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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第二章 日本一を目指すということ
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22nd BASE

 八回表。一点差に詰め寄られた女子野球部は、ツーアウトながら二、三塁のチャンスを作り、打席に三番のオレスを迎える。


 三回に先制点を挙げる一打を放ったオレスだが、以降は凡退が続いている。彼女も政野の細かな変化球に手こずっていた。


(いくら先制打を打ったからって、こういう試合を決める場面で凡退してたら、役割を果たしたなんて言えない。何としてもランナーを還す!)


 初球、外角のカットボールにオレスは空振りする。彼女としてはミートポイントを合わせてスイングしているつもりでも、微妙に外されているようだ。


(パワーのある打者なら芯から多少ずれても力で押し込めるんでしょうけど、私にはそれができない。だからやることは一つ。芯で捉えられるよう、とことんまで調節していくしかない)


 二球目はボールとなり、次が三球目。インコースへ真っ直ぐ進んできた投球は、ベースに達する直前で僅かに沈む。打ちに出るオレスだったが、これも捉えることができない。


「サード!」

「オーライ」


 バットの根元で打った力の無いゴロを、サードが捌いて一塁に送球する。タイミングはアウトだったものの、その前に球審がファールの判定を下していた。捕球する寸前でファールゾーンに切れていたのだ。


「むう……」


 一命を取り留め、オレスは打席へと戻る。ただしその表情からは微かな苛立ちが伺える。


(ちょこまかと本当にうざったい変化をしてくるわね。嫌になっちゃう。けどだからって白旗上げるわけにはいかない。それに私が求めているのは、こういう困難を打破して頂点に立つことでしょう)


 オレスが亀ヶ崎へと編入する前に所属していた女子野球部は、お世辞にも強いとは言えなかった。そのため対戦相手もそれほどレベルは高くなく、彼女はとても物足りなさを感じていた。


 だが亀ヶ崎の女子野球部に入ると、環境は一変する。高校生という枠に囚われない強豪チームとも対戦するようになり、その中で数多の好投手と巡り会ってきた。それに比例して凡打も増え、壁にぶつかる経験も重ねているが、一皮剥けて成長するチャンスでもある。だからオレスにとってはこの苦しい状況も、ある種のモチベーションとなっている。


 四球目はアウトコースのストレート。男子野球部バッテリーが意図したかのようにストライクゾーンからは大きく外れており、オレスは全く反応せずに見送る。


(ここで遊び球を入れてきたの? 随分と余裕はあるじゃない。けどこれで、次の球で決めにくることは間違いない。返り討ちにしてやる)


 オレスが一度ヘルメットを脱ぐ。露わになった金色の髪は汗の(しずく)の光で一層の輝きを放ち、政野ら見る者に神々しさすら感じさせる。しかし当の本人はそんなことなど知らず、あっさりと汗を拭ってしまった。そうして些細な気分転換をしてヘルメットを被り直す。


 カウントはツーボールツーストライク。オレスが思っているように、次が勝負の一球であることは政野も理解している。セットポジションに入った彼は自らの心と体が調和する瞬間を待ってから投球動作を起こし、短い声を上げながら五球目を投じた。


「はっ!」


 投球はオレスの背中に向けて放たれ、真ん中やや外寄りへゆっくりと曲がっていく。球種はカーブだが、これまで投げられていたものと比較して変化が大きい上、速度も遅い。政野はとっておきのウイニングショットとして使ってきたのである。


(カーブが来るとは思っていたけど、これまでよりも切れが良くなってる。でも他の球に付いていけていない以上、打つならこれしかない)


 オレスはテークバックを取る際に上げた左足を、一旦垂直に下げる。体が若干よろめくも何とか堪え、投球が自分の間合いに入ってきたタイミングで踏み込んだ。自分から逃げていく変化の軌道と重ねるようにバットを出し、ライト方向へと流し打つ。


 打球は内野手の頭を越える程度の小さなフライとなる。バットの上面に擦ったようで、バッティングとしては決して良くない。


「くそっ……」


 情けなさを感じたオレスは、一瞬視線を落としてから走り出す。打った瞬間、アウトになると半ば悟っていた。


「ライト! 前! 前!」


 ところが打球は、守備側にとって非常に困る位置に飛ぶ。落下点はライト線際。ファーストもセカンドも微妙に追い付けそうになく、捕るならライトしかいない。そのライトもチームメイトの声に押されて前進するが、打球はそれを待たずして落ちてくる。


「おりゃあ!」


 ライトが身を投げ出すようにして飛び込み、打球を掴みにいく。伸ばしたグラブの先にボールが引っ掛かった。


「フェア!」


 しかしライトは捕球し切れない。グラブから零れて地面へと触れたボールは、一塁側のファールゾーンを転々とする。それを拾ったファーストの吉岡が本塁の方を振り向くも、既に二塁ランナーもホームベースを踏んでおり、彼は投げることを諦めるしかない。


「おっしゃー! 二点追加!」

「オレス、ナイスバッティング!」


 喉から手が出るほど欲していた追加点を挙げ、女子野球部ベンチは歓喜に沸く。ただし打ったオレスは、一塁ベース上で不景気な顔をして首を横に振っている。


(どこがナイスよ。偶々ヒットになっただけじゃない。私もまだまだね……)


 オレスは全くもって納得できていなかった。この試合で大事なのは、結果よりも内容。自分の思い通りに捉えられなかった以上、如何に二人のランナーを還したと言っても満足してはならない。これは彼女だけでなく、他の選手全員に共通することである。


 自分のやるべきこと、やりたいことをやろうとしたかどうか。やろうとしたならば、それができたのかどうか。できなかったのならば、できるようにするためにはどうすれば良いのか。反対にできたのならば、次のステップに行くために何をするべきなのか。


 たった一試合を(こな)しただけでも、考えることはたくさんある。反省と改善を何度も何度も繰り返し、突き詰めた者こそ、夏の大会で笑えるのだ。


「アウト、ゲームセット」


 試合はそのまま四対一で終了。エースの真裕を始め投手陣が好投、打撃陣は一人一人の力を合わせて作ったチャンスをオレスが活かし、三打点を記録した。結が初登板を果たすなど楽しみな要素も見られた中、女子野球部は新年度の初陣をチーム一丸となっての勝利で飾った。



See you next base……

PLAYERFILE.9:春木結(はるき・ゆい)

学年:高校一年生

誕生日:6/20

投/打:左/左

守備位置:投手

身長/体重:156/54

好きな食べ物:プリン、焼き肉

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