表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第四章 その先は……
55/149

54th BASE

 先頭の藤木が出塁した六回表の浜静の攻撃だが、チャンスを広げられないままツーアウトとなる。打席には三番の土橋が入った。今日は真裕相手に好感触を持てている彼女に対し、菜々花はどう配球を組み立てるのか。


(右にも左にも広角に打ち分けられてるし、苦手なコースとかがあんまり無いタイプのバッターなんだろうね。遅い球で上手くタイミングを狂わせて、自分のバッティングをさせないようにしたい)


 初球はインコースのストレート。真裕が土橋の胸元に投じ、軽く仰け反らせる。


「ボール」

「良いよ良いよ。ナイスボール」


 菜々花は何度か首を縦に動かし、今の一球に納得した様子で真裕に返球する。ボールにはなったものの、内角の厳しいコースを攻められただけで大いに意味がある。土橋にはこの後の外角がより遠くに見えるはずだ。


 バッテリーはそれに倣い、二球目としてアウトローのカーブを選択。緩急を付けた上でストライクを取ろうとする。

 しかし、土橋は一球目のことなど無かったかのように思い切り踏み込んできた。右足が着地した状態で溜を作って投球を呼び込むと、サードの頭上へと弾き返す。


「サード!」

「くっ……」


 オレスが懸命にグラブを伸ばすも届かず、打球はレフト線の内側に落ちた。それを見た藤木は一気に本塁まで向かわんとする勢いで駆ける。


「ストップストップ!」


 藤木は自分が同点のランナーではないため無理はしなかったが、それでも三塁まで到達。打った土橋も二塁を陥れる。


(あれが打たれるのか……。参ったな)


 本塁後方のカバーに回っていた真裕は腰に手を当て、首を傾げてマウンドに戻る。投げた球も配球も非常に良かったが、土橋の技術に後塵を拝して二安打目を許した。どうも相性が良くないようだ。


 これでツーアウトランナー二、三塁。真裕はヒット一本で同点となるピンチを背負い、三度目の大野との対戦を迎える。


 この試合の最大の山場が訪れた。四番が打つのか、エースが抑えるのか。夏大であればスタンドが湧きに湧く局面だ。


 ここまでの二打席、大野は頑なにアウトコースを待ち続けた。だがバッテリーも徹底的にインコースを突き、ようやく投げた外の球もボールになるスライダー。大野はそれなりに良い打球を飛ばしたものの、昴と京子の好プレーもあって併殺に倒れている。


 それを踏まえての第三打席。大野とバッテリーの間でどんな駆け引きが行われるのか。


(一塁は空いてる。大野を出したら逆転のランナーにはなるけど、次のバッターと勝負する手も頭に入れておかないと。攻めた結果のフォアボールなら仕方が無い。ストライクもボールも全部活用して打ち取りに掛かろう。まずは向こうが何を考えているのかはっきりさせる)

(了解)


 一球目。バッテリーは真ん中低めのボールになるカーブから入る。大野に見極められはしたが、彼女は微かにバットを動かそうとしており、それに菜々花が気付く。


(今のは打つ気があった上で止めたな。あれだけ内の速球を見せられていながら、この打席も初球のカーブに反応してきてる。だったら……)


 二球目。菜々花はミットを大野の膝元に構え、真裕はそこに目掛けて投げ込んだ。投球は少し浮いて大野の臍の高さに行く。

 これまでの大野なら見送っていたコースではある。ところが彼女は腰を素早く回転させて打ち返してきた。


 打球はレフトまで飛んでいったものの、フェアゾーンからは程遠い地点に弾む。実は真裕が投げたのはツーシームであり、僅かにバットの芯を外していた。菜々花は大野が打っていることを見越して保険を掛けていたのである。


(初球の見逃し方を見たら、私たちは当然インコースを攻めたくなる。それは大野も分かってるだろうし、場面も場面だから打ってきても何らおかしくなかった。とりあえずは一つ目の危機は脱したってところかな)


 菜々花の機転でバッテリーがストライクを一つ稼げた。ただしまだまだ大野にも十分にチャンスはある。


 三球目はアウトローのストレート。バッテリーはこれで追い込みたい。


「ボールツー」


 しかしほんの少しだけ外れており、大野が打ちたい気持ちを抑えて見極めた。一方の菜々花はマスクの奥で苦々しく笑う。


(良いボールだと思うけどなあ……。でもストライクかどうかを決めるのは球審だし、私たちにはどうすることもできない。ここは歩かせるのが駄目なわけじゃないんだし、焦らず慎重に行こう)

(……そうだね。勝負したい気持ちはあるけど、無茶をしてチームが負ければそれこそ悔いが残る。チームを勝たせる役目を見失っちゃいけないぞ)


 真裕はそう自分を戒め、四球目のサインを伺う。菜々花が要求したのは外角のツーシーム。低めのボールゾーンに沈ませ、空振りかファールを奪いたいと考えた。ところが真裕の首は横に振られる。


(悪くないとは思うけど、大野さんならきっと手を出してくれない。それを分かっていて投げるのは逃げ腰になってるみたいで嫌だ。慎重にはなっても攻める姿勢は崩したくないかな)

(なるほど。……確かにこれはあわよくばを狙っての配球だし、勝負に行ってるとは言えないね。じゃあこれでどうかな?)


 改めて菜々花がサインを出す。今度は快く真裕が頷いた。


(それなら良いと思う。私も投げミスは絶対にしないようにする)


 真裕が投球モーションを起こす。彼女の右腕から放たれたのは、内角高めのストレートだった。若干ながら真ん中に寄っていたため、大野はフルスイングで応戦する。


 だが投球は菜々花のミットに収まった。高めは高めでも、真裕は大野がバットを水平に振ることのできる限界の高さに投げたのだ。流石の大野も簡単には捉えられない。


 これでツーボールツーストライク。今日の大野の打席は、いずれもこのカウントになっている。真裕は二打席目の時に一度スライダーを見せているが、ここはどうするのか。


 ……いや、そんな問いは愚問である。勝敗を決定付けるピンチで相手の主砲と対峙し、追い込むところまで来た。それでスライダーを投げないことなど、どうしてあろうか。



See you next base……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ