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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第三章 エースに続くのは……
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32nd BASE

 祥は二回まで楽師館を無得点に封じる。自軍の打線も点を挙げられない中、彼女は三イニング目のマウンドへと上がる。この回もランナーを出すことなく二つのアウトを重ねた。


《一番サード、西本さん》


 楽師館打線は二巡目に突入。先ほどはセカンドゴロに倒れた西本が打席に立つ。ツーアウトではあるが、上位打順なので少しでも気を緩めれば一気に付け込まれる危険性もある。


 初球、祥はインコースのスライダーから入る。西本は積極的に手を出してきたが、打球は三塁側のファールゾーンを転がっていった。


 二球目はカーブがワンバウンドし、西本には見極められる。続く三球目は外角のストレート。際どいコースではあったが、球審の手は挙がらない。ボールが一つ先行し、打者有利のカウントができる。


 次の球でどうにかして追い込みたいバッテリー。菜々花はストレートのサインを出すと、西本の臍の前にミットを構えた。サウスポー特有のクロスファイヤーで差し込むことが狙いだ。


(ここでインコースに行くのか。デッドボールもスリーボールも嫌だけど、この次でスクリューを使うためにはそれが一番だよね。追い込めれば私たちが優位に立てるんだ。投げ切るぞ!)


 祥は若干の葛藤を抱きながらも、最後は腹を据える。頬を膨らませて軽く息を吐き、気合を入れてから西本への四球目を投じる。


 スリークォーターから放たれたストレートは、斜めの角度を付けてインコースへと直進する。しかしやや真ん中に寄っていたため、西本はそれほど窮屈に感じることなくスイングできた。彼女のバットから快音が響く。


「サード!」


 鋭いゴロが二遊間へと飛ぶ。サードとショートが共にダイビングキャッチを試みるも、打球は二人の真ん中を破っていった。


 打った西本は一塁をオーバーランして止まる。三人で抑えたい祥だったが、残念ながらランナーを許してしまう。


「祥、ボールは悪くなかったよ! 次を抑えよう」


 すかさず菜々花が声を掛ける。シングルヒット一本程度なら全く気にしなくて良い。連打や長打を許さない限り、そう簡単には得点に繋がらない。


 ただし西本は俊足の持ち主。既にツーアウトを取られている楽師館としては失う物が無いので、果敢に足を絡めた攻撃をしてくる可能性は高い。


《二番レフト、中本さん》


 打席に入るのは中本。祥は苦手意識を持ちつつも、第一打席では三振を奪っている。ここもストライク先行の投球を展開し、楽師館が策を打ってくる前に勝負を決めたい。


「祥、ランナーが走ってきたら私が刺すから。祥は投げることをしっかりやって!」

「分かった」


 菜々花の言葉に頷き、祥は中本と対峙する。彼女は初球のサインを決めてセットポジションに就いた。正面では西本が大きなリードを取っている。


(あのランナー、めっちゃ走りそうな雰囲気が出てるな……。牽制を入れておいた方が良いかな? いやいや、菜々花には投げることをしっかりやれって言われてるんだ。走られた時は菜々花に任せよう)


 祥が一球目を投じようと足を上げる。すると西本は二塁に向かって走り出す素振りを見せる。


「え?」


 ストレートを低めに投げたかった祥だが、実際の投球はインハイのボールゾーンに抜けてしまう。西本はボールが菜々花のミットに収まるのを確認し、素早く帰塁する。


(しまった……。ランナーの動きに惑わされちゃ駄目だ。私が相手にするべきはバッターなんだから)


 祥はそう自分に訓告する。再びセットポジションに入ると西本の姿が映るも、雑念を抱かぬよう無心で投球を行う。


「ストライク」


 アウトハイにストレートが決まる。西本に動きは無かった。


(向こうだってアウトにはなりたくないだろうし、私を搔き乱すために敢えて走ってこないかもしれない。だったら私が一人で考えれば考えるほど、相手の術中に嵌ることになる。そうはなりたくないぞ)


 祥は打者への投球に専念するべく、手短にサイン交換を済ませる。ここまで快調なピッチングを見せているだけに、それを自ら崩すことはしたくない。


 三球目。祥が投球動作を起こす。刹那、一塁ランナーの西本がスタートを切る。今度は偽走ではなく、本当に盗塁を仕掛けてきた。


(まじ? ……けど気にするな。私は菜々花のミットに向かって投げ込むだけだ)


 祥は構わず左腕を振り抜く。彼女が投じたのはアウトローへと曲がるスライダー。際どいコースに決まるも、球審にはボールと宣告される。

 だが今は判定に関して悔やんでいる余裕は無い。捕球した菜々花は瞬時に立ち上がり、小さなモーションで二塁へと投げた。


 送球はベースカバーに入ったオレスの額の辺りに届く。オレスは機敏な動きでスライディングしてきた西本の脛にタッチする。


「セーフ、セーフ」


 ところが西本の足が一瞬だけ早かった。盗塁を許してしまい、菜々花は顔を顰める。


(くそ……。送球がちょっと高くなった。良い球が行ってたらアウトだったかもしれないのに。祥に刺すって啖呵を切っておいて、情けないよ)


 菜々花がタイムを取って一旦マウンドへと向かう。中本との対戦の途中ではあるが、俄にピンチが押し寄せたことで態勢を立て直す。


「ごめん祥、アウトにできなかった」

「仕方無いよ。菜々花の肩でも刺せないんだから、ランナーが凄いってことだ」

「悔しいけど認めるしかないね……。反省は後だ。とにかく今は、中本をアウトにすることを考えよう」

「うん。……次のバッターには回したくないからね」


 祥はほんの一瞬だけ、楽師館のネクストバッターズサークルに視線を動かす。中本を出せば後ろには万里香が控えており、ランナーを溜めて彼女と対することとなる。真裕や結ならそれを歓迎するかもしれないが、祥はそこまで強気にはなれない。形にして結果を残すためにも、是が非でも中本で切りたい。


「今日の祥は真っ直ぐが走ってる。高ささえ間違えなければ、中本なら内野の頭も越せないと思うよ。その一球で打ち取れるなら良し。仮にファールにされたり見逃されても、ストライクを増やせればスクリューがある。この攻め方でどうかな?」

「受けてる菜々花が思うなら、それが正解だと思う。私は精一杯投げ込むよ」


 菜々花の提案を祥が受け入れる。実際に今日はここまで、ストレートで打者を詰まらせる場面が多く見られている。抑える上では最善の策となるだろう。


「よし。じゃあ頼んだよ! ここを踏ん張って、攻撃に繋げよう」

「そうだね」


 二人はグータッチをして別れる。マウンドに残された祥は大きく背伸びをし、身体を固める緊迫感を和らげてから、改めて中本への投球に移る。



See you next base……

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