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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第二章 日本一を目指すということ
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21st BASE

 降板した結は、自らの油断がチームの努力を無下にしかねなかったと知り、背筋が凍るのを感じる。口からは自然と謝意が零れていた。


「すみませんでした……」

「分かってもらえたなら良かった。恐い言い方をしちゃってごめんね」


 真裕が結の頭を撫でる。その面持ちは暖かなものに変わっている。


「こういう話ができるのも、結ちゃんに実力があるからだよ。今日だって最後までに気を抜かずに投げられていれば、少なくとも失点はしなかったと思う」

「……そうですかね?」

「うん。今日の反省を活かしてこれから取り組んでいければ、夏大でも投げられるよ」

「夏大……! 今年のですよね⁉ 投げたいです!」


 結の顔が薄らと明るくなる。苦々しい初登板となったが、辛酸を()めるのは早い時期の方が良い。彼女にはこの先、活躍するべき舞台がたくさん控えているのだから。


「私、もっと成長します! 守備も上手になります! 油断しないように心も鍛えます! だから真裕さん、兄弟子として手解きをお願いします!」

「あ、兄弟子?」


 突拍子の無い結の発言に、真裕は困惑する。それに対して結は、尤もらしく猛然と言葉を連ねる。


「そうです! 真裕さんは飛翔さんの妹じゃないですか。言わば一番弟子みたいなものです。そしたら私は二番弟子に当たりますので、真裕さんは兄弟子になりますよね!」

「ああ……。そ、そうだね」


 結の勢いに気圧され、真裕は考える暇も与えられず納得してしまう。果たしてこれで良いのかは分からないが、ひとまずここに新たな師弟関係が成立。一瞬にして結の憂いは吹き飛び、希望に満ちるのだった。


「ふふっ、これからが更に楽しみになりました。夏大で旋風を巻き起こせるよう頑張りますので、期待していてくださいね!」


 試合は八回表に入る。真裕の言ったように、女子野球部は一人一人の選手が勝利に向けて丁寧なプレーを重ね、終盤でリードした展開に持ち込んでいる。

 しかし二得点に留まっているのは非常に寂しい。特に足立の後を受けた政野を打ちあぐねており、結局ここまで続投を許してしまっている。前のイニングで男子野球部が追い上げを見せたので、悪い流れを断ち切る攻撃がしたい。


 この回は菜々花の打席から始まる。キャッチャーとして真裕や結を支えてきた疲労感もあるが、もう一踏ん張りして追加点への口火を切れるか。


(ピッチャーが代わってから、ランナーもあんまり出なくなったな。フォアボールは望めないし、打って繋ぐことも簡単じゃない以上、少ないヒットで点を取るしかない。そのためには先頭の私が塁に出ることが大事だ)


 初球、政野の投球がインコースに来る。打って出る菜々花だったが、バットからは鈍い音が響き、三塁側のファールゾーンに弱いゴロが転がる。


(スイングするタイミングは悪くない。それでも捉えらないのは、打つ寸前でボールが微妙に動いてるんだ。皆それに対応できずにここまで来ちゃってる。どうしたら良いんだろうか……)


 菜々花が苦慮する中、二球目は外角にカーブが投じられた。ボールにはなったものの、これがまた打者の頭を悩ませる。緩く大きく曲がることで目先を変えられ、その前後の細かな変化球にも付いていけなくなるのだ。


(カーブの後だから、次はきっと真っ直ぐかカットボールだ。けどこの二つ、打つまでほとんど違いが分かんないんだよね。そこは本当に厄介。ここはひとまず、真っ直ぐに張ってバットを振ろう)


 半ばやけくそ気味の菜々花であるが、腹を括って狙い球を定める。三球目、真ん中低めのコースに直進してきた投球を、彼女はフルスイングで打ち返す。


 しかし打球は三塁線沿いのゴロとなる。政野の投げた球種はカットボール。菜々花はバットの下面で打たされてしまった。


「オーライ」


 サードがベースの後ろに回り込み、打球が自分の元まで転がってくるのを待つ。菜々花は懸命に走るも、タイミングは完全にアウトだろう。


「え?」


 ところが何と、打球が三塁ベースに当たって跳ね上がった。サードはジャンプして捕球せざるを得なくなり、その後の動きが大幅に遅くなる。加えて着地時の重心が踵に掛かってしまったため、強い送球を投げられない。


「セーフ」


 このタイムロスのおかげで、僅かながら菜々花が送球よりも早く一塁へと達する。当たり前のことかもしれないが、最初から最後まで全力疾走を怠らない姿勢が功を奏した。


「おお……、こんなことってあるんだ」


 菜々花は驚きつつも、内野安打となった幸運に仄かな嬉しさを示す。待望のノーアウトでのランナーに、女子野球部は久々の盛り上がりを見せる。


「ラッキー! このチャンスを活かすぞ!」

「点を取られた分やり返してやろう! 倍返しだ!」


 後続の打者が送りバントを決め、菜々花を二塁へと進めた。打順は一番へと戻って京子に回る。


(前の回の本塁アウトと言い、さっきの菜々花の打球と言い、一点差には詰め寄られたけど、まだこっちに運は傾いてる。それを利用して、ここは打つ以外のことをしてみても良いかもね)


 男子野球部の守備隊形を目だけで確認しながら、京子は打つ構えを整える。初球、政野は外に少し曲がる変化球を投げてきた。


(このコースならやりやすい。やるなら一発で決めるしかない!)


 京子は投球が変化する瞬間を見計らい、バットを寝かせる。マウンドの右へ強めに転がすセーフティバントを仕掛けたのだ。


「ピッチャー!」

「……無理! ファースト!」


 初めに政野が捕球を試みたが、追い付けずファーストの吉岡に託す。吉岡は逆シングルでボールを捕ると、彼と入れ替わるようにして一塁ベースへと向かっていた政野にトスを送る。


「急げ政野! ランナー来てるぞ!」

「まじか……」


 トスを受けた政野がスピードを上げる。京子も負けまいと全速力で走る。競走に勝つのはどちらか。


「セーフ、セーフ!」


 勝者は京子。政野たちの連携も悪くなかったが、一寸の差で彼女が上回った。


「よし、上手く行った」


 自らの作戦が成功し、京子はしたり顔を見せる。今の男子野球部のバント処理に関して、通常ならばセカンドの廣田が加わって三人でプレーすることができる。だが彼は菜々花がランナーにいたことで二塁ベース寄りに守っており、結果的に政野と吉岡は一人欠けた状態でのプレーを強いられた。


 加えて政野は投球を行ってから守備に回るので、どうしても一塁へのベースカバーなどに遅れが生じてしまう。京子はそうした点を計算に入れた上で、セーフティバントを行ったのである。


 続く打者はファーストゴロに倒れ、挟殺の末に菜々花がタッチアウトとなる。女子野球部のチャンスはツーアウト二、三塁に変わり、打席に三番のオレスが立つ。



See you next base……

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