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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第四章 その先は……
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50th BASE

 三回裏、亀ヶ崎はツーアウトながら二塁に京子、一塁に嵐を置き、三番の紗愛蘭に打席が回る。


「さあ行きましょう紗愛蘭さん! 一本お願いします!」


 昴もベンチから大きな声を送る。振り返れば彼女の気付きをきっかけにチャンスは訪れた。現主将の紗愛蘭としては無駄にするわけにはいかない。


(昴のおかげで去年からの呪縛が解けかけてる。ここで私が打てれば、皆がかなりプレーしやすくなるはずだ。絶対に打つ!)


 一球目。アウトコース高めにストレートが外れる。少し抜け気味になっていたため、本当は桜がインコースを狙っていたのではないかと紗愛蘭は推測する。


(嵐に当てたことが少なからず影響してるのかな? それで制球し辛くなってるのだとしたら、基本的に外に目を付けておけば良いから随分と楽だぞ)


 二球目も外のストレートがボールになる。紗愛蘭は大きく優位に立った。


(次はオレスだし、満塁策は考えてないでしょう。カウントが悪くても私を抑えにくるだろうから、こっちも甘い球は逃すな!)


 紗愛蘭は打つべきゾーンを上げ、真ん中よりも高いストライクに狙いを定める。三球目もストレートだったが、低いため反応を示さない。


「ストライク」


 まだ紗愛蘭にはストライク一個分の余裕がある。難しい球を強引に打とうとしない限り、結果を残せる確率は高い。


 四球目、またもや球種はストレート。アウトコースやや低めではあったものの、打てると感じた紗愛蘭はバットに乗せて弾き返す。


「レフト」


 巧みなバットコントロールから生まれる芸術的な流し打ち。打球はスライス回転を伴い、三塁ベースを越えていく。


「ファール」


 しかし惜しくもレフト線の外側に弾んだ。フェアであれば先制点が入る且つチャンス継続だっただけに、できるだけ先の塁に進もうと走っていた紗愛蘭も思わず顔を顰める。


(ちょっと狙い過ぎたな。どうしてもヒットにしなければと思ってしまった)


 バットを拾って打席に戻る紗愛蘭。今の一球で追い込まれたので、ここからは狙い球のみを打つわけにはいかなくなる。


(そういえばここまで全球真っ直ぐだな。浜静バッテリーのことだから、この打席は真っ直ぐだけで勝負してくることだって有り得る。けどそう決め付けてもしも異なる球種を投げられたら終わりだ。とにかく無心で、来た球に食らい付いていこう)


 紗愛蘭は頭の天辺(てっぺん)まで空気を送るように深く息を吸い、一旦何も考えない状態を作る。それから改めてバットを構えた。


 五球目、桜がストレートを続ける。インハイのボール気味ではあったが、確信の持てなかった紗愛蘭はバットを出してファールで逃げる。


(また真っ直ぐか。正直ある程度来るって分かるなら打ち返したいけど、後の無い状況じゃこうなるのも仕方が無い。粘って球数を稼いで、フォアボールでオレスに繋いだって良いんだ)


 ツーストライクを取られた時点で、紗愛蘭はヒットを打つことよりもアウトにならないことを優先する心構えに切り替えている。後ろにオレスのような頼れる打者が控えており、自分でランナーを還せなくても彼女たちが代わりを担ってくれると信頼して託せるのだ。


 六球目もストレート。だがアウトコースに外れ、フルカウントとなる。


(スリーボールまで来たけど、最後の最後は変化球で振らせにくるだろうか? ……いや、それは考えなくて良い。ストライクは打つ、ボールは見極める。それだけのことだ)


 紗愛蘭は極限まで思考を単純化する。次の一球で勝負は決するのか。桜が七球目を内角のストライクゾーンに投じる。スイングしようとする紗愛蘭だが、球種はストレートではない。投球は初めの高さから低めへと落ち、これまでになかった変化を見せる。


 これは万事休すか。……と思われるも、何と紗愛蘭はバットに当ててみせた。そして時計の針が六時から十二時へと弧を描くようにフォロースルーを取り、掬い上げて打ち返す。


「ファースト!」


 打球は腕を伸ばして跳び上がる大野のグラブを越し、今度はライト線上に弾んだ。そうしてフェア判定がされた後にファールゾーンを転々とする。


「回れ回れ!」


 二塁ランナーの京子がホームインしたのに続き、一塁ランナーの嵐も三塁を回る。クッションボールを処理した濱地が大野を介して本塁へ返球するも、嵐の生還は阻止できない。


「よっしゃー! ナイスバッティング!」


 京子と嵐の二人は揃って両腕を紗愛蘭に掲げる。二塁ベース上の紗愛蘭もそれに応じて軽く右手を上げる。


(ひとまず打てて良かった。最後はフォークだったのかな? スピードもそこそこ出てたし、スプリットって言うのが合ってるかも。ここぞって時まで隠しておいたんだろうけど、見逃されたくない気持ちが働いたのか腕の振りもコースも少し甘かったね)


 桜が落ちる変化球を所持していることは紗愛蘭も明確に把握しておらず、当然ながら投げてくることも想定していない。それでも投球フォームの僅かな隙からストレートではないと見抜き、見事にタイムリーツーベースを放った。


 一年越しに桜から得点を挙げ、亀ヶ崎は二点を先制。更なる攻勢を掛けるべく打席に立ったオレスは、初球のカーブを捉えて右方向へ速いライナーを打つ。


「はっ!」


 外野まで抜ければ追加点は確実だったが、セカンドの穂波がジャンプ一番でキャッチした。京子の時に続き、またもやファインプレーでチームを救う。

 これでスリーアウト。試合に出ている選手たちはベンチに戻ってきた紗愛蘭とハイタッチなどを交わしてから各々の守備位置へと駆けていく。真裕もマウンドへと行く前に二人で拳を合わせ、互いの活躍を称える。


「流石紗愛蘭ちゃん! ナイスバッティングだったね」

「ありがとう。真裕がチャンスを作ってくれたおかげだよ。点を取った後が大事だし、この回をゼロに抑えよう」

「うん。そうすれば流れを一気に引き寄せられるもんね」


 両者が認識している通り、試合が動いたため四回表は重要な意味を持つイニングとなる。加えて浜静の攻撃は一番から。一巡目に一人のランナーも出せていない分、各打者は一層の集中力を高めて真裕に向かってくる。これまでとは大きく展開が変わってくるかもしれない。



See you next base……

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