの始動が遅れる。慌てた素振りでバットを出す彼女だったが、それで私の球を打てるものか。


「バッターアウト!」


 私は栄輝ちゃんから三振を奪う。三球の内の二球が見逃し、残りの一球も本来のスイングは見られず、何とも味気無い勝負となってしまった。


「ああ……」


 嘆声(たんせい)を漏らし、栄輝ちゃんは俯き加減で打席を後にする。春大の辺りから調子が上がってこず、こうして悩まし気な姿をよく見かけるようになった。


 栄輝ちゃんにはバットを振るだけで期待感を抱かせる魅力がある。だから私の個人の意見としては、狙い球が外れていても確率が低くても良いから、打席でもっともっとフルスイングしてほしい。実際、入部して間も無い頃はそれができていた。ところがレギュラー当落線上に身を置く中で安定した結果を求めるようになり、必要以上に慎重になっているのだろう。その影響で打つべき球にもバットが出なくなっている。


 長打力不足のチームにとって、栄輝ちゃんの存在は大きい。復調のきっかけが掴めるよう私も彼女を相手に投げる時は配球を工夫しているが、最終的には己の力で道は切り拓くしかない。


 この後、私は何人かの打者を連続して打ち取り、ランナーがリセットされた状態で昴ちゃんと二度目の対戦を迎える。前の打席の借りを返したい私は初球、彼女の膝元にツーシームを投げる。


「ボール」


 悠然と見極められてしまった。ならば次は外角のツーシームで誘ってみるも、これも昴ちゃんはバットを振らない。


「むう……」


 私は思わず口を尖らせる。ひとまずストライクを取らなくてはならないため、三球目は真ん中にカーブを投げる。

 だがこれを待っていたと言わんばかりに、昴ちゃんは打って出る。オレスちゃんの頭上を越えた打球は右中間に弾んだ。


 これで二打席連続のヒット。ボールが先行して私の投球が苦しくなったのもあるが、昴ちゃんも見送るべき球を見送り、打つべき球を逃さず打っている。きさらちゃんや栄輝ちゃんと比べてみると、彼女が二人を差し置いてレギュラーを張っている理由がよく分かるだろう。



See you next base……

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