表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第三章 エースに続くのは……
29/149

28th BASE

 七回裏からマウンドに上がった結はいきなりノーアウト一、二塁のピンチを招くも、楽師館のバント失敗などもあってツーアウト一、三塁まで漕ぎ着ける。しかし打席には最大の難敵、万里香を迎えていた。


 初球でストライクを取った後の二球目、カーブが外角に外れる。中本に対してはストレートだけで押し切ったが、打者が万里香となるとそうはいかない。変化球を織り交ぜながら打ち取る術を探る。ここからの組み立てについて、菜々花は二つの方法で迷っていた。


(結は真っ直ぐを課題にして取り組んでるわけだし、他の球で追い込んで最後は真っ直ぐで締めたい。でもそれは甘い考えなんじゃないか? 万里香が相手だぞ。やっぱり決め球にはスライダーを持っていくべきだろ)


 悩んだ末に出したサインは、アウトローのストレート。これでツーストライクを取り、その後のスライダーで仕留める結の普段のスタイルを選んだのだ。


(外角の真っ直ぐか。これで追い込めれば、私にはスライダーがある。……いやいや、今日に限っては違うでしょ)


 ところが結は首を振った。それから菜々花に目で訴える。


(菜々花さん、ここでスライダーを使いましょう。ストライクを取ることだけに関して言えば、確実ではないですけどそっちの方が可能性は高いです。そして最後は真っ直ぐで勝負させてください。せっかくなんですから、練習してきたことに拘りたいです。円川さんが相手なら尚更です)


 もちろん万里香がすんなりと凡退してくれるとは思っていない。だがたとえ打たれたとしても、ストレート勝負を貫くことは結自身の現在地を計る上で大いに意義がある。彼女の心意気に、菜々花は胸を打たれる。


(万里香が相手でも関係ありませんってことか。そういう気概は嫌いじゃないよ。じゃあスライダーで追い込んで、決め球は真っ直ぐにしよう。よくよく考えたら、ここで試せないと夏大本番でもできるわけがないからね)


 菜々花が意を決してサインを出し直す。結は少しだけ口角を持ち上げて頷いた。


 三球目、結の投じたスライダーは外角のやや高めから落ちていくも、ストライクゾーン内に収まる。大きな落差と鋭い切れ味に、流石の万里香も初見では反応できない。


(今のは何? フォークにしては結構な回転が掛かってたし、縦のスライダーってところかな? 見た感じウイニングショットっぽいけど、カウント稼ぎのために使っちゃって良いの?)


 万里香は一度見たことにより、スライダーの軌道は概ね把握できた。次にストライクからボールになる投球が来ても、最悪ファールにはできるだろう。ただし今のバッテリーはそれを気に留める必要は無い。ストレートで勝負すると予め腹を括っているのだから。


(ひとまずは筋書き通り。……さあ結、決めるよ!)

(はい! 分かってます!)


 結と菜々花が手早くサイン交換を終える。万里香は菜々花が自分の懐に寄ってきた気配を感じ取り、次に来る球を汲み取る。


(……そういうことか。勝負球に真っ直ぐを持ってきたいから、前の一球でスライダーを投げたってことね。どれだけ自信があるのかは知らないけど、それで私を抑えられると思ってるの?)


 万里香は獅子の如く目元を爛々と引き締め、結という獲物を捉える。彼女のストレートを粉砕する準備は万端だ。


 対する結もセットポジションに入った。飄々とした面持ちを保ち、加速する心音をできる限り感じないようにする。鼻の下に溜まった汗を舌先でさっと拭うと、万里香への四球目を投げる。


「ふん!」


 コースはインロー。初球と同じではあるが、その時よりも更に内角を抉っている。ストライクになると思われるため、万里香は打つしかない。腕を畳みながらもスイングスピードは落とさぬよう器用にバットを振り抜き、快音を響かせる。


「おりゃ!」


 火の出るようなライナーが三塁線を襲う。抜ければ三塁ランナーがホームインし、楽師館のサヨナラ勝ち。亀ヶ崎は万事休すだ。


「はっ!」


 だがここでスーパープレーが飛び出す。サードのオレスが横っ跳びで打球を掴んだのだ。彼女は地面の上で体を一回転させながらも、何食わぬ様子で起き上がった。それからグラブの中に入ったボールを見せる。


「アウト、ゲームセット」

「おお……、ナイスプレー」


 これには万里香もオレスを称えるしかない。サードライナーで試合終了。二対二の引き分けとなる。


「オレスさーん! ナイスキャッチ! 最高です! 大好き!」


 打たれた瞬間に敗北を覚悟した結は、感激のあまりオレスに抱き着こうとする。オレスは見るからに嫌そうな表情をし、グラブを付けた左腕で彼女を制する。


「ああもう、ベタベタしないで! そういうの良いから。あんたも真裕とかと一緒で、ほんとにうざったいわね。……まあ良いわ。試合は終わったんだし、さっさと挨拶行くよ」

「はーい。すみません」


 結は口をへの字に曲げて残念がりつつ、オレスと共に整列へと向かう。先に並んでいた真裕や菜々花が優しく微笑んで迎えてくれた。


「結ちゃん、よく抑えたね! ナイスピッチングだったよ」

「ありがとうございます。でも最後はオレスさんに助けられちゃいました」


 真裕の賛辞を素直に受け取れず、結は苦笑いを浮かべる。心の中では、最高に近いストレートを万里香にバットの芯で弾き返された悔しさが渦巻いていた。だがそんな彼女に、菜々花が諭すように言う。


「確かにオレスのファインプレーではあるけど、それは結がきっちりと低めに投げ切ったから生まれたんだよ。少しでも高くなってたら内野の頭を越されてたかもしれない。だからそこは誇って良いと思う」

「なるほど……。一理ありますね。じゃあちょっとは自信にしようと思います!」


 菜々花の言葉を聞いて少しばかり蟠りが解け、結の笑顔が晴れやかなものに変わる。万里香との一騎打ちには負けてしまったのかもしれない。しかし最終的には守備陣の協力でアウトにすることができた。彼女が自分の思い通りの投球をしたが故に、導き出された結果である。


「ありがとうございました!」


 結は他の誰にも勝る大きな声で試合終了の挨拶をする。第一試合では真裕と結の両者が共に、課題を改善して着実に進歩している姿を見せた。他の投手陣はこの二人に続くことができるのか。



See you next base……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ