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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第四章 その先は……
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47th BASE

 二回表、右打席に四番の大野(おおの)が入る。主将を務める彼女はチームで五人しかいない三年生の一人であり、どっしりとバットを構える姿からは強者の風格が漂っている。


 初球、真裕は内角高めにストレートを投じる。大野は少しバットを出し掛けただけで打つことはせず、ボールとなる。


(大野は引っ張っても流しても飛距離が出る。特に外角の球をバットに乗せて運ぶのが上手い。この打席ではとにかく内を意識させて崩したい)


 菜々花は二球目も、真裕にインコースへのストレートを投げさせる。これにも大野は手を出してこない。


「ボールツー」


 ここまではボールが二つ先行。いくら大野が相手と言っても、真裕としてはノーアウトから四球を出すわけにはいかない。当然ながら菜々花も心得ている。


(次は必ずストライク取らなきゃならないね。ただカウント稼ぎのために外へ投げれば、大野には絶好球となりかねない。だから真裕、膝元のツーシームで行こう。インコースが続くけど大丈夫?)

(もちろん大丈夫だよ)


 菜々花のサインに躊躇うことなく頷き、真裕は三球目を投じる。二球目までよりも少々真ん中寄りには入っていたが、大野は微動だにしない。低めに来ていたため打ってもゴロになると考えたのだろうか。


(大野はバットを振る気配すら感じられないな。最初の二球はボールではあったけど、明らかに外れてるわけじゃなかった。もう少し反応してくれないと、何を待ってるか予想もできないじゃん)


 大野の考えを探りたい菜々花だが、こうも動きが無いとどうにもならない。それでも打ち取るための配球を組み立てるのがキャッチャーの役目。投手以上に労力の要するポジションである。


(内角を打つ気が見られないんなら、徹底してそこを突けば良いんだ。自分たちから難しくせず、シンプルに考えよう)


(またまたインコースの真っ直ぐか。菜々花ちゃんも強気だね。でも夏大ではこれくらい普通にやれないといけない。今日はそれを試すための試合なんだ)


 真裕は深々と首を縦に振る。バッターインザホールではあるが、気持ちで退いてはいけない。彼女は力強く右腕を振り抜き、四球目を投じる。


「ストライクツー」


 球審のコールがグラウンドに響く。真裕は内角へストレートを投げ切った。一方、これまた大野は見送るだけで、カウントの上では投手優位に変わる。


(バッティングカウントだったし、四番なら打ちにいく姿勢くらい見せたらどうなの? ……まあ良いや。そっちが何もしてこないんだったら、こっちも攻め方を変えないよ)


 菜々花は五度(ごたび)インコースにミットを構える。真裕としては少々意固地になっているように思えたが、自分がキャッチャーでも同じことをするだろうと納得する。強打者を抑えるには、こうした執拗さも必要なのだ。


 五球目、真裕の投げたストレートが真ん中やや内寄りのコースを進む。流石の大野もこれを見逃せば三振となるためバットを出してきた。しかし差し込まれてしまい、最後は左腕が垂れ下がったフォロースルーで打ち返す。


「ピッチャー」


 マウンドの右に転がったゴロが真裕のグラブを掠める。これを処理したのがセカンドを守る昴だ。予め左寄りにポジションを取っていた彼女は二塁ベースの後方に回り込んで打球を掴むと、踵に体重を残しながらもノーバウンドの送球を一塁に投げてアウトを取る。


「ナイス昴ちゃん。助かった!」

「いえいえ。真裕さんもナイスピッチングでした」


 真裕の謝辞を受けて昴はしたり顔を浮かべると同時に、称賛の言葉を返すことも忘れない。野球選手としては華奢な体付きの彼女だが、抜群の身体能力を活かして一年生の時から試合に出続けている。

 その軽やかな身のこなしは華やかさを纏いつつも常に安定感があり、緊迫した場面でも着実にプレーを熟していく。また感情に任せて冷静さを失うことがないため、人柄も含めて先輩後輩問わずチームメイト全員から一目置かれている。次期主将として推薦する者が多いのも頷ける。


 結果的に四番の大野はセカンドゴロ。本当にアウトコースを待っていたのかは謎のままに終わり、菜々花は次の打席でその答えを解き明かすこととなる。


(最後のインコースもとりあえずバットに当てただけって感じだったな。いくら何でもずっとあのままじゃないだろうし、いずれ駆け引きをしないといけない時が来るだろうね)


 後続の打者も凡打を重ね、攻守交替。二回裏の亀ヶ崎も浜静と同じく四番からの攻撃となり、先頭打者としてオレスが打席に入る。


 初回の桜は京子と紗愛蘭にはローテーション、嵐には関連性の無い投球をしてきた桜。オレス以降の打者に対してはどうか。


(決まった球種を順番に投げてくるなんて、ふざけたことするじゃない。私が一球で打ち砕いてやる!)


 初球から狙いを定めるオレスに、桜が投じてきたのは外角のストレート。オレスは得意の流し打ちで鋭い打球を飛ばす。


「ファースト!」

「おっと……」


 ヒットになってもおかしくない勢いだったが、ファーストの大野が身を挺して止めた。足元に弾いたボールを落ち着いて拾い、自ら一塁ベースを踏む。


「アウト」


 たった一球でオレスは凡退。狙い球を捉えた結果とはいえ、これでは浜静バッテリーがどんな配球をしようとしていたのかは分からない。


 続いて打席に入るのは五番の菜々花。彼女の初球もストレートだったが、高めに外れるボールとなる。


(オレスにも私にも初球は真っ直ぐだった。次は順番的にカーブを投げてくるはず)


 二球目、菜々花の読み通りカーブが来る。彼女は押っ付けて打とうとするも、遠いと判断して見送る。


「ボールツー」


 ストレート、カーブと続いた。そうなれば三球目はシュートだ。


「ストライク」


 案の定、桜のシュートが内角に決まる。菜々花も予想はしていたものの、コースが厳しいため打つことはしない。


(……間違いない。私にはローテーションの配球になってる。だったら次の真っ直ぐを仕留めるんだ!)


 四球目、菜々花はストレート一本に絞って待つ。桜の投球は、ほぼ真ん中を目掛けて直進してきた。



See you next base……

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