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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第四章 その先は……
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45th BASE

 梅雨明けの時期に差し掛かり、すっきりとしない天気が続く日々も終わりに近付いている。本日はそれを象徴するかの如く、朝の早い時間から太陽が元気に地面を照らしていた。


「六番セカンド、昴」

「はい!」


 亀ヶ崎女子野球部は静岡県の浜静(ひんせい)高校と練習試合を行う。夏大の陣容も徐々に固まってきてはいるが、まだ確定ではない。それでもアピールできる場は確実に減っていくので、選手たちは今日の試合で自分のポジションを確立するための決め手を示したい。


 加えて先日紗愛蘭たちが話していたように、次の代のチームのことを考えていかなくてはならない。三年生としては後輩に何を残していけるのか、一、二年生は先輩がいなくなっても強いチームを作っていけるのか、それぞれがそれぞれの想いを持って試合に臨む。


「ただいまより、亀ヶ崎高校対浜静高校の試合を始めます。礼!」

「よろしくお願いします!」


 試合が始まった。高校の亀ヶ崎の選手たちが守備位置に散り、マウンドには真裕が上がる。テスト明けだった前回の登板ではカーブやツーシームなどを中心とした投球を試していたが、今回は夏大本番を意識した配球を組み立てることとなりそうだ。


 対戦相手の浜静高校は、昨年に女子野球部が立ち上がった。初出場となる前回の夏大では一回戦で敗退したものの、その前に行われた亀ヶ崎との練習試合では勝利を収めており、チーム力は高い。更に発足時点で一、二年生のみのメンバー構成だったため、昨夏から戦力が落ちることなくレベルアップしている。もしかすれば今年の夏大では台風の目となるかもしれない。


 一回表、浜静の一番を務める濱地(はまじ)が右打席に立つ。打撃にも走塁にも積極果敢な彼女が塁に出れば、打線も一気に活性化する。亀ヶ崎バッテリーにとっては要注意人物となるだろう。


「プレイ」


 球審の短く引き締まったコールを聞き、真裕が最初の一球を投じる。ボール気味だった外角のストレートを濱地は打って出た。


「ファール」


 打球は一塁側ベンチ上のネットを直撃。まずは真裕がストライクを先行させる。


(初球にも関わらず難しいコースにも手を出してきたか。きっとこの子のスタイルなんだろうけど、ボール球がストライクとなるのはありがたいよ)


 二球目もストレート。濱地がどこまで反応してくるかを探るべく、真裕は初球以上にアウトコースへと外す。


「ボール」


 打つ気満々でバットを振ろうとする濱地だったが、流石に届かないと感じて途中で思い留まる。菜々花がハーフスイングを主張するも聞き入れられず、カウントはワンボールワンストライクとなる。


 三球目。再度ボール球を振らせたいと考えたバッテリーは、インローに沈むツーシームを使う。


「サード!」


 思惑通り濱地は打ってきた。微妙に芯から外れたゴロが三遊間に転がり、サードのオレスが斜め前に出て掴む。彼女は鋭い送球をファーストの嵐に投じて濱地をアウトにする。


「ナイスオレスちゃん。ワンナウト!」

「……ワンナウト」


 真裕からの声掛けに、オレスは渋々ながら右の人差し指を立てて応える。群れることを好んでいなくても、試合中のコミュニケーションは疎かにしない。


(オレスちゃんもすっかりチームに溶け込んだね。プレーに関しては言うことないし、時には的確なアドバイスをしてくれる。これならキャプテンを任せても心配要らないね)


 二年生当人たちには知らされていないが、今日の三年生は次期主将に誰が相応しいかを考えながら彼らを見ている。単純なプレーに限らず、場面に応じてどのように振る舞うかも注目すべき点となる。


 打席には二番の穂波(ほなみ)が入る。身長は一五〇センチと小柄な右打者だが、冬のトレーニングで筋力を高めて長打も望めるようになった。小技も器用に熟せるため、濱地とは非常に強力なコンビを形成している。


 初球、アウトコースを穂波が見逃す。判定はストライクだ。


 二球目のカーブが外れた後の三球目。バッテリーはストレートで内角を突く。詰まらせて凡打に仕留めたかったが、そうはなるまいと穂波は腰を素早く回転させてスイングし、バットの芯で弾き返す。


 三塁線上空を舞った打球が一瞬にして外野まで伸びていく。だが最終的にファールゾーンへと着弾し、惜しくもヒットにはならない。


(思ったよりも良い打球を飛ばすな。真裕の真っ直ぐもしっかりと引っ張れてるし、安易に力で押し込もうとするのは危ないな。慎重に攻め方を考えないと)


 菜々花は顔には出さないようにしながらも、今の穂波の打撃には肝を潰す。彼女も去年の練習試合は覚えており、各打者の特徴はそれなりに把握しているつもりだったが、認識を改める必要がありそうだ。


 と言ってもこの打席はバッテリーが追い込んだ。菜々花はスライダーを使うことを検討したものの、流石にそこまで焦るべきではないと考えて違うサインを出す。


 四球目、真裕は再びインコースへと投じる。球種はストレートではなくツーシーム。連続して内角に来ることはないと予想していた穂波は慌てて対応する。


「オーライ」


 平凡なゴロがまたもやサードのオレスの元に飛ぶ。彼女は一歩下がってバウンドを合わせ、軽やかに処理した。


 真裕は厄介な一、二番を打ち取った。ツーアウトとなり、左打席に三番の土橋(どばし)が入る。彼女は去年の練習試合、夏大と共に怪我で出場しておらず、亀ヶ崎の面々とは初めての顔合わせとなる。


(この子を抜きにしても、浜静のクリーンナップはかなり手強かった。それを崩して三番を打ってるんだから、実力のあるバッターなのは間違いない。ほんとに創部されて一年なのかって疑いたくなるくらい良い選手が揃ってるね)


 土橋と対峙した真裕は、一度深く息を吸って吐き出す。好打者が立て続けに出てくるのは精神的にも負担は大きいが、その分だけ面白味があると感じていた。それは彼女が心から野球を好きでいるからだろう。


 一球目、真裕は威力十分のストレートを投げる。真ん中やや外寄りとコースが甘かったため、土橋は迷わず打ち返した。


 ライナー性の打球が左中間を襲う。しかし少々上がり過ぎたことで飛距離が出ず、レフトが追い付く。


「アウト。チェンジ」


 浜静打線が強打の片鱗こそ見せたものの、結果的には三者凡退。真裕は悠然とマウンドを後にする。



See you next base……

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