表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第三章 エースに続くのは……
28/149

27th BASE

 七回表、ノーアウト一、二塁から楽師館が送りバントを仕掛けるも、菜々ちゃんバズーカによって阻止。亀ヶ崎はランナーを進ませることなくアウトを一つ増やす。


 結はマウンド上でオレスからボールを貰うと、それを両手で()ねる。この動作自体には特に意味は無いが、状況把握や気持ちを作り直すには有効な間となる。


(菜々花さん、めっちゃかっこ良かった! 私も負けていられない、……とは思うけど、それに流されたらまた余計な力が入ったちゃうかもしれない。良いか、ここからも普段通り投げるんだぞ)


 結は自分にそう聞かせ、両の肩から腕をだらしなく下げる。そうして力を抜いてから改めて投球に向かう。


 打順は九番だが、楽師館は代打の中本(なかもと)を送ってきた。左打席に入った彼女は非常に身長が低く、座っている菜々花より僅かに高い程度の背丈だ。その分ストライクゾーンも狭まるため、投手としては投げにくいだろう。


(随分と小さいバッターが出てきたな。間宮君の隣に立って、どれだけ差があるのか見てみたいよ。まあでも膝の高さに投げれば問題無いでしょ。実は私、的が小っちゃい方が一点に集中できるから得意なんだよね)


 しかし結は諸共(もろとも)しない。寧ろ低めのコースに狙いが定めやすくなったと、前向きに捉えていた。


 初球は内角へのストレート。拳半個分ほど短くバットを持っていた中本でも窮屈なスイングを強いられ、結果的に投球は菜々花のミットに収まる。


 二球目。結は同じ球を続ける。今度は一球目よりも低かった分、スイングに余裕のできた中本はバットに当ててくる。だが打球は彼女の右の爪先に直撃。中本は鼻根に皺を寄せて痛がる素振りを見せる。


「痛いぃ……」


 中本は打席の周りを数周歩いてどうにか痛みを和らげる。彼女の身を案じて駆け付けようとする仲間を制し、バットを構え直す。


 ノーボールツーストライクと追い込んでからの三球目、またもや結はストレートを内角に投げ込む。中本はファールで逃げるのが精一杯だった。


 執拗なまでに中本の体の近くを攻めるバッテリー。特筆すべきは結のコントロールである。指先に引っ掛ければ真ん中付近への失投となり、その逆に外れれば死球となりかねないプレッシャーの中で、一球たりとも投げ損じていない。低めへの投球を意識して練習を重ねたことが、全体的な制球力の向上にも繋がっている。


(何となくだけど、以前よりも左バッターに投げやすくなったかな。できればこのまま真っ直ぐで押し切っちゃいたいぞ)


 練習の成果を実感し、結は尚もストレートを続けたいと望む。菜々花は得策ではないとは思っていたが、結の希望を尊重する。


(バッターは速い球を追うのに必死になってる。だから変化球を投げれば簡単に崩せるだろうし、その後に真っ直ぐを投げさせるのが無難だとは思うけど、真っ直ぐ一本で抑えられれば結も自信になる。まだバッターもタイミングを合わせられていないみたいだし、もう少し真っ直ぐを続けてみるか)


 四球目、結の投げたストレートは中本の胸元を通過する。ボールとはなったが、中本は決して見極められたのではなく、手が出なかったに過ぎない。それを察したバッテリーは五球目もインコースのストレートを使う。今度は結が低めに投げ切れるよう、菜々花はミットを中本の脛の辺りまで下げて構えた。


(これで決められなかったら変化球を挟もう。けど結の力なら、こういう時に決め切れるはずだよ)

(菜々花さんの構え、雰囲気が少し変わったか? この一球で決めろって言ってるのかも。良いでしょう、決めてやりますよ! ……ただし、これまでとやることは変えずにね)


 結は瞼を力無く下ろし、一瞬だけ目を瞑ってから投球動作を起こす。彼女の投げたストレートは、菜々花のミットをほとんど動かすことなく直進した。打ちに出るしかない中本は力負けしないよう歯を食い縛ってスイングするも、バットから低く重たい音が鳴るだけに留まる。


「ファースト!」


 一二塁間に当たり損ないのゴロが転がる。逆シングルで捕球した嵐が二塁へと投げ、まず東をアウトにする。送球を受けた京子は併殺を狙って一塁のベースカバーに入っていた結にボールを送るも、こちらはセーフとなった。この間に二塁ランナーの長谷川が三塁に進む。


 一気にピンチ脱出とはならなかったものの、ツーアウト目を取ることはできた。結としてもストレートのみで抑え切ったことに大きな手応えを得る。


(最後の一球はめっちゃ良い感触で投げれた気がする。ちゃんと良いコースに投げていれば抑えられるってことなんだ。あと一つのアウトもしっかり取るぞ!)


 マウンドに戻った結はロジンバッグを触り、今一度高まる感情を沈めてから次打者に目を向ける。楽師館の打順は一番に返っていた。


《一番ショート、円川さん》


 右打席に入った万里香は足元で何度かバットを揺らしつつ、ゆったりと打つ姿勢を作る。愛らしい丸い瞳がほんの少し角張り、その表情は伸るか反るかの勝負に挑む戦士の顔付きへと変わった。彼女のことは事前に真裕から聞いていた結だが、威光すら放つ立ち姿から、他の選手とは格が違うことをその身で悟る。


(この人が真裕さんの言ってた円川さんだな。確かに打ちそうというか、ウルトラやばい匂いがぷんぷんしてくる。手合わせできるのが嬉しいよ)


 結は最終局面に来て最大の難敵を相手にする。だが決して気圧されることなく、万里香と対戦できることに喜びを感じていた。この前向きな思考こそ、彼女の最大の長所かもしれない。


 初球、結は万里香の臍付近にストレートを投じる。一塁ランナーの東が二塁へ盗塁を仕掛けていたが、菜々花は危険を冒して刺しにいくことはしない。投球は万里香が見送ったためストライクとなった。


(へえ……。結構良い真っ直ぐを投げるじゃん。投げっぷりも活きが良いし、通りで私たちの打線にも通用するわけだよ。これは将来が楽しみだ。けど私は抑えられないかな)


 万里香は一球見ただけで結の素質を見抜く。しかし実力の上では彼女に分があることは明白であり、結以外の亀ヶ崎の選手ですらもそれを分かっている。東が二塁に進んだことで一塁が空いたため、敬遠策もあるにはあるが、結たちバッテリーはこのまま勝負を続行。全力を挙げて万里香に立ち向かう。



See you next base……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ