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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第四章 その先は……
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48th BASE

 スコアレスで迎えた二回裏。ワンナウトランナー無しで菜々花に打席が回る。ストレート、カーブ、シュートと順番に来てからの四球目、桜の投球はど真ん中を直進してきた。ストレートを狙っていた菜々花はこの好機を逃すまいと、思い切りスイングする。


「う……」


 ところがバットは鈍い音を発する。投球が微妙に変化しており、菜々花は芯ではなく根元で打たされたのだ。


 結果は平凡なショートゴロ。菜々花の全力疾走も及ばず、ツーアウトとなる。


(真っ直ぐじゃなかった。私の方に向かって曲がったってことはシュートか。きっとローテーションをしていると思わせておいて、私が真っ直ぐを狙うように仕向けたんだ)


 浜静バッテリーは、前回の対戦で亀ヶ崎の選手たちに刻まれた記憶に付け込み、巧みに活用している。菜々花も彼らの罠に掛かってしまった。


 打順は六番の昴に回る。彼女は左打席に入ると、バットの先でベースの上下を丁寧になぞってから構えを整える。


(ここまでは皆、バッテリーの配球に気を取られて自分のバッティングを見失ってる。相手の思考を読み解こうとするのは大事なことだけど、浜静はそれを逆手に取ってるんだ。だからこの打席は深く考えず、来た球を打ちにいこう)


 昴は敢えて狙い球を決めない。彼女には予測していない球種やコースに対してもミートポイントを合わせられる反射神経が備わっている。それ故に打つべきではない球に手を出してしまうことあるが、相手に裏を掻かれることがない分、今の桜への対応としては有利に働くはずだ。


 一球目、内角低めにストレートが来る。右足を高く上げてタイミングを取っていた昴は、小さな体を一杯に使ったスイングで打ちに出る。しかしバットには当てられず、空振りの反動で本塁ベース側にバランスを崩しかける。


(いけない。長打を打ちたいからって大振りになってしまった。外野の頭を越せたら最高だけど、そんなに簡単じゃない。もっとコンパクトなスイングを心掛けないと)


 昴はヘルメットを被り直しつつ、自らを戒める。壺に嵌れば大飛球を放てる彼女だが、あくまで理想に過ぎない。現実的に狙うべきは右中間や左中間を裂くような打球であり、そのためには大きなスイングよりも確実にバットの芯で捉えることに重きを置かなければならない。


 二球目、昴はバットの握りを小指一本分余す。桜から投じられたのはアウトコースへのカーブだ。


「ボール」


 低めに沈んでいく軌道を昴はきっちりと見極める。前の球と違って投球を見る時間を長く取ったため、バットを振らずに我慢することができた。


 三球目、桜はシュートを投げてくる。外角の際どいコースに昴は手を出さない。


「ストライクツー」

「え? そうなのか……」


 球審の判定を聞き、思わず昴が声を漏らす。ボールだと思って見送ったため、無意識に驚きを表に出してしまう。


(今日の審判は外角を広めに取るのかな? あれをストライクと言われるのは厳しいけど、私たちとしては従うしかない。追い込まれちゃったし、何と食らい付いていこう。あっさりアウトになるわけにはいかないぞ)


 昴はすぐに気持ちを切り替え、バットを構え直す。人間なので不満や不信感を抱くことはある。しかしそれを自分のプレーに影響させないようにするのが、彼女の信条だ。


 四球目、初球と同じく内角へのストレートが来た。昴は差し込まれながらもバットに当て、ファールで逃れる。


 五球目のカーブはボールとなり、次の六球目はアウトハイへのシュート。昴はバットの芯に近いところで弾き返す。だが打球はレフトのフェアゾーンの外側を飛んでいった。


(ここまでは三つの球種をローテーションしてきてるな。でも次は変えてくるかもしれないし、参考にはならない。惑わされるな)


 昴は打席の外で何回か素振りを行い、雑念を取り除く。この打席ではストレート、カーブ、シュートが順番に投じられてはいるが、それでも来た球を打ちにいく姿勢を貫こうとする。


 仕切り直して迎えた七球目。桜としても良い加減に打ち取りたい頃合いだろう。彼女の右腕から放たれた投球は、一旦浮き上がって弧を描く。ストレートではなくカーブを投げてきたのだ。

 昴はタイミングを狂わされ、普段よりも早く右足を着地させてしまう。如何に気に留めないようにしていても、心の片隅ではストレートが来るのではないかと身構えていた。投球は真ん中付近に落ちてきているため、見逃すことはできない。


(……大丈夫だ。耐えろ)


 しかし昴はこうなることも想定に入れていた。彼女は限界までスイングを始めないように踏ん張り、手元まで投球を引き付けてから鋭くバットを振り抜く。


「ライト!」


 緩やかな飛球が右中間に上がる。勢いも乏しかったものの、落下地点に誰一人として野手がいなかった。昴は一塁を蹴って一気に二塁へ向かう。


「オーライ! 私が捕る」


 転々とする打球を掴んだのはライトの濱地。逆シングルで捕球した彼女は急いで送球体勢を整えたが、その時点で昴は二塁ベースの目前まで達していた。これでは刺せそうにない。


 この試合を通じての初ヒットが生まれる。普段はクールな昴もほんの僅かながら頬を緩ませ、引き締まった顔付きの中に安堵感を漂わせる。


(良い当たりじゃなかったけど、ヒットはヒットだ。コースが甘めだったのはラッキーだったね。これが他のバッターにも活きてくれれば)


 そう願う昴を本塁まで迎えいれたい亀ヶ崎だったが、直後の打者が倒れて得点はならず。続く三回表は真裕が浜静の下位打線を三人で退けた。


 三回裏はその真裕の打席から始まる。ベンチで用意をする彼女に、昴が声を掛ける。


「真裕さん、ちょっと良いですか?」

「うん、どうした?」

「浜静バッテリーは恐らく、私たちが向こうの考えを読もうとしているのを利用して配球を組み立てています。だから相手がどうしてくるかに関係無く、予め打つ球を決めて打席に立った方が良いと思います」

「……なるほど。分かった」


 昴の助言を受けて真裕が打席に向かう。この回も無得点ならば試合の空気は重くなり、膠着状態に入るかもしれない。そうなれば桜の攻略は更に難易度を増す。それを避けるためにも、亀ヶ崎にとって重要な攻撃となりそうだ。



See you next base……

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