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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第四章 その先は……
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52nd BASE

 二対〇の亀ヶ崎リードで迎えた四回表。浜静がワンナウトランナー一、二塁のチャンスを作り、四番の大野を打席に迎える。菜々花との話を終えてマウンド上で一人になった真裕は額の汗を拭い、首を回すなどしてなけなしの息抜きを行ってから大野への投球に臨む。その目元はさっきまでよりも少し鋭利になっている。


 初球、バッテリーは内角へのストレートをボールにして様子を見る。やはりと言うべきか、大野のバットは動かない。


 二球目、再び真裕はインコースのストレートを投じる。大野が悠然と見送り、球審からストライクがコールされる。


 第一打席の時から、大野は顔色一つ変えずにバットを構え続けている。彼女はいつまで外角を待つのか。反対に真裕はいつまで内角に投げられるのか。長い根競べとなっている。


 三球目もストレート。真裕は変わらず内角を狙ったのだが、真ん中高めへと行ってしまう。ここで大野が初めて反応を示す。


「ボール」


 高過ぎたためスイングをしかけて止まったものの、確かに大野に打つ意思が見られた。バッテリーにもはっきりと分かる。


(ここまで露骨に外だけを待ち続けられるものなのか……。けどもう疑う余地は無い。私も無心で投げ込むしかないぞ)


 一度ロジンバッグに触れた真裕は、指に付き過ぎた粉をズボンで拭き取ってからセットポジションに入る。強打者への内角攻めは一つ間違えば長打のリスクもあり、中には気持ちが弱くなってしまう投手も少なくない。しかし彼女は怯むことなく、エースとして大野に真っ向勝負を挑む。


 四球目、菜々花からのサインは引き続きインコースのストレートだった。真裕は大野の膝元へと投じ、ツーボールツーストライクとする。


 前の打席ではこのカウントからバッテリーがインコースを続け、セカンドゴロに打ち取っている。ただ今は得点圏にランナーを置いており、何があっても痛打を食らいたくない場面。スライダーで空振りを狙う方が安全かもしれないと、菜々花は思考を巡らす。


(セオリーなら内角を突き続けるべきだと思うけど、もしかしたら大野は狙いを覆して引っ張ってくるかもしれない。それに比べてスライダーはまだ見せていないし、一球目が打たれるとは思えない。そもそも私たちはこまで、スライダーでピンチを切り抜けてきた。今更違うことをしなくたって良いはずだ)


 考えた末に菜々花はスライダーを選択。真裕としてはインコースを続けるものだと思っていたため、サインが出た瞬間、彼女の目は僅かに丸みを帯びる。


(スライダーなんだ……。ツーストライクを取ってるわけだし、別に不思議なことじゃない。寧ろ私の投球スタイルからしたら普通のことだろ)


 いくら相手の裏を掻きたいとしても、本来の自分を見失ってはならない。それはバッティングでもピッチングでも同じことだ。


 真裕が五球目を投げる。外へ曲がっていくスライダーに対し、大野はようやく待っていたコースに来たとスイングする。最終的な投球の到達点はボールゾーンだったものの、綺麗な金属音を奏でて打ち返す。


「ピッチャー!」


 打球はマウンドの手前で大きく弾み、グラブを出した真裕の上を越えた。そのままセンターへと抜けていきそうな勢いで進む。通常であればヒットになっただろう。しかし二塁にランナーがいたことで、セカンドとショートは二遊間を締めていた。


「オーライ!」


 昴が打球に追い付き、逆シングルでキャッチする。走りながらだったため次の動作への切り替えが難しいが、彼女は踏ん張る代わりに軽く体を浮かせることで地面からの抵抗を無くし、素早く二塁にボールを送る。


「アウト」


 ベースカバーに回っていた京子はすぐ送球へと移れるよう三塁側が正面になる体勢で捕球すると、滑り込んでくる土橋を避けて一塁へと投げた。間一髪ながら大野もアウトとなり、併殺が完成。一瞬にしてチェンジとなる。


「おし! 昴ちゃん、京子ちゃん、ナイスプレー!」


 真裕は二遊間の二人に拍手を送り、彼らと手を合わせてから共にベンチへ引き揚げる。大野にスライダーを捉えられながらも打球がゴロとなったのは、彼女がコースを間違えなかったから。もっと言えばそこに至る過程まででも致命的な失投が無く、根気強く打てる球を待った大野としても為す術が無かっただろう。打者に投手、そして関わった野手を含めて各人がやるべきことをやり切った勝負は、紙一重で亀ヶ崎側が勝った。


 ピンチを脱した流れで畳み掛けたい亀ヶ崎だったが、四回裏はランナーを出しながら追加点を挙げられず。五回の攻防でも両チームは無得点に終わる。


 迎えた六回表。マウンドには未だ真裕の姿があった。対する浜静は九番の桜からの攻撃だが、左打者の藤木(ふじき)を代打に送る。

 つまり桜はここで交代。亀ヶ崎としては紗愛蘭のタイムリーで二点を奪っただけではあるが、以前に抑えられた投手を自分たちがリードした状態で降板させたことは自信にして良い。


 藤木への初球、真裕は外のツーシームでストライクを取る。藤木がまるで打つ気の無いような見送り方をしたため少々不気味であるが、バッテリーは余計なことは意識せず次の投球を行う。


 二球目はアウトローのストレート。これまた藤木は突っ立っているだけだった。


「ストライクツー」


 あっさりと追い込んだバッテリーはさっさと抑えてしまいたいとも思ったが、焦りは禁物。終盤の先頭打者ともなれば尚更である。

 念のため三球目はストライクからボールになるカーブを挟む。こちらは藤木も打とうとする素振りをした上で見極める。


「オッケーオッケー。良い感じのカーブだったよ」


 菜々花は真裕に返球するついでに、横目で藤木の顔を確認する。その表情は仄かに青ざめていて覇気が無く、試合に出てきたばかりにも関わらず疲労感が漂っている。


(え、何でもう疲れてんの? ちょっと気味悪いけど、追い込んでる以上はこっちが圧倒的に有利なんだ。ボールが増えない内に仕留め切ろう)


 四球目、菜々花はストレートのサインを出し、ミットをインローに構える。この一球で打ち取るのが理想だが、もし駄目でも次の球にはスライダーが控えている。真裕もその意図を理解し、ボールになっても良いつもりで投げ込んだ。


 投球は菜々花のミットを動かすことなく貫こうとする。そのまま藤木がバットに当てなければ三振となるだろう。

 ところが藤木はスイングしない。と言っても見送ったわけではなく、セーフティバントを仕掛けてきたのだ。ファールになればスリーバント失敗でアウトとなるが、器用にも一塁ベースとマウンドの中間に転がした。



See you next base……

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